表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不可思議道具店  作者: 伊達幸綱
203/317

第65話 ハートシェイカー 中編

どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。

 空に黒く厚い雲が広がり、強い雨が降り注ぐ夕方、とある民家のリビングでは一組の夫婦が哀しそうに項垂れていた。


「あの子……本当にどこへ行っちゃったのかしら……」

「やっぱり、今朝の俺達の言い争いを聞いてたんだよ。それで責任を感じていなくなったとか……」

「あの子に責任なんてないのに……」

「金なら幾らでもあるから、誰かあの子を見つけてくれ……」


 二人が暗い表情を浮かべていたその時、玄関のチャイムが鳴り、二人はハッとしながら顔を上げると、すぐさま玄関へと向かった。

玄関のドアを開けてみると、そこには『繋ぎ手』と助手の妹、そして桃色のパーカーに深緑色のスカート姿に着替えた少女の姿があり、両親の表情はパアッと明るくなる。


「よ、良かった……! 怪我とか具合悪いとかはない?!」

「……うん、大丈夫。さっきまでこのお姉ちゃん達のお家にお世話になってたから」

「そうだったのか……君達、本当にありがとう。謝礼は幾らが良い? もしそれに足りなければ今からでも金を……」

「いえ、お礼なんて大丈夫です。それよりもこの子の話をしっかりと聞いてあげてください。それが何よりのお礼になりますから」

「この子の……」

「話を……?」


 両親が不思議そうに言うと、少女は手に持っていた『ハートシェイカー』を一度鳴らしてから両親の目をまっすぐに見つめた。


「お父さん、お母さん、もうこんな生活は止めようよ。お金があって、色々な物を好きに買えたって私は何も嬉しくない。むしろ息苦しくて仕方ないんだよ」

「え……?」

「私、少しでも生活が楽になったら良いなって思って宝くじが当たりそうなところを『幸呼笛』の力を使って教えてもらった。でも、お父さんもお母さんも宝くじが当たってお金持ちになったら考え方も性格も変わっちゃった。

私はこんなお父さんもお母さんも嫌い。私は貧乏でも良いから、前みたいにお父さんとお母さんと一緒に小さな事でも良いから笑ったり話したりする生活の方が良いの。家族みんなで仲良くしてたあの頃の方が……!」


 少女の目に涙が浮かび、声も涙混じりになると、両親は顔を見合わせ、申し訳なさそうな表情を浮かべて少女を優しく抱き締めた。


「ごめん、ごめんな……俺達が間違ってたよ」

「そうね……お金があるから気持ちも大きくなってたけど、貴女がいなくなった途端に心にぽっかりと穴が空いた感じがして、何を見ても満たされなかったわ。本当にごめんなさい……」

「お父さん、お母さん……うん、私こそいきなりいなくなってごめんなさい。本当は私だけの力と言葉で伝えたかったけど、お父さんとお母さんが話を聞こうとしなかったらって思ってまた別の道具の力も借りちゃった……」

「いや、そうしてくれて良かったよ。たぶん、その力がなかったら本当に俺達は金の力で全部を解決しようとして、またお前を悲しませるところだったからな」

「お金はたしかに大事だけど、もっと大事なのは貴女の存在だって気付かせてくれたんだもの。道具の力を使った事を謝ったり悔やんだりする必要はないわ」

「うん、うん……!」


 両親に抱き締められながら少女が嬉し涙を流し、その様子を『繋ぎ手』と助手の妹が見守る中、家族のこれまでのぎこちなさや不和を洗い流すように強い雨が降り続けていた。

いかがでしたでしょうか。

今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。

それでは、また次回。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ