第54話 リアライズインク 中編
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
空が灰色の雲で覆われ、ポツポツと小粒の雨が降る朝、傘を持った少女は家の中の家族に声をかけてから外へと出ると、傘を広げながらぼんやりと空を見上げた。
「……へえ、まさか“本当に”降るとはね」
呟く少女の手には一冊のノートが握られており、少女は傘を差したままでノートを開くと、色々な物が書かれたページを一撫でする。
「……『朝、小雨が降る』。今日は朝から晴れで雨雲が来てる様子も無かったから、試すならこれが一番かなと思ったけど、本当に降るなんて驚いたね。
朝のニュース番組でも天気予報士の人がすごく驚いていたし、これはこのノートに書くために使った『リアライズインク』の力で間違いはなさそう。まあ、まだまだ試しで書いた出来事はあるんだけど」
そう言いながら少女はページを再び撫で、そこに書かれている出来事を読み上げ始めた。
「『登校しようとしたら目の前を黒猫が通る』に『傘を忘れて困りながら雨宿りをするクラスメートに遭遇する』、『校門の前で知らない人に道を尋ねられる』に『昇降口で感謝される』……とりあえず学校に行くまでにこれが全部起きたら『リアライズインク』の力は立証されたと考えていいね。
あの子達が言うには『リアライズインク』で書いた出来事は翌日には絶対に実現するみたいだし、とりあえず目の前を黒猫が通れば……」
その時、どこからか猫の鳴き声が聞こえ、少女が少し期待を込めた視線を前方に向けると、目の前を小さな黒猫が通り、少女は嬉しそうにニヤリと笑った。
「……通った。これで昨日の内に書いておいた出来事の内の二つは本当に起きたけど、まだこのくらいなら起きてもおかしくない出来事だし、次は傘を忘れて雨宿りをするクラスメートに遭遇しないと……」
そう言いながら少女はゆっくりと歩きだし、そのまま学校へと向かった。その途中、木の下で困ったように空を見上げるクラスメートとの遭遇や校門前での道案内も実際に起こり、校門を通った頃には少女はワクワクした様子で微笑んでいた。
「……ここまで全部書いた通りの事が起きてる。それじゃあ後は最後の出来事も……」
期待のこもった声で独り言ちていた時、その後ろから傘を持った一人の男子生徒が少女へ向かって走ってきた。そして、男子生徒は貸してくれた事へのお礼を述べ、それに対して女は平然としながら答えていたが、心の底では嬉しさを感じていた。
その後、傘を返した男子生徒が走っていき、貸していた折り畳み傘を鞄にしまって自分が差していた傘を閉じると、少女は嬉しそうに笑みを浮かべた。
「……登校するまでのはこれで全部。これだけでも『リアライズインク』の力は信じるに値するけど、せっかくだから下校までに起こそうとしている出来事も全部起きるかちゃんと見てみよう。ふふ……面白い事に巡りあえて本当に嬉しいな」
少女は独り言ちてから傘に付いた滴を払うと、しっかりとまとめた傘を傘立てに置き、そのまま自分の教室へ向けて歩き始めた。
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それでは、また次回。




