第58話 フェイクマスク 前編
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
「……どうにかならないかな」
オレンジ色の空が広がり、仕事や学校帰りの人々が自宅へ向かって街中を歩く夕方、周囲から警戒や恐怖の視線を向けられながら一人の男性がため息をついていた。
「……今日も周りからの視線が辛いな。まあ、こんなに強面の奴がいたら、そういう反応になるのも仕方ないけど、やっぱりそういう視線を向けられるのは悲しいな。けど、整形手術は抵抗もあってそのための金もないし……はあ、何か良い方法はないかな」
強面の男性が悲しそうに再びため息をついていたその時だった。
「そこのお兄さん、ちょっと良いですか?」
「え……?」
男性が不思議そうにしながら立ち止まり、背後に視線を向けると、そこにはセーラー服姿の少女と桃色のパーカーに緑色のスカート姿の少女がいた。
「君達は……というか、俺を見ても怖がらないのか?」
「あはは、怖がりませんよ。たしかに迫力のある顔だとは思いますけど、そのくらいじゃ私達は怖がりません。ねっ、妹ちゃん」
「うん。ところで、さっき暗そうにしてたのってもしかしてそれが理由ですか?」
「……ああ。昔から顔が怖いとか厳ついとか言われ続けてきたんだけど、そろそろそれも辛くなってきたから、どうにかならないかと思ってたんだ」
「顔をどうにかしたい……お姉ちゃん、バッグの中見せて?」
「うん、いいよ」
『繋ぎ手』が返事をしてバッグを下ろし、助手の少女はその中に手を入れると、中から白い顔のような物を取り出した。
「それは……?」
「この子は『フェイクマスク』という名前で、一見ただの変装用のマスクなんですが、この子をつけながらこういう顔になりたいって願う事で装着者はその顔になる事が出来るんです」
「つまり、テレビで人気の俳優やアイドルの顔を思い浮かべながらつけたら同じ顔になるってわけか」
「そういう事です。因みに、外したい時は外れてほしいって頭の中で考えれば自分から剥がれてくれるので、ドラマとかで見るような破って剥がすみたいなのはいらないですよ」
「そうか……」
「そして、この子はお兄さんにプレゼントします。大切にしてあげてくださいね」
そう言いながら『繋ぎ手』が『フェイクマスク』を手渡そうとすると、男性は申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「ありがたいけど、流石にそこまでしてもらうわけには……」
「ふふ、遠慮はいりませんよ。この子は店頭に並べられなかったり試作品だから渡しても良いって言われたりしてる子なので」
「……そうか。そういう事ならありがたく貰う事にするよ。どうもありがとう」
「いえいえ」
「ところで、この子には何か注意点ってあるの?」
「注意点……変えた後に顔に文句を言ってはいけないとかか?」
「そうですね。それを破ると大変な事になるので気をつけてくださいね」
「わかった。まあ、文句を言ってもしょうがないしな」
男性が頷きながら答えると、『繋ぎ手』は嬉しそうに微笑む。
「ありがとうございます。それじゃあ私達はそろそろ失礼します。その子の事、大切にしてあげてくださいね」
「ああ、二人とも気をつけて帰ってくれよ」
「わかりました。それじゃあお兄さん、また会いましょうね」
『繋ぎ手』達が歩き去っていくと、男性は手の中にある『フェイクマスク』に視線を落とした。
「……好きな顔になれるマスク、か。どんな事になるかはわからないけど、とりあえず力を貸してもらうとするか」
男性は独り言ちてから『フェイクマスク』をポケットにしまうと、そのまま自宅へ向けて歩き始めた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。




