第41話 アトラクトストラップ 前編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
「はあ……ほんと、どうしたもんかな……」
空が夕焼けの橙と夜の黒の二色に染まった頃、一人の男性がシャッターを閉めながらため息をついていた。
「町内で昔からやってるこの商店を親から継いだは良いけど、最近出来たショッピングモールの方にばかり客は行くし、たとえ来ても噂好きのおばさん達とか少し耳の遠い爺ちゃん婆ちゃんばかりでなんだかやる気が起きないんだよな。
はあ……せめて他の年齢層の客でも来てくれたら、もう少しやる気も出るんだけど、小さな古い商店なんかじゃ無理だよなぁ……」
店主の男性がため息をついていたその時だった。
「お兄さん、少し良いですか?」
「え……?」
店主の男性が不思議そうな顔をしながら背後に視線を向けると、そこにはバッグを肩から掛けたセーラー服姿の少女とその隣で静かに立つ少年の姿があった。
「……君達は?」
「私達は道具と人間の橋渡し役とその助手君です。お兄さん、なんだかため息をついてましたけど、何か悩み事ですか?」
「……まあね。俺さ、親からこの商店を継いだんだけど、この辺の人達はここよりも近くに出来たショッピングモールに行ってばかりだから、若い人で客として中々来ないんだよ。ただ、どうにかする手段も思い付かなくてさ……」
「お客を寄せ付ける方法……『繋ぎ手』、バッグを見せてくれるか?」
「はいはーい」
『繋ぎ手』が返事をしながらバッグを下ろし、助手の少年はチャックを開けて中に手を入れると、小さな金色の招き猫のストラップを取り出した。
「それは……ストラップか?」
「この子は『アトラクトストラップ』という名前で、この子を握りながらこういう物を引き寄せたいって願うと、その願いを叶えるチャンスになる出来事を引き寄せてくれるんです」
「チャンスを引き寄せる……それじゃあ、そのチャンスを無駄にしなければ色々な願いを叶えてくれるって事か」
「そういう事です。そして、この子はお兄さんにプレゼントします。大切にして上げてくださいね」
そう言いながら『繋ぎ手』が『アトラクトストラップ』を手渡そうとすると、店主の男性はそれに対して驚いた。
「えっ、良いのか?」
「はい。この子は店頭に並べられなかったり試作品だから渡しても良いって言われたりしてる子なので遠慮せずどうぞ」
「まあ、そういう事ならありがたくもらうよ。どうも、ありがとう」
「どういたしまして」
「ところで……この『アトラクトストラップ』には何か注意点ってあるのか?」
「注意点……? ストラップに注意点なんてあるかな……」
店主の男性が不思議そうに首を傾げる中、『繋ぎ手』は微笑みながら頷く。
「ウチの子達は特殊な力を持っている分、気を付けないといけないところがある子もいるんです。それで、その子なんですけど……毎日朝昼晩挨拶をしてあげないといけないんです」
「朝昼晩の挨拶……それをしないとどうなるんだ?」
「この子はそういう挨拶は大切にしているので、挨拶をし忘れてしまうと大変な事になりますよ」
「大変な事……わかった、そうなるのは怖いからしっかりと守るようにするよ」
店主の男性が答えると、『繋ぎ手』は満足げな表情を浮かべた。
「ありがとうございます。それじゃあ私達はそろそろ失礼します。その子の事、大切にしてあげてくださいね」
「それじゃあ失礼します」
「ああ、二人とも気を付けてな」
並びながら歩いていく『繋ぎ手』達を見送った後、店主の男性は手の中にある『アトラクトストラップ』に視線を落とした。
「……まあ、商売人としては幸運の招き猫は必須か。とりあえず、どのくらいの事を引き寄せてくれるかはわからないけど、これからよろしくな」
店主の男性は『アトラクトストラップ』の頭を撫でると、『アトラクトストラップ』は街灯の光を反射してキラリと光った。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。




