第62話 レインボーキャンディー 前編
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
「はぁ……どうしたら良いかな……」
空がオレンジ色に染まった夕方頃、一人の少女が肩を落としながらとぼとぼと歩いていた。
「部活紹介の時の先輩達の劇に感激して演劇部に入ったは良いけど、私の演技にまったく感情が乗ってないせいで、先輩達や他の子達に迷惑をかけ続けてるのはやっぱり辛いなぁ。
でも、うまく感情を乗せるっていうのもよくわかってない感じがするし……はあ、本当にどうしたら良いんだろう?」
落ち込む少女の目に涙が浮かび始めたその時だった。
「やあ、そこのお嬢さん。ちょっと良いかな?」
「えっ……?」
突然背後から聞こえてきた声に驚いて立ち止まり、恐る恐る少女が背後を振り向くと、そこには黒いパーカーのフードを顔を隠し、首から黒いカメラを提げた人物がいた。
「あ、あなたは……?」
「ボクは恵まれない人の救世主だよ。それで、なんだか落ち込んでいるようだったけど、何かあったのかな?」
「……実は演劇部での活動がうまくいかなくて困ってたんです。先輩達の演技に憧れて入ったけど、演技に感情が乗ってないみたいで思ったような演技が出来なくて……」
「なるほどね……うん、それなら彼女に任せようか」
そう言いながら『救い手』は背負っているリュックサックから様々な色の飴が入ったガラスの瓶と何かが書かれた小さな紙を取り出した。
「これは……?」
「これは『レインボーキャンディー』という名前で、この飴にはなめた相手がそれぞれ色に応じた感情をその日だけ好きなように昂らせられるようにする力があるんだ。赤いイチゴ味なら怒り、黄色いレモン味なら喜びといったようにね」
「感情を好きなように昂らせる……それじゃあ朝になめておけば、その日だけならどんな感情でもすぐに出せるんですね」
「そういう事だね。という事で、これはお嬢さんにプレゼントするよ。大切にしてあげてくれ」
そう言いながら『救い手』が『レインボーキャンディー』が入った瓶と紙を手渡そうとすると、少女は一瞬驚いてから申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「た、ただで貰うなんて申し訳ないですよ……それに、その飴の力を借りたって本当の意味で感情を乗せられているわけではないですし……」
「たしかにそうだね。だけど、『レインボーキャンディー』の力を借りてその練習をするというなら悪くないんじゃないかな?」
「感情を乗せる練習……」
「そうだ。何もないところからやるよりもこういう感情なのだとわかってる状態でやるのとではだいぶ差が出る。わかっている分、飲み込みが早くなるからね」
「…………」
「まあ、それでも断るというのならそれでも構わないさ。強制する事でもないからね」
『救い手』の言葉を聞いて少女は目の前にある『レインボーキャンディー』をジッと見つめると、覚悟を決めた様子で受け取った。
「……私、やってみたいです。もうこれ以上、みんなに迷惑はかけられないですから」
「うん、その意気だよ。ただ、この『レインボーキャンディー』には注意点があるから、それだけは守ってくれ」
「注意点……食べ過ぎはダメとかですか?」
「いや、全色を一度に食べる分には問題ない。食べた色の飴は翌日にはまた現れるからね。ただ、稀に現れる“白と黒の飴”だけは食べてはいけないよ。その日が終われば消えるから、見つけても無視してくれ」
「それを食べるとどうなるんですか?」
「後悔するくらい大変な事になる。だから、決して食べてはいけないよ」
「わ、わかりました」
「うん、よろしい。それじゃあボクはこれで。『レインボーキャンディー』をどうか大切にしてあげてくれ」
「わかりました。気をつけて帰ってくださいね」
少女の言葉に『救い手』が頷いてゆっくりと歩き去った後、少女は持っている『レインボーキャンディー』が入った瓶と紙に視線を落とした。
「……感情を好きなように昂らせる事が出来る飴、か……どれだけの効果があるかはわからないけど、もうみんなに迷惑をかけたくないのは本当。だからお願い、私に力を貸して……」
少女は祈るように言いながら目を瞑って『レインボーキャンディー』が入った瓶に額をつける中、瓶の中の『レインボーキャンディー』は夕日を反射してキラリと輝いた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。




