第48話 インビジブルクリーム 前編
どうも、伊達幸綱です。それではどうぞ。
「……はあ、一体どうしたらいいんだろう」
空が少しずつオレンジ色に染まり、徐々に辺りが静けさを増していく夕暮れ時、公園のブランコにはセーラー服姿の少女が寂しそうな表情で座っていた。
「最近、先生達や用務員さんが不祥事を起こしたっていう事で学校も新しい先生達を迎え入れるまでしばらく無いみたいだから、彼といっぱいデートしたり話したりしたいんだけど、連絡してもいつも用事があるって断られちゃうんだよなぁ。
何の用事か聞いてもはぐらかされちゃうし、こっそりついていって理由を知ろうと思ってもそういう尾行みたいなのってやった事無いから自信もないし……はあ、何か良い方法は無いかな」
少女がブランコに座りながら俯いてため息をついていたその時だった。
「ねえ、そこの君」
「え……?」
突然聞こえてきた声に驚きながら少女が顔を上げると、そこには人懐こそうな笑みを浮かべるセーラー服姿の少女とその隣で静かに立つ学生服姿の少年がいた。
「あなた達は……?」
「私達は道具と人間の橋渡し役とその助手君だよ。それで、なんだか悩んでいたみたいだけどどうしたの?」
「……うん、実は彼の隠し事について知りたいの。ウチの学校、先生達や用務員さん達が不祥事を起こしたっていう事で今緊急で休み状態になってるから、今の内に彼といっぱいデートしたり話したりしたいんだけど、最近用事があるって断られちゃうばかりだから、その理由を知りたいの。
でも、聞いてもはぐらかされちゃうし、こっそりついていこうにもそういうのはやった事無いから自信がなくて……」
「なるほど。つまり、相手の身辺調査が出来る方法が欲しいわけか。『繋ぎ手』、バッグの中を見せてくれるか?」
「うん、もちろん」
頷きながら答えた後、『繋ぎ手』がバッグを下ろし、助手の少年はその中に手を入れると、小さな銀色の円柱形のケースを取り出した。
「それは……?」
「この子は『インビジブルクリーム』っていう名前で中に入っているクリームを素肌に塗れば、その間は誰にも見えなくなるし、貴女に興味や好意を持っている人以外は気配も感じ取れなくなるんだ」
「素肌に……え、それじゃあクリームを塗ってる間ってまさか……」
「うん、裸。服までは透明には出来ないからね」
「そっか……」
「そして、この子は貴女にプレゼントするよ。まあ、使うかどうかはお任せするけど、大切にしてあげてね」
そう言いながら『繋ぎ手』が『インビジブルクリーム』を手渡そうとすると、少女は驚いた様子を見せた。
「え……い、良いの?」
「うん、この子は店頭に並べられなかったり試作品だから渡しても良いって言われたりしてる子だからね」
「そう……なんだ。それじゃあせっかくだし貰おうかな。どうもありがとう」
「どういたしまして」
「それで、それの注意点ってさっきのだけなのか?」
「うん、後はクリームを落とすまでは本当に誰にも見えなくなるし、雨や涙でも簡単にクリームは取れちゃう事くらいかな。あ……もしかしてお兄さん、この子を使って私や妹ちゃんのお風呂を覗きに……」
「行かないから。さて、それじゃあそろそろ帰ろうぜ。妹も家で待ってるしな」
「うん、そうだね。それじゃあ、またね」
「あ、うん……またね」
『繋ぎ手』達が去っていくと、少女は手の中の『インビジブルクリーム』に視線を落とした。
「……使うのは少し抵抗があるし恥ずかしいけど、これで私の知りたい事がわかるなら使う価値はあるかも。よし……少し勇気を出して頑張ってみよう」
少女は頷きながら独り言ちた後、『インビジブルクリーム』をスカートのポケットにしまい、空を見上げながらしばらくブランコに揺られ続けた。
いかがでしたでしょうか。
今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。
それでは、また次回。




