第43話 チェンジブック 前編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
「……はぁ、本当にどうしたら良いんだろ」
オレンジ色だった空が徐々に夜へ向けて星空へ変わり始めている夕暮れ時、学生服姿の少年がため息をつきながらとぼとぼと歩いていた。
「勉強、頑張ったはずなのに今日も小テストで良い点が取れなかったなぁ。この前のテストも酷い点数で、体育の授業でやった徒競走はクラスで一番遅くて笑われたり呆れられたり……あーあ、その事実だけでも無くならないかな……」
少年が空を見上げながら独り言ちていたその時だった。
「……ねえ、そこの君」
「え……?」
突然聞こえてきた声に少年は驚きながら立ち止まり、そのまま背後を振り返ると、そこにはリュックサックを背負って深く被ったフードで顔を隠した黒いパーカーに緑色のジーンズ姿の人物がおり、声や背丈から同い年くらいだと感じた少年は警戒を少し解いてから恐る恐る話しかけた。
「えっと……君は?」
「ボクは……そうだね、恵まれない人の救世主とでも考えてくれれば良いよ。それで、落ち込んでたようだけど、何かあったの?」
「あ、うん……実は普段から学校の成績があまりよくなくて、今日もしっかり勉強したはずなのに小テストがうまくいかなかったからどうにかならないかなと思ってたんだ」
「なるほど……うん、そうだね。それなら彼が適任かな」
顔を隠した人物は首から掛けていた黒いカメラと会話をしているかのように独り言ちた後、リュックサックの中から綺麗な装丁がなされた一冊の本を取り出した。
「本……表紙には『チェンジブック』って書いてるけど、これを読めばどうにかなるの?」
「ううん、違う。この『チェンジブック』は中が白紙で、ページに自分に関する出来事を日にちや時間と一緒に書き込めば、事実がその通りに書き変わる物だよ。
例えば、今こうしてボク達が出会った事実を少し変えたければ、日にちや時間を昨日の昼とか一週間前の朝に変える事も出来て、学校の成績や他の人からの好感度も自由自在。そんな夢のような本だよ」
「そうなんだ……良いなぁ、そんな本を持ってるなんて」
「ふふ、欲しいなら君にあげるよ」
「え……い、良いの?」
「うん、もちろん。はい、どうぞ」
『チェンジブック』を受けとると、少年は目を輝かせながら『チェンジブック』に視線を向け、その様子にクスリと笑ってから顔を隠した人物はクルリと体を背後へ向けた。
「それじゃあボクはこれで。あ、そうそう……それで色々書き換えるのは良いけど、彼は乱雑に扱われるのは嫌いで、書き換えた事実によって自分の知らない出来事が起きた事にはなるから、それだけは注意した方が良いよ」
「うん、わかったよ。良い物をくれてありがとうね」
「どういたしまして。それじゃあ」
顔を隠した人物がそう言って立ち去ったが、少年の視線は『チェンジブック』に注がれ続けており、その目には妖しい輝きが宿っていた。
「これがあれば……僕は成績優秀で誰からも好かれる存在になれる……! 誰からも笑われず呆れられない存在に……!」
にやつく少年の声には喜びが満ち溢れており、『チェンジブック』を握る手はとても強く、誰にも渡さないという強い意志が見て取れる程だった。そして、そのままバッグの中に『チェンジブック』をしまうと、少年は笑みを浮かべながら歩いていった。
いかがでしたでしょうか。
今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。
それでは、また次回。




