第63話 ヒーリングスタチュー 前編
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
「はあ……今日も仕事でクタクタだ」
日も沈みきり、辺りが暗くなった夜、くたびれたスーツ姿の男性は俯きながらとぼとぼと歩いていた。
「ウチの会社、本当に人使いが荒いよな。まあ、定時で帰れたり休日があったりする分、ブラックとは言えないけど。ただ、やっぱりこんなにも疲れてると、何もやる気が起きないし、恋人が出来てもしっかりと付き合っていける気がしない……はあ、何か良い方法はないかな……?」
男性が呟くように言っていたその時だった。
「そこのお兄さん、ちょっと良いですか?」
「え……?」
突然背後から聞こえてきた声に立ち止まり、男性が不思議そうに振り返ると、そこにはにこにこ笑うセーラー服姿の少女と真剣な表情を浮かべる学生服姿の少年がいた。
「君達は……?」
「私達は道具と人間の橋渡し役とその助手君です。ところで、なんだか落ち込んでるようでしたけど、何かあったんですか?」
「あ、ああ……仕事疲れがすごくてさ。別にブラック企業ってわけじゃないんだけど、色々な仕事をしてるから疲れが溜まってて、この疲れをどうにか出来ないかって思ってたんだ」
「疲労の回復……『繋ぎ手』、バッグを見せてくれるか?」
「うん、もちろん」
『繋ぎ手』が返事をしながらバッグを下ろし、助手の少年はバッグの中に手を入れると、中から銀色の天使の像を取り出した。
「それは……天使の像?」
「この子は『ヒーリングスタチュー』という名前で、部屋に置いておくと夢の中に天使が現れて、その人の心身の傷や疲れを癒してくれるんです。」
「へえ……それはすごいな。因みに、どれくらい癒してくれるんだ?」
「骨折みたいな物は一日では無理ですけど、擦り傷や筋肉痛くらいなら起きる頃には完治しますよ。そして、この子はお兄さんにプレゼントします。大切にして上げてくださいね」
そう言いながら『繋ぎ手』が男性に『ヒーリングスタチュー』を手渡そうとすると、男性はとても驚いた様子を見せた。
「えっ、良いのか……?」
「はい。この子は店頭に並べられなかったり試作品だから渡しても良いって言われたりしてる子なので遠慮なくどうぞ」
「……まあ、そういう事ならありがたくもらうか。どうもありがとう」
「どういたしまして」
「ところで、『繋ぎ手』。これには何か注意点ってないのか?」
「そうだね……一日で癒せる限界があるのもそうだけど、夢の中の天使に恋してはいけないっていうのが一番の注意点かな」
「天使に恋してはいけない……」
「はい。男性なら女性の天使が、女性なら男性の天使が現れるんですが、その天使に恋してしまうと、大変な事になるので注意してくださいね」
『繋ぎ手』の言葉に男性は静かに頷く。
「……わかった。どんな天使が来てくれるかわからないけど、それは気を付ける事にするよ」
「ありがとうございます。それじゃあ私達はそろそろ失礼します。その子、大切にしてあげてくださいね」
「ああ、もちろんだ。二人も気をつけて帰ってくれよ?」
「ありがとうございます。それじゃあ失礼します」
『繋ぎ手』達が去っていくと、男性は手の中にある『ヒーリングスタチュー』に視線を落とした。
「夢の中に天使が現れる像……まあ、話が本当かはわからないけど、とりあえず部屋に置いて試してみるか。話が本当なら、生活も充実するはずだしな」
微笑みながら言った後、男性は『ヒーリングスタチュー』をしっかり持ってそのまま歩き始めた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。




