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不可思議道具店  作者: 伊達幸綱
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第55話 バインドチョーカー 後編

どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。

「……ふふっ、綺麗な夜景ですね」

「ああ、本当だね。この夜景を一緒に見られて良かったよ」


 満天の星空の下、あるホテルの屋上で色違いのチョーカーをつけた一組の男女が肩を寄せ合いながら眼下に広がる夜景を眺めていた。夜景を眺める女性の顔はとても嬉しそうだったが、男性はどこかとろんとした目をしており、女性の腰に回した手も時折何かを期待するように女性のへその辺りや腹部を撫で、女性は妖しい輝きを宿した目でチラリとそれを見てからクスリと笑う。


「けど、本当に良かったんですか? 今頃、娘さんはお家に一人でいるんじゃ……」

「良いんだよ、あの子はしっかりとしているから。それに、こうして君と一緒にいる方が俺にとっては大切なんだ」

「……ふふ、嬉しい」

「だからこそ、俺は君に言わないといけない事がある。聞いてくれるかな?」

「はい、もちろんです」


 女性が軽く頬を染めながら頷くと、男性は体の向きを女性の方へと変えながら両手を女性の両肩に置く。そして女性が軽く目を潤ませながら男性の目をまっすぐに見る中、男性は真剣な表情で静かに口を開いた。


「……この『バインドチョーカー』の力に負けちゃダメだ」

「……えっ?」

「君はとても真面目で誰にでもちゃんと接する事の出来る素晴らしい女性だ。だから、この道具の力に負けないでくれ。こんな事をしたって君は幸せにはなれないんだ」

「え……な、何を言ってるんですか? というか、どうして『バインドチョーカー』の事を……」


 突然の事に女性が困惑していると、屋上のドアが開き、刀傷の男性達がゆっくりと屋上に出てきた。


「しゃ、社長……」

「よう、良い夜だな」

「お父さん、大丈夫そう? なんか変な感じはしない?」

「ああ、大丈夫だ。『バインドチョーカー』の力のせいかすごく彼女の事が愛おしくて離したくないって思ってるけど、まだ理性を失う程じゃない」

「それなら良かった。今朝、『デヴィネイションフラワー』を触ってもらった時に少し気になる色になってたから不安だったんだ」

「たしかにな。さて……それじゃあそろそろこの件にケリをつけるか」


 そう言いながら男性が女性に視線を戻すと、女性は何がなんだかわからない様子で四人の顔を次々に見始め、その様子を見た刀傷の男性はため息をついてから頭をポリポリと掻き始めた。


「まあ、お前からすればわけがわからないよな。その『バインドチョーカー』の力でソイツを手に入れられると思ってたところに俺達が来たわけだから」

「は、はい……でも、どうして『バインドチョーカー』の事を知っているんですか?」

「それはこの子が持ってる『アンサーミラー』に聞いたからだ。どうやら自分達の仲間じゃないらしいが、ソイツにはつけた男女は何かと接する機会を増やされ、その内にお互いの事しか考えられなくする力があるって教えてくれたんだ」

「そして、つけたら二度と外せないし、他の人と恋に落ちる事も許されない。もしやってしまったら『バインドチョーカー』が首を強く絞めて持ち主を殺してしまうし、対になってる方をつけてる相手も同じように殺してしまうって」

「だから、俺は何も知らないフリをしながらボス達に自分の様子を逐一報告していたんだ。ただ……やっぱりこういった道具の力はすごく強力みたいだな。意識をしっかりと持つようにしても気づいたら力にのまれそうになるし……」

「だが、一度道具の怖さを知ってるからかまだマシだったな」

「はい」


 男性が笑みを浮かべながら答えていると、女性は信じられないといった表情で目からポロポロと涙を流し始めた。


「そ、そんな……それじゃあ私は自分の勝手な考えで貴方の事を殺してしまいそうになっていたんですか……?」

「まあ、何をしたらダメかわかっていたからそうならないようにはしてたけどな。だけど、道具の力に魅せられてしまっては何も得られないし、逆に失ってしまうだけだ。だから、君が道具の力に負けないようにするためにこれからは俺が傍で君の事を見守るよ」

「え……?」

「この想いは『バインドチョーカー』の力も影響してるかもしれないけど、君の事を好意的に思っているのは間違いないし、決して道具の力による物だけじゃないって思ってる。だから、これからはちゃんと君と向き合いながらしっかりとした関係を築いていきたいんだ」

「もちろん、私もいるよ。私もお姉さんの事は好きだし、このままじゃいけないって思ってるからね」

「そうだな。だから、これからもよろしく。同じ会社の同僚としても友達以上恋人未満の相手としても」


 男性が微笑みながら言っていた時、女性は男性に強く抱きつき、安心と嬉しさから大粒の涙を流しながら泣き始めた。そしてそれを男性が優しく抱き締めながら声をかけ、その様子を三人が見守っていた時、屋上のドアの陰から『救い手』とコピー兄妹がこっそりと屋上の様子を窺っていた。


「まさかあのお姉さんが恋する相手が『繋ぎ手』が関わった相手で、他にも同じような人が近くにいたなんてね」

「ほんとにな。けど、良いのか? このままじゃ俺達の事がバレるんじゃ……」

「ああ、大丈夫だよ。このくらいは想定の範囲内だし、この方が面白いからね」

「そっか」

「さて、それじゃあボク達は帰ろうか。あの人達の邪魔は出来ないし、このままここにいて姿を見られても面倒だからね」


 コピー兄妹が頷いた後、三人はゆっくりと屋上から離れ、屋上では泣き続ける女性とそれを優しくなだめる男性、そして二人を見守る三人が残され、女性の泣き声はしばらく屋上に響き続けた。

いかがでしたでしょうか。

今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。

それでは、また次回。

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