第54話 リアライズインク 後編
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
「はあ……」
空も暗くなりだし、周囲に人気がまったくなくなった夕暮れ時の教室で少女は机に向かって一人ため息をついていた。机の上には一冊のノートと『リアライズインク』、万年筆が置かれており、開かれたノートにはびっしりと文字が書かれていた。
「……この『リアライズインク』の力はすごい。これの力で私は心から私を愛してくれる恋人が出来た上に男女の関係にもなって、色々な物事を自由自在に操れるようにはなった。
でも、なんだろう……この虚無感は。端から見れば私の今の状態は明らかに満たされているのに、『リアライズインク』を手に入れる前よりも心にポッカリと穴が空いたような感じがする……」
少女は虚ろな目で『リアライズインク』を見ると、静かにそれを持ち上げる。
「……このインクの色みたいに私の心に空いた穴の中は暗くて黒い。これを使っていたからそうなったのかな。それとも元々空いていた穴に今さら気づいただけなの……?」
助けを求めるような目で『リアライズインク』を見ながら少女が呟いていたその時、教室のドアがガラリと開き、教室内に『繋ぎ手』と助手の少女が入ってきた。
「やあ、久しぶりだね」
「貴女達は……うん、久しぶり。でも、どうしてここに?」
「お姉ちゃんがその子からメッセージを貰ったみたいなの。貴女をなんとかしてあげてって」
「これがメッセージを……それじゃあ貴女達がこの虚無感をなんとかしてくれるの?」
「ううん……たぶんどの子でも貴女の虚無感はなんとかしてあげられないと思う。これは貴女自身が解決する問題だから」
「私が解決するべき……けど、学校の授業でもやらなそうなこんな問題を解決するための知識は持ってない。それじゃあ絶対にこの問題の答えはわからないんじゃ……」
少女の声が寂しげな物に変わったが、『繋ぎ手』はそれに対して首を横に振る。
「大丈夫だよ。その問題については誰だって悩む事で、貴女の周囲の人の助けを借りられる物だから」
「周囲の人……」
「そう。家族や友達、先生や恋人みたいに貴女には助けてくれる人がいる。だから、本当の貴女を出しながら助けを求めてみて。そうしたらたぶん答えに近づけるよ」
「本当の私……か。そうかもね。たまには違う方法で頑張るのも良いかもしれない。それに、『リアライズインク』があれば、変わった出来事にも遭遇出来るし、それも私にとって良い経験になるのかもね」
「うん、そうだね」
「ところで、『リアライズインク』の注意点を無視するとどうなるの? たしか起きてしまった出来事を打ち消そうとしてはいけないって言ってたけど……」
その問いかけに『繋ぎ手』は頷きながら答える。
「うん。もしやっていたら、貴女の存在がこの世から消えて、まるで元々いなかったかのように周囲の人達の記憶が書き換えられていたよ」
「そうなんだ……まあ、流石にそれは嫌だからこれからもそれはしないようにするよ。自分が望んだ事の責任はしっかりと果たすべきだからね」
「うん、それが良いよ。ところで……私達に似た人に出会ったりってした?」
「してないけど……何かあったの?」
「うん……同じように道具を渡してるみたいなんだけど、どうやら会った人は悪事を働いたり性格が乱暴になったりしてるみたいなの」
「なるほど……そういう事なら私も気を付けるよ。面白い事に出会いたいけど、破滅の未来に向かいたいわけではないから」
「うん。それじゃあ私達はそろそろ帰るよ。もしも他の子達にも興味が湧いたらウチの店にも来てみてね。『リアライズインク』の力があれば簡単に来られるはずだから」
「わかった。それじゃあまたね、二人とも」
「うん、またね」
「またね、お姉ちゃん」
そして『繋ぎ手』達が教室を去っていくと、少女はふぅと息をついてから携帯電話を取り出した。
「……せっかく出来た恋人だし、少し話をしてみても良いかな。私のこの虚無感を理解してくれるかはわからないけど、信じてみたい気持ちはあるしね」
少し期待のこもった視線を携帯電話に向けた後、少女は携帯電話を操作し、微笑みながらゆっくり耳に当てた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。




