第57話 映身書 後編
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
「はあ……今日も充実した日だったなぁ」
数多くの星が空で瞬き、静寂と漆黒の闇が支配する夜、少女は自室でベッドの上に寝転がりながら満ち足りた様子で独り言ちる。すると、部屋のドアが開き、分身の少女は部屋に入ってくると、そのだらけきった姿にため息をつく。
「またそんなにだらけて……お腹も出てるし、そのままじゃ体を冷やすよ?」
「平気だよ。それより頼んだ事は終わった?」
「本日三度目のお願いは済んだよ。それじゃあ私はそろそろ消え──」
「それなら今度は宿題をやってよ。私はこれから携帯を見るので忙しいからさー」
少女が寝転がりながら枕元の携帯電話に手を伸ばそうとしたその時、分身の少女はその姿を見ながらニヤリと笑う。
「……本当に良いんだね?」
「良いも何も分身なんだからさっさと言う事を聞いてよ」
「わかった。でも、貴女はこれで“四度目”のお願いをした事になるからね」
「そんなのどうでも良いから早く宿題を──」
その時、少女の手足は徐々に黒くなり始め、自身の体の変調に少女は恐怖を感じたように黒く染まっていく手足に視線を向けた。
「な……な、何これ……!?」
「貴女が今日四度目のお願いをしたからだよ。言われたでしょ? 一日に三回までしかお願いをしちゃいけないって」
「そ、そんな……私、これからどうなるの?」
「貴女はこのまま消えて、これからは私が貴女自身になるの。ほら、文言を思い出してみてよ」
「文言……あっ!?」
「そう。逆から読んだら“私は分身に存在を捧げる”になる。だから、これからは私が貴女になって貴女よりももっと貴女らしく生きてあげるよ」
「い、いや……消えたくない!」
少女が目に涙を溜めながら言うが、分身の少女はクスクスと笑いながら首を横に振る。
「無理だよ。それに最近はわたしが学校に行ったり両親と一緒に出掛けたりしてるから、周りから見たら私の方が貴女になってるんだよ。後、幼馴染みの彼だけど……実はちょっと前に告白されて、もう恋人同士になってるし、既に何回か体も重ねてるの」
「え……」
「彼、小さい頃から貴女の事が好きだったから結構お世話を焼いてくれてたの。それなのに、貴女はそれを迷惑がって……だから、その代わりに私が彼の事を愛してあげるし愛されてあげる。ただの幼馴染みじゃなく、愛し合う恋人同士としてね」
「そ、そんな……」
「バイバイ、“私”」
その言葉と同時に黒に染まった少女の姿は消え去り、分身の少女が満足そうにする中、赤い渦が室内に出現すると、中から『救い手』とコピーの兄が姿を現した。
「やあ、調子はどうかな?」
「うん、すこぶる良いよ」
「そうか……けど、あの子も自業自得とはいえ、哀しい最期になったよな」
「仕方ないよ。今回はボクが悪意と邪念を高めてないのにこんな結末になったんだから。こうなって両親も周囲の人も幸せになれるはずさ。ところで、『映身書』はどうする?」
「あー……私は使わないから回収してほしいかな」
「わかった。では、これからも良い人生を送ってくれ」
そう言ってから『救い手』が『映身書』を回収し、コピーの兄と共に赤い渦の中へ消えていくと、“少女”は楽しそうにしながら携帯電話を手に取り、嬉しそうな様子で電話を始めた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。




