第44話 ドレインドーム 後編
どうも、伊達幸綱です。それでは早速どうぞ。
「はあ、はあ……あはは、やっぱり苦しいなぁ……」
空が黒い雲に覆われ、今にも雨が降り出しそうな雰囲気の中、パジャマ姿の少女は自室のベッドに横たわりながら苦しそうに息を荒くしていた。その胸には金色の輪がプリントされたバッジがついており、少女はバッジを指で摘まむと、苦しそうにしながらも笑みを浮かべた。
「……でも、これで良かったんだ。私から吸収された元気や生気であの子も少しずつ快方へ向かってるみたいだし、このままいけばきっとまた元気に学校へ……」
嬉しそうに言う少女の顔はとても青白く、今にも命の灯火が消えてもおかしくない程だったが、少女の顔からは後悔や恐怖は感じられず、むしろ嬉しさや喜びといった感情で溢れていた。
そして、少女が苦しそうに息をしながら額に手を当てていると、部屋の中心に赤い渦が現れ、そこから『救い手』がゆっくり姿を現した。
「やあ、また会ったね」
「あなたは……どうしてここに?」
「ボクは色々なところに行く事が出来るからね。それにしても……まさか自分の命を犠牲にして誰かを救おうとするなんて思わなかったよ。他人を犠牲にして自分のために使うとかは考えなかったのかな?」
「……考えなかったよ。私はあくまでもあの子に元気になってほしかったし、他の誰かが犠牲になって元気になってもあの子は喜ばないと思ったから」
「けど、結局自分が犠牲になってるし、本当に仲の良い相手なら、この結論こそ喜ばないんじゃないかな?」
「……そうかもね。でも、これで良いの。何の取り柄もない私よりも勉強は少し苦手でも色々な人から好かれてスポーツも得意なあの子の方が生き残るべきだから」
「……そっか」
『救い手』がどこか寂しそうに言うと、少女は『救い手』の手を取り、弱々しく微笑んだ。
「私、まったく後悔してないし、『ドレインドーム』と出会わせてくれた事は本当に感謝してるよ。そもそも出会えなかったらあの子が助かる方法すらなかったわけだし、感謝こそしても恨んだり憎んだりはしない。だから……ありがとう。最期にまた会えて嬉しかったよ」
「……うん。ボクも君の様子を見に来れて良かったよ。後は……ゆっくりおやすみ」
「うん……」
笑顔で答えると、『救い手』の手を掴んでいた少女の手はそのまま落ちていき、少女が目を瞑ると同時に手はダランとベッドの縁に垂れる中、つけていたバッジは光の粒となって消えていった。
「……この子にも悪意と邪心は高めておいたはずなのに、それに負けずに自分を犠牲にしてまで大切な相手を助けるなんてね……」
『それも人間の愛の形なんだろうな』
『そうですね……ただ、この少女と助けられた相手には申し訳ない事をしてしまいましたね』
『たしかにな。ただ、やってしまった事はしょうがないし、流石に生き返らせる道具もない。だから、この事は絶対に忘れないようにしよう。それがこの子へのせめてもの手向けになるからな』
「……そうだね。とりあえず、『ドレインドーム』は後で回収する事にして、まずは帰ろうか」
その言葉に道具達が答えた後、『救い手』は少女の頭を軽く撫でながら一言声をかけると、赤い渦を発生させ、そのまま渦の中へと消えていった。
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それではまた次回。




