第62話 レインボーキャンディー 後編
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
「……よし、今日も一日頑張らないと」
うっすらと空に雲が広がるある日の朝、少女は通っている学校の廊下を歩きながらやる気に満ちた目で独り言ちる。その手には『レインボーキャンディー』が入ったガラスの瓶があり、少女は信頼しきった視線を『レインボーキャンディー』へと向けていた。
「この『レインボーキャンディー』のおかげでセリフも前より感情が乗ってるって言われるようになったし、みんなからも一目置かれるようになった。
そのせいかたまに自分はみんなよりも優れてるんだとかみんなにはもっと頑張ってもらわないととか思っちゃう時はあったけど、そんな事考えたってしょうがないし、みんなに失礼だ。ダメダメだった私にアドバイスをくれたり見守ったりしてくれてたんだから、みんなにも感謝しないと」
そう独り言ちる少女の表情と声には演劇部の部員達への信頼と親愛がこもっており、そのまま歩いていた時、前方から『救い手』が歩いてくるのが見え、少女は嬉しそうな様子で声を上げた。
「あっ、あの人は……!」
「……おや、この前のお嬢さん。少し様子を見にきたけど、元気そうで何よりだよ」
「はい、この『レインボーキャンディー』のおかげで部活動も楽しく出来るようになりましたし、恋人も出来たんです。
たまに調子に乗りそうな時もありますけど、そんな気持ちはすぐに無くしてみんなと一緒に頑張ろうと思って『レインボーキャンディー』に頼らなくても良いように毎日頑張ってます」
「そうかそうか。それに、白と黒の飴もなめていないようで良かった」
「そういえば、その二色はなめちゃダメなんですよね。なめたら何が起きるんですか?」
「それぞれ異なる変化が起きるんだけど、白はなめた瞬間に自分の中の感情が全てまっさらになってそれ以降も感情は戻ってこないし、黒は全てをマイナスに考えるようになって、自分を含めた誰も信用出来ないような人間として一生生きる羽目になってたよ」
「それは……怖いですね」
「ああ。だから、これからも白と黒の飴は無視した方がいい。もっとも、嫌な相手がいたら、わざと食べさせるなんて事も出来るけどね」
『救い手』はフードの陰で妖しく笑ったが、少女は微笑みながら首を横に振った。
「出来ますけど、私はしないです。そうする事で自分にとって嫌な相手をどうにか出来てもその後に後悔すると思いますから」
「……そうか。さて、それじゃあボクはそろそろ失礼するよ。『レインボーキャンディー』とこれからも仲良くね」
「はい、それじゃあ失礼します」
そう言って少女が歩き去っていくと、『救い手』はそれを見送りながら少し嬉しそうな笑みを浮かべた。
「……高めた悪意や邪念をあそこまで無視出来るなんてね。彼女は相当良い子なんだろう」
『あまりいないタイプだよな。けど、今の会話中に悪意や邪念は全部戻したんだろ?』
「ああ、戻したよ。彼女のようにボク達の側の道具とも仲良く出来る相手がもっと増えてほしいものだね」
『たしかにな。そういえば、『ジーニアスミサンガ』はどうする?』
『未だに彼女らの手元にありますからね。またお店まで行って回収しますか?』
「……いや、大丈夫さ」
『ん、なんでだ?』
「彼女らが『ジーニアスミサンガ』に対して危害を加える事はないからね。それに……」
『救い手』はそこで一度言葉を切ると、クスリと笑いながら言葉を続けた。
「どうやら、『ジーニアスミサンガ』には“もう一人”縁者がいたようだからね」
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それでは、また次回。




