第57話 映身書 前編
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
「はあ……今日も疲れた」
空が鮮やかなオレンジ色に染まった夕方、一人の少女が鞄を両手に持ちながらゆっくりと歩いていた。
「ほんと、学校めんどくさいなぁ。高校くらいは出ておきなさいなんて親が言うから進学はしたけど、特に面白い物もないし、男子で別にカッコいい奴もいないし、退屈過ぎて死んじゃうよ。
こんな事なら学校なんて行きたくないけど、サボったら親から何を言われるかわかったもんじゃないし……あーあ、何か良い方法はないのかなぁ」
少女が空を見上げながら独り言ちていたその時だった。
「そこのお嬢さん、少し良いかな?」
「え……?」
突然聞こえてきた声に驚きながら立ち止まり、少女が背後を振り返ると、そこには黒いパーカーのフードを目深に被って顔を隠した人物とその斗なりに静かに立つ少年の姿があった。
「……誰?」
「ボクは恵まれない人の救世主で彼は助手だよ。それで、なんだかつまらなそうにしていたけど何かあったのかな?」
「あ……うん、学校なんて行きたくないなぁって。特に行きたくて行ってるわけじゃないし、面白いわけでもないから、何かサボる方法でもないかなって思ってたの」
「学校をサボる、か……行きたい奴からしたら贅沢な事を言ってるけどな」
「ふふ、そうだね。それなら……うん、今回は君がベストだね」
『救い手』はそう言いながらリュックサックから小さな巻物を取り出した。
「それって……?」
「これは『映身書』という名前で、これに書かれている文言を唱える事で自分の分身を作り出す事が出来るのさ」
「分身を……それじゃあ分身に学校に行ってもらう事も!?」
「ああ、出来るよ。分身にも意思は好みなどはあるけど、基本的には作り出した本人の言う事はちゃんと聞いてくれるよ」
「す、すごい……ねえ、それってどこに売ってるの!?」
「これはボクが作り出した物だよ。そして、せっかくだから君にプレゼントしよう。大切にしてあげてくれ」
『救い手』がにぃっと笑いながら『映身書』を手渡そうとすると、少女は嬉しさと驚きが入り交じったような表情を浮かべた。
「え、良いの?」
「ああ、遠慮なくどうぞ」
「ありがとう! ふふ……これで私は好きな事をし放題だ……!」
「けど、『救い手』。これに注意点って無いのか?」
「そうだね……作り出した分身は何かをお願いしたらそれが終わるまでしかいられない事とその間は分身が本人だと周囲から認識される事、それと分身が受けた怪我や体調不良は本体にもフィードバックされる事くらいか」
「なんだかけっこうあるんだね」
「まあね。後、分身に何かをお願いするのは良いけど、お願いするなら日に三度までしておいてくれ。さっきの三つと違って、こちらは破ったら大変な事になるからね」
「大変な事……わかった、それは気をつけるよ」
少女が『映身書』をぎゅっと抱き締めながら答えると、『救い手』は満足そうに頷いた。
「それならよし。では、ボク達はそろそろ失礼しよう。くれぐれも注意点は守ってくれよ?」
「……それじゃあな」
「うん、バイバイ」
『救い手』達が去っていった後、少女は抱き締めていた『映身書』に視線を落とした。
「……分身が作れる巻物……なんだか不思議な物を手に入れたなぁ。でも、これで私の人生ももっと楽しくなるはず。ふふ……楽しみだなぁ」
呟く少女の目は妖しく輝き、再び『映身書』を強く抱き締めると、そのままゆっくりと歩き始めた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。




