第60話 ジーニアスミサンガ 前編
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
よく晴れたある日の昼過ぎ、穏やかな空気が満ちる喫茶店の店内で『救い手』が飲み物を飲みながら和んでいると、コピーの兄は少し不安そうな様子で『救い手』に話しかけた。
「なあ、本体の俺達にそろそろここが拠点だってバレるんじゃないか?」
「そうだよ、お姉ちゃん。この前だって『バインドチョーカー』のお姉さんが向こうが渡してた道具の所有者の関係者だったわけだし、近い内にここもわかっちゃうんじゃない?」
「その可能性はあるよ。だけど、それでも彼女は気付かない──いや、気付こうとしないだろうね」
「気付こうとしない?」
「君達にも言ったようにここは彼女の行きつけだ。だからこそここがボク達の拠点でマスターがボク達を匿っているなんて考えたくないんだよ。元を辿れば同じ存在だからね。彼女がそう考えるのも予想はつくよ」
「なるほど……」
「まあ、覚悟を決めてきたら流石にやってきて、マスターにも話を聞こうとするだろうけど、恐らくその時はまだ来ない。だから、二人も安心していいよ」
その言葉にコピー兄妹が頷いていたその時、ドアが開いてドアベルが鳴り、暗い表情の学生服姿の少年が店内に入ってきた。
「いらっしゃいませ、空いてる席へどうぞ」
「あ、はい……」
少年は暗い声で答えると、カウンター席の一つに座り、それを見た『救い手』は黒いパーカーのフードを深く被って顔を隠してから少年へと近づいた。
「やあ、そこの君。なんだか暗い表情だけれど、何か悩みでもあるのかな?」
「……お前は?」
「ボクは恵まれない人の救世主さ。話の内容次第では助けになれると思うよ」
「……実は、ウチの学校に行方不明になってた奴がいて、俺も同じクラスだったから心配してたんだけど、ソイツが少し前に戻ってきたんだ」
「へえ、それは良い事じゃないか」
「まあな。けど、それからというものソイツは前よりも格段に成績も上がった上に雰囲気もどこか成長した感じになってたからか頼りになる奴って事で相談なんかをする奴も増え始めた。それを見てたらなんだか羨ましく思えて、俺もどうにかしたいなと思ってたんだ」
「なるほどね。それなら、彼が役に立てるかな」
そう言いながら『救い手』が取り出したのは、虹色のミサンガだった。
「ミサンガ……なんだ願掛けでもしろって?」
「近い事ではあるかな。これは『ジーニアスミサンガ』という名前で、着けてる時にこういう事を解決したい思い付きたいって願えば、その解決策やヒントを教えてくれるんだ」
「へえ……それはすごいな」
「そしてこれは君にプレゼントするよ。大事にしてあげてくれ」
「え、良いのか?」
「ああ、遠慮せずにどうぞ」
「……まあ、そういう事なら貰っとくか。ありがとうな」
「どういたしまして。ただ、注意点があるからそこは気をつけてくれ」
その言葉に少年は首を傾げる。
「注意点?」
「ああ、着けてる間、誰かを妬んで傷つけようとしたり陥れようとしたりはしないでくれ。彼はそういう事が嫌いだから、それをすると大変な事になるからね」
「大変な事……わかった、それは守るよ」
「うん、ありがとう。せっかくだ、その彼について少し話を聞いても良いかな?」
「それは良いけど……なんだ、アイツに興味でもあるのか?」
「いや、もしかしたら知り合いかもしれないと思ってね」
「そうか。まあ、話すくらいどうって事ないし別に良いぜ」
「ありがとう」
『救い手』がお礼を言った後、少年は話を始めたが、それを聞く『救い手』の目は妖しい輝きを宿していた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。




