第56話 トレジャーパズル 前編
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
「……ふぅ、今日も断っちゃったなぁ」
空がオレンジ色に染まり、辺りが少しずつ薄暗くなり始めた夕方、一人の少女が暗い表情でとぼとぼと歩いていた。
「まあ、もう今月のおこづかいがないから仕方ないんだけどね。ウチは他の家より月のおこづかいが少ないし、欲しい物はどんどん増えるから、あっという間に使いきっちゃうから本当に困っちゃうよ。
それに、ウチの学校はバイト禁止だから、空き時間を利用して稼ぐなんてのも出来ないし……あーあ、何か良い方法は無いかなぁ……」
少女がため息混じりに独り言ちていたその時だった。
「そこの君、ちょっと良いかな?」
「え……?」
突然背後から聞こえてきた声に少女が立ち止まり、ゆっくりと振り向くと、そこにはニコニコと笑うセーラー服姿の少女と隣に立つ学生服姿の少年がいた。
「君達は……?」
「私達は道具と人間の橋渡し役とその助手君だよ。ところで、なんだか暗くなってたけど、何かあったの?」
「あ、うん……友達から遊びに誘われたんだけど、今月のおこづかいがもう無かったから断っちゃって残念に思ってたの。ウチは他の家よりも月のおこづかいが少なくて、私はよく使っちゃう方だからよく無くなっちゃって……」
「なるほど、それならバイトをすれば良いんじゃないか?」
「ウチの学校はバイト禁止だから……」
「そういう事か……『繋ぎ手』、ちょっとバッグを見せてもらうぞ」
「はいはーい」
『繋ぎ手』が返事をしながらバッグを下ろし、助手の少年はその中に手を入れると、中から大きな額縁のような物と白く小さな物が幾つか入った袋を取り出した。
「え……今、そのバッグの中からそれが出てきたの?」
「そうだよ。この子は『トレジャーパズル』っていう名前で、こっちの袋に入った白いピースをしっかりとこの枠の中に填められると、出来上がった物に貴女が欲しい物が描かれて、翌日にはそれが手に入るんだ」
「それじゃあそれはジグソーパズルだったんだ。でも、欲しい物って自分じゃ選べないんだよね?」
「そうだね。描かれるのは貴女の欲しい物の中からランダムに選ばれるし、選ばれる欲しい物にも限度があるかな。そして、この子は貴女にプレゼントするよ。大切にしてあげてね」
そう言いながら『繋ぎ手』が『トレジャーパズル』を手渡そうとすると、少女は少し興味ありそうな反応をしたものの、申し訳なさそうに首を横に振った。
「いいよ、流石にそんなすごい物を無料では貰えないし……」
「遠慮はいらないよ。この子は店頭に並べられなかったり試作品だから渡しても良いって言われたりしてる子だからね」
「そうなんだ……そういう事なら貰ってみようかな。どうもありがとう」
「どういたしまして」
「ところで、コイツには注意点ってあるのか?」
「そうだね……必ずしも自分が一番欲しい物が貰えるわけじゃないっていうのもそうだけど、欲張ってパズルを一日に二回揃えようとしたらダメっていうのが一番の注意点かな」
「それをするとどうなるの?」
「やった事を後悔するすごく大変な事になるから気をつけてね」
「……わかった。大変な事にはなりたくないし、そうしないようにするよ」
少女が少し怯えた様子で答えると、『繋ぎ手』は満足そうに頷く。
「うん、そうして。それじゃあ私達はそろそろ帰るよ。その子、大切にしてあげてね」
「うん、わかった」
「それじゃあまたな」
『繋ぎ手』達が去っていき、手を振りながら見送った後、少女は掴んでいる『トレジャーパズル』に視線を落とす。
「……揃えたら欲しい物が手に入るジグソーパズル、かぁ。あまりパズルは得意じゃないけど、今日はもう暇になるし、たまには良いかもね」
微笑みながら言った後、少女は『トレジャーパズル』とピースが入った袋をしっかりと持ち、自宅へ向けて再び歩き始めた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。




