第48話 インビジブルクリーム 後編
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
「はあ……ほんと、私ってバカみたい……」
空を黒い雲が覆いつくし、冷たく強い雨が降り注ぐ夕方、公園の中にある遊具の下では生まれたままの姿の少女が自身の体を抱くようにしながらしゃがみこんでいた。
「どうしてあんな奴の事を好きになったんだろう……予定があるなんて言って本当は他の女の子とも付き合ってた上にホテルにまで行ってたなんて本当に信じられない。
それに、二人して私の事を笑ってバカにしてたし……もうあんな奴とは別れてやる。どうせ別れを切り出したって別に残念がったりも止めたりもしないだろうし。
それにしても……そういう奴だったのがわかったのは良いけど、『インビジブルクリーム』も雨で流れて服も『インビジブルクリーム』も家に置いてきたから帰れないのは困ったなぁ。
流石にこんな雨の中じゃ誰も外を歩いてないと思うけど、姿が見える状態で外を歩くのは怖いし、お父さんもお母さんも今日は出掛けてるから服を持ってきてもらう事も出来ないし……でも、このままここにいて変な人が来てこの姿を見られたら……」
自分の身に振りかかるかもしれない最悪の出来事を想像して少女が恐怖と寒さで身を震わせていたその時、傘を差しながら少女のいる遊具へ向かってとぼとぼ歩いてくる少年の姿が見え、少女はビクリと体を震わせた。
「ど、どうしよう……このまま気づかれなきゃ良いけど、もし気づかれたら……!」
恐怖と不安で目に涙を溜め、気づかれないようにしながら少女は身を縮こまらせていたが、少年はふと顔を上げると、遊具の下にいる少女に気づき、その姿に驚いた後、徐々に顔を赤くし始めた。
「え……な、なんで……!?」
「み、見ないで……! お願いだからこのままどっか行ってよ……!」
少女は涙ながらに懇願し、少年が去ってくれるように祈っていたその時、少年は照れと恥ずかしさで赤くなった顔で周囲を見回した後、少女にゆっくりと近づき、自身が着ている上着を少女に羽織らせた。
「えっ……?」
「えっと……大丈夫? こんなところに裸でいるなんてもしかして何か事件に巻き込まれたとか?」
「あ、えと……事件とかそういうのじゃないけど、ちょっと事情があって……」
「そっか……まあ、深くは訊かないけどとりあえず安心して。こんな状況に出くわして驚いてはいるし戸惑ってはいるけど、僕は別に君に変な事をする気はないし、こんなに寒さと怖さで震える人に何かするなんてやってはならない事だから」
「…………」
「とりあえずここから離れようか。このままだと風邪も引いちゃうし、本当に変な人が来て大変な事にもなるから。家ってこの辺り?」
「……うん、そう」
少女が安心感と嬉しさから涙を流し、しゃがみこんだままで涙を拭っていると、少年は微笑みながら少女に手を差しのべた。
「……そっか。それなら急いで家まで行こうか。見知らぬ相手に家を知られるのは嫌かもしれないから、この件が済んだら僕は全部忘れるからさ」
「……ううん、別に忘れなくていいよ。たぶん、忘れようとしても中々忘れられないと思うし」
「あはは、そうかもね。よし……それじゃあ行こうか。僕の陰に隠れながら君の方に傘を深めに差せば他の人には見えないだろうし、何かあってもちゃんと君の事を守るからさ」
「……うん、ありがとう」
「どういたしまして」
少年が優しく微笑み、少女が少年の手を取って外に出てくる中、その様子を離れたところから『繋ぎ手』と助手の少年は相合傘をしながら見つめていた。
「よかった……『インビジブルクリーム』からメッセージを貰って心配して来てみたけど、彼が一緒なら大丈夫そうだね」
「そうだな。そういえば、あの子の学校の件を調べてみたんだけど、一人の教師が突然他の教師や用務員達の悪事を暴き始めて、それで教師達の不足で一時的に休校状態になってるようだけど、その教師も着ていた服を残してどこかに消えてしまったみたいなんだ」
「そっか……まあ、その黒幕はわかってるような物だし、やっぱり早めに見つけないといけないね。そうじゃないと、今度は何をしでかすかわからないし」
「だな。それにしても……どうして相合傘で様子を見てるんだ? 傘なら持ってるだろ?」
「持ってるけど、相合傘の気分だから。あ、もしかして私がこんなに近くにいると変な気分になるとか?」
「ならない。ほら、早く帰るぞ。濡れて帰ると妹やオーナーが心配するからな」
「あいあいさー」
『繋ぎ手』が答えた後、二人は相合傘のままで話をしながら歩き始めた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。




