第44話 ドレインドーム 前編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
「……はあ、本当にどうしたら良いんだろう」
空が橙色に染まり、どこからかカラスの鳴き声が聞こえてくる夕方、暗い表情をした一人の少女が誰もいない道をとぼとぼと歩いていた。
「……あの子、心配はいらないからなんて言ってたけど、心配にならないわけないよ。幼馴染みというだけだけど、すごく重い病気に罹っていて治る見込みもあまりないっていうなら心配になるに決まってるじゃん。
これまで一緒に色々な事をしてきて、時には助けたもらったり助けたりしてきた仲なんだから、これからも一緒にいたいよ……はあ、何か治す方法は無いのかな……」
俯く少女がため息をつきながら歩き続けていたその時だった。
「そこの君、ちょっと良いかな?」
「え……?」
突然目の前から聞こえてきた声に驚きながら立ち止まり、ゆっくりと顔を上げてみると、そこには黒いカメラを首から掛けフードで顔を隠した黒いパーカーに緑色のジーンズ姿の人物がおり、少女はその姿にビクビクとし始めた。
「あ、あなたは誰なんですか……?」
「ああ、怖がらなくても良いよ。ボクは恵まれない者の救世主みたいなものだからね。ところで、なんだか辛そうだったけど、何かあったのかな?」
「あ、えっと……実は幼馴染みの男の子が病気に罹っていて、治る見込みもあまりないって言われてるんですけど、どうにか治らないかなと思って……」
「病気の治癒、ね……うん、それなら彼女に任せようか」
『救い手』は『コピーカメラ』と会話した後、背負っていたリュックサックから中に桜の木や海の模型が入った小型のドーム状の物を取り出した。
「これは……?」
「これは『ドレインドーム』という物で、これを部屋に置いておくと、その人は活力や生気が沸き上がってきて、どんなに辛い気持ちや重い病気に罹っていてもたちまち良くなっていくんだ」
「病気も良くなる……」
「そうだよ。病は気から、なんて言葉もあるように頑張りたいという気持ちや生きたいという希望は病気を治すための薬になるからね。ただし、ドレインという名前がついているだけあって、そのためには吸収させてくれる相手が必要なんだ」
「……元気や希望の吸収役が必要って事ですよね」
「そういう事。この子に手を翳せば吸収用のバッジを創り出せるから後は吸収役にそれをつけさせるだけ。多ければ多い程吸収量も増えるよ」
『救い手』の言葉を聞き、少女は『ドレインドーム』をじっと見つめた後、迷うこと無くカバンから財布を取り出した。
「……それ、買います。幾らですか?」
「おや、欲しいのかな? 紹介しておいてなんだけど、この子の手を借りるという事は誰かを犠牲にするって事だよ?」
「……良いんです。私はあの子を助けたいだけですから」
「そう……まあ、そういう事ならこれは君にプレゼントしよう。大切にしてあげてね」
その言葉と同時に『救い手』が『ドレインドーム』を手渡すと、少女は驚いた様子を見せた。
「良いんですか?」
「うん。だけど、吸収役になった相手は死ぬまでずっとその役目を担う事になるし、それを嫌がって壊そうとしたら大変な事になる。それだけは気をつけて」
「わかりました。ありがとうございます」
「どういたしまして。それじゃあボクはそろそろ帰るよ。君の幼馴染みが良くなる事を祈っているよ」
そう言って『救い手』が去っていくと、少女は手の中にある『ドレインドーム』に視線を移した。
「……これがあればきっと良くなるはず。よし……明日もお見舞いに行って、これを病室に置いてこよう」
決意に満ちた目をしながら独り言ちると、少女は『ドレインドーム』を大事そうに持ちながらゆっくりと歩き始めた。
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それでは、また次回。




