第51話 アロマピアス 前編
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
「はあ……ほんとツイてないわ」
辺りがシンと静まり返り、頭上の星空と街灯しか光のない夜の街。そんな街の中を開けられたビールの缶を持ちながら一人の女性がフラフラと歩いていた。
「飽きたから捨てたはずの男には訴訟されて大金を取られた上に子供の親権まで奪われるし、浮気相手の男からも散々暴言を吐かれて逃げられるし……どうしてアタシがこんな目に遭わないといけないのよ。ほんと、わけがわからないわ」
怒りのこもった声で独り言ちながら女性がアルコールによる酔いでおぼつかない足取りで歩いていたその時だった。
「そこのお姉さん、少し良いかな?」
「え……?」
女性が疑問を抱きながら振り返ると、そこには黒いパーカーのフードで顔を隠した人物と銀縁のメガネを掛けた少年の姿があり、女性は二人を見ながらイヤらしい笑みを浮かべる。
「あら、お子様達がアタシに何の用かしら? アタシの大人の魅力に誘われたっていうなら今夜くらいは良いことしてあげても良いけど?」
「……そんなわけないだろ。酒臭くて化粧も濃い女なんてこっちからゴメンだ」
「何ですって……このクソガキが!」
「まあまあ、落ち着いて。ところで、そこまで酔っているという事は何かそうしないといけないだけの理由があるんですよね?」
「……あるわよ。飽きて捨てた男から訴訟を起こされて金も親権も奪われて浮気相手の男からも逃げられたんだから。こんなに女としての魅力に溢れたアタシに興味ない男はどうでも良いけど、アタシがこんな目に遭うなんておかしいから、また別の男をさっさと捕まえたいのよ」
「なるほど。それなら……うん、彼がベストかな」
『救い手』が微笑みながらリュックサックから一組のピアスを取り出すと、嵌められた宝石の輝きと表面の光沢に女性の目は釘付けになった。
「宝石が填まったピアスなんて良いもの持ってるじゃない」
「この子は『アロマピアス』といって、つけた人からは色々な人を引き寄せる香りが発生し、それはフェロモンのように嗅いだ相手を魅了するんです」
「へえ、アタシにピッタリのピアスね」
「そして、これは貴女にプレゼントしますよ」
「あら、良いの?」
「はい。ボクは恵まれない人を救うのが使命なので遠慮なくどうぞ」
「そういう事なら貰っておくわね」
「はい、どうぞどうぞ」
受け取った『アロマピアス』をうっとりとした目で女性が見つめ、その姿を『救い手』が楽しそうに見る中、コピーの兄は『救い手』に声をかけた。
「ところで、その『アロマピアス』には何か注意する事はあるのか?」
「注意……ピアッサーは流石に自分で買えとか?」
「いや、これはノンホールピアスなので大丈夫です。ただ、放たれる香りで引き寄せられた相手とは絶対に恋に落ちないでくださいね」
「つまり、本気にならずに遊び程度にしとけと。それくらい構わないわ」
「ありがとうございます。それじゃあボク達は帰ろうか」
「ああ」
そして、『救い手』とコピーの兄が帰っていくと、女性は目に妖しい輝きを宿しながら手の中の『アロマピアス』に視線を落とした。
「……香りで相手を引き寄せるピアスなんてほんとアタシにピッタリね。さて、それじゃあ早速色々な男を使って楽しませてもらいますか」
悪意と邪念に満ちた表情で独り言ちると、女性は『アロマピアス』をズボンのポケットにしまい、ゆっくりと歩き始めた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。




