第55話 バインドチョーカー 前編
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
穏やかな昼下がり、一軒の喫茶店の店内では『救い手』とコピーされた兄妹がカウンター席に座りながら出された飲み物を飲んでいた。
「ふぅ……こうしてのんびりするのもいいもんだね」
「その気持ちはわかる。だが、お前の本体や俺達のコピー元はこのまま放っておいて良いのか?」
「私達の事を真剣に探してるはずだし、何か手を打たないといけないんじゃない?」
「ああ、それは大丈夫だよ。たとえボク達を見つけても彼女らにはない道具がボク達にはついていて、『不可思議道具店』に置いてある道具の事はしっかりと把握している。
それに、彼女の性格的に道具達が壊れたり傷つけられたりするのは避けるはず。だから、ボク達を捕まえるために道具の力を借りるとは思えないし、まだ手は打たなくても平気だよ。君達としては早くあの二人の存在を奪いたいんだろうけどね」
「ああ。本当なら奪う必要はないんだろうけど、『コピーカメラ』の力で生まれたからか存在を奪えって誰かにずっと言われてる気がするんだ」
「たぶん、それを果たすまではこれは無くならないと思うし、私としては早くどうにかしたいかな」
「そうか……まあ、それなら少し方法を考えてみようか。すぐにどうにか出来るわけじゃないけど、楽しみにしていてくれ」
その言葉にコピー兄妹が頷き、話を聞きながら店主の男性が洗ったカップや皿を拭いていたその時、喫茶店のドアベルが鳴り、暗い表情を浮かべたスーツ姿の女性が入ってきた。
「いらっしゃいませ。どうぞ空いているお席へどうぞ」
「あ……は、はい……」
女性は返事をした後にカウンター席の内の一つに座ったが、暗い表情のままでため息をついており、その姿を見ていた『救い手』はクスリと笑ってから着ていた黒いパーカーのフードを目深に被って女性へと近づいた。
「お姉さん、何やら表情が暗いようだけど何かあったかな?」
「え……あ、あなたは?」
「ボクは恵まれない人々を救っている者だよ。なんだかお姉さんが悩みを抱えているようだったから声をかけさせてもらったんだ」
「そうだったんだ……実は仕事先に気になっている人がいて、その人はウチの会社の社長の秘書も務めながら事務員としても頑張っていて、まだ小さい娘さんのお世話もしているような人なの。
ちょっと人が良すぎるところもあるし、ドジをする時もあるけど、周りの人の事を考えながらも他の人の頑張りをしっかりと労ったり困っていたらすぐに駆けつけたりする優しい人なのを見ている内に私はその人に惹かれていったんだ」
「へえ……それは良い事だね」
「だけど、その人は前に酷い相手と結婚した事があったみたいで、この前も逆恨みから親子揃って命を狙われるような事態になったからか結婚はおろか誰かと付き合う事すら考えてないみたいなの……」
「なるほど。それなら彼らの力を借りようかな」
そう言いながら『救い手』がポケットから取り出したのは、色の違う二つのチョーカーだった。
「……青色と赤色のチョーカー?」
「これらは『バインドチョーカー』という名前で、青色を男性に、赤色を女性につけさせる事でつけた者同士は運命に縛られたかのように度々どこかで出会ったり何かしらの交流をしたりするようになって、その内にお互いの事ばかり考えてしまう程に惹かれ合うんだ」
「運命に縛られる……でも、そんなに都合の良い話なんてあるわけが……」
「まあ、そう思うだろうね。だから、これはお姉さんにプレゼントするよ。その力を存分に確かめてくれ」
「え……そ、そんな申し訳ないよ。無料で貰うなんて……」
「良いんだよ、遠慮なんて。それに、その彼の事を諦められないなら、少しでも力を借りてみたいはずだ。そんな相手だったら他にも惹かれる女性は出てきてもおかしくないしね」
その『救い手』の言葉に女性は体をビクリと震わせると、『救い手』の手の中にある『バインドチョーカー』に視線を向け、少し考えた後にそれらを手に取った。
「……そうだね、あの人が他の誰かと一緒になるなんてやっぱり嫌だ。ありがたく貰う事にするよ」
「ええ、どうぞ。ただ、注意してほしい点があるから、それだけはちゃんと守ってほしいんだ」
「注意点……」
「そう。『バインドチョーカー』をつけたらもう二度と外す事は出来ないし、その相手を裏切って他の誰かと恋する事も許されない。もしもそれを破ってしまったら大変な事になるから注意してくれ」
「外せないし浮気もダメ……外せないのだけは少し困るけど、浮気なんてする気はないからそこは平気だよ」
「なら、良かった。さて、それじゃあせっかくだからもう少しその男性について話を聞かせてもらおうかな。話している内に何かアドバイスが出来るかもしれないしね」
「……うん、そうだね。それじゃあお願いしようかな」
そう言って女性が話を始めた後、『救い手』はコピー兄妹と店主の男性と共に静かに話を聞いていたが、『救い手』はどこか不気味な笑みを浮かべていた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。




