第64話 幸呼笛 後編
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
「ん……」
空に薄く雲がかかり、風も少し冷たいある日の朝、少女は目をゆっくりと開け、周囲を軽く見回すと、哀しげにため息をつく。
「……やっぱり、この部屋の状態は慣れないなぁ……」
部屋には白いレースのカーテンや光沢のある家具などが置かれていたが、そのどれもが高級感溢れる物であり、少女はベッドから体を出して立ち上がると、ベッドをジッと見てから哀しそうな顔をする。
「このベッドの寝心地は最高だし、部屋の家具はどれも高い物だから、使える事自体はすごいと思う。でも、やっぱりこんなの間違ってるよ……」
少女の目にうっすら涙が浮かんでいると、部屋のドアがコンコンとノックされ、高級そうなパジャマを着た父親が部屋へと入ってきた。
「おはよう、今日のお目覚めはどうだ?」
「……悪くないよ。それより……お父さん、そろそろお仕事探したら?」
「何でだ? 仕事なんてしなくても十分ウチには金はあって、生活にも困ってないんだから、別にこのままでも良いだろ? あ、もしかしてそう言うように言われたか?」
「ち、ちが──」
「アイツ……自分だって『幸呼笛』のお陰で良い生活をさせてもらえてるのに、そんな事を言わせようとしてたのか。最近、どっかの若い男とも一緒にいるところも見かけたし、これは少しガツンと言わなきゃないか」
「ち、違うよ……」
「よし……ちょっと話をしてくるか。ごめんな、少しうるさくなるけど、我慢しててくれ」
そう言うと、父親は少女の表情にも気づかずに部屋を出ていき、少女は机の上に置かれた『幸呼笛』を持って自分もすぐさま部屋を出て、両親がいるであろうリビングへと向かった。すると、リビングには少女にとって辛い光景が広がっていた。
「お前、あの子にまで俺に働くよう言わせたのはどうかしてるぞ!」
「はあ? そんな事、言わせるわけがないでしょ? 働いてないのを心の中では申し訳ないと思ってるからそう思い込んだだけよ。無職のくせにお金があると思って若い女の子と遊び呆けたり朝帰りしたり……歳を考えなさいよ、このエロ親父」
「お前だって俺じゃない男と出掛けたり言えない事をしたりしてるんだろ? お前みたいな年増を相手にしてるのは、金目当てだって気づけないのか? この尻軽女!」
「なんですって!」
高級そうな家具に囲まれたリビングで両親が言い争うその姿に少女は哀しそうな表情をすると、そのまま玄関へと向かい、靴を履いて外へと出た。
「……もう、こんなの嫌だよ。最初は少しは生活が楽になればと思って宝くじが当たりそうなところを青い鳥に教えてもらったけど、それが本当に当たった事で二人ともあんなに変わっちゃった。
お父さんも青い鳥に教えてもらってようやく見つけた会社をすぐに辞めちゃって目についた物をすぐに買ってくるようになったし、お母さんも化粧品や服を幾つも買ってきては、すぐに飽きたからいらないなんて言って捨てるようになった。
でも、これは『幸呼笛』や青い鳥のせいなんかじゃない。二人を止められなかった私と家族が仲良くいる事が大切だって忘れちゃったお父さんとお母さんのせいなんだ……」
少女は目に涙を浮かべながら呟いた後、『幸呼笛』を吹いた。すると、どこからか青い鳥が現れ、少女の肩に静かに留まる。
「ピイッ」
「……青い鳥、お願い。今の私にとって必要な人のところへ連れていって。今の家にはいたくないし、このままじゃ良くないってわかってるから」
「ピイッ!」
青い鳥が翼を上げながら答えた後、少女は青い鳥の案内に従ってゆっくりと歩き始めた。
いかがでしたでしょうか。
今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。
それでは、また次回。




