第42話 与命筆 中編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
「……ふぅ、これで今日も一日が終わるな」
辺りが静まり返り、空には幾つもの星が瞬く夜、老人は書斎の机に向かいながら独り言ちた。机の上には綺麗な字で書かれた日記があり、その傍には数枚の和紙と『与命筆』、専用の墨が入ったボトルと硯などが置かれていた。
「……さて、そろそろ試してみるか。この筆は『与命筆』という名で、専用の墨を使って描いた墨画は命を得たかのように紙の中で動きだし、その絵の意志は尊重しなければならないのだったな。
しかし……困ったな。ワシはそれ程絵は上手くないから、たとえ何かを描いてみてもそれが何かわかってもらえない可能性がある。それでは孫にも呆れられるかもしれないな……」
『与命筆』を見ながら老人が悩んでいたその時、書斎のドアがコンコンとノックされ、ドアがゆっくりと開くと、そこにはパジャマ姿の少女がいた。
「お祖父ちゃん、まだ起きてたんだ」
「ん……ああ、まあね。ところで、どうかしたのかい?」
「お祖父ちゃんが書斎でうたた寝してないか見てきてって言われたから」
「はは、なるほどな」
孫の言葉に老人は笑っていたが、ふと何かを思いついたような表情を浮かべた。
「……そういえば、絵を描くのが好きだと言っていたが今でもそうかい?」
「え……まあ、好きではあるけど」
「それなら、少しここで描いていかないかい? あるのは筆と墨くらいだけどね」
「筆と墨……やった事ないから、自信は無いけど……まあ、暇潰しくらいにはなるかもね」
そう言いながら孫は書斎に入ってくると、老人の膝に座り、老人はボトルから硯へ墨を注いで『与命筆』の筆先を程よく墨に浸した。
「これでよし。それじゃあ何か描いてごらん」
「何か……それじゃあ、犬にしようかな。私、犬が飼いたいけど、お母さん達は私にはお世話出来ないなんて言うし……」
「ペットを飼うにはそれ相応の責任が必要だからね。それじゃあどういう犬が飼いたいか考えながら描いてごらん」
「……うん」
孫は答えた後、受け取った『与命筆』をぎこちなげに握って机の上の和紙に犬を描き始めた。そして犬が描き上がったその時、紙の中の犬は少しずつ身体を動かし始め、二人が驚く中、紙の中をせわしなく動き回り始めた。
「え、え……? 描いた犬が動いてる……?」
「……これは驚いたな」
「お祖父ちゃん、これって一体……?」
「この筆と墨は日中に手に入れた物で、描いた物はこうやって紙の中を動き始めると言われていたんだが……ここまで本当の犬のように動くとは思っていなかったよ」
「すごい……お祖父ちゃん、これすごいね!」
「……ああ、そうだね」
孫のはしゃぎように老人が嬉しそうに目を細める中、孫は再び和紙に絵を描き始め、老人もそんな孫の様子を微笑ましそうに見つめていた。
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それでは、また次回。




