第43話 チェンジブック 後編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
「あははっ、本当に良い気分だなぁ……!」
白い雲が浮かぶ青空の下、学生服姿の少年は手に一冊の本を持ちながら屋上の柵にもたれ楽しそうな笑みを浮かべていた。
「ほんと、これに出会えてよかった。どんな失敗や犯罪をしても僕じゃない誰かがやった事に出来るし、テストの点数や周囲からの好感度だって思いのまま。これで僕は無敵だ……もう誰にも僕の邪魔は出来ない……!」
手の中にある『チェンジブック』を見ながら悪意と邪悪さに満ち溢れた笑みを浮かべていたその時、そこに一人の人物が現れた。
「やあ、調子はどうかな?」
「ん……ああ、あなたか。調子ならすこぶる良いよ。この『チェンジブック』の力で僕は好きなように人生を歩めているからね」
「ふふ……そっか。まあ、それなら良いんだよ。その調子でどんどん好きなように過ごしてくれたまえ」
「ああ、そのつもりさ。だけど……そのためにはあなたの存在が邪魔なんだよね。だから、あなたも僕の虜になってもらうよ」
そう言いながら少年がペンを手に『チェンジブック』を開いたが、謎の人物は余裕そうな笑みを浮かべる。
「ボクを虜に、ねえ……まあ、このくらいは想定出来た事だけど、その結論に行き着いてしまったのは非常に残念だね」
「残念がる必要はないよ。どうせすぐに僕の事を崇拝するようになって、残念という気持ちも無くなるんだから」
「……そうかい。でも、その願いは叶わないよ」
「え……?」
少年が不思議そうな声を上げていたその時、少年がもたれていた柵からミシミシという音が鳴り出し、少年の表情には恐怖の色が浮かぶ中で柵は壊れ、少年は焦った様子でどうにか屋上の縁に掴まった。
「そ、そんな……この柵が壊れてるわけが……!」
「さっきまでは壊れてなかったろうね。でも、『チェンジブック』が壊れてる事にしたんだよ。君のやり方や扱い方が気にくわなかったようだからね」
「な、なんで……!? 道具のくせに使用者に逆らうなんて……ありえない!」
「その姿勢が良くないんだよ。彼らにだって意志はあるし、考えはあるんだから。それに、初めて会った時も言ったよね? 彼は乱雑な扱い方は嫌いだって」
「い、嫌だ……し、死にたくない……!」
「無理だよ。ボク達はそれを書き換えるつもりもないしね。だから……バイバイ、おバカさん」
「た、たすけ──」
その言葉を最後に少年の手は屋上から離れると、恐怖と悲しみに満ちた表情で落ちていき、程なくして下から悲鳴が聞こえてくる中、謎の人物はそれには構わずに落ちている『チェンジブック』を拾った。
「回収完了、と」
『まったく……今回の奴もろくな奴じゃなかったな』
「まあ、ボクの力で悪意や邪念は増幅させてるからね。それに勝てない時点でこの先の人生もまともな生き方はしなかったと思うし、結果として彼は救われたんじゃないかな」
『そうですね。さて、『チェンジブック』に書き込まれた事に関してはどうしましょうか? 直す手段はあるんですよね?』
「うん、見たところ鉛筆で書かれてるようだから、消ゴムで消せば元に戻るよ。もっとも、柵の件だけは残すけどね」
謎の人物が『チェンジブック』を開きながら答えていると、首に掛けられた黒いカメラはその人物の事を心配そうに見つめた。
『……一応聞くが、この活動はまだ続けるのか?』
「……続けるよ。ボクが生まれ落ちた理由を知るためにね」
『生まれ落ちた理由、か……まあ、そういう事なら俺達もお前を手伝わせてもらうさ。そもそもあの日に助けたいと思った時点で運命共同体みたいな物だしな』
『そうだな。『創り手』や『繋ぎ手』には悪いと思うが、助けると決めた以上は頑張らせてもらうか』
『はい、コピーとサーチ、ステルスに特化した私達がいれば並大抵の事では彼女らも探せないはずですから』
「……うん、ありがとう。これからもよろしくね、『コピーカメラ』、『サーチドローン』、『ステルスマント』」
『こちらこそだな。さて……それじゃあそろそろ撤収しようぜ、『救い手』』
「うん」
『コピーカメラ』の言葉に答えた後、『救い手』は赤い渦を発生させ、そのまま渦の中へと消えていった。
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それでは、また次回。




