第39話 ポジティブライター 後編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
「ふんふーん♪ いやぁ、最近は気分が良いなぁ」
カラスが鳴き声を上げながら飛び、オレンジ色の空に徐々に星が見え始める夕暮れ時、スーツ姿の男性は嬉しそうな様子で誰もいない道を歩いていた。
「失敗がないわけではないけど、自信を持ってポジティブにやろうとする分、前よりは失敗も少なくなって、同僚や上司からも見直されるようになったのは、本当に嬉しいよな。
それに、あの子ともあの日から付き合えるようになって、休日にはデートもしたしこの前は一夜も共に出来たし、『ポジティブライター』に出会えて本当に良かった」
スーツ姿の男性はポケットから『ポジティブライター』を取り出しながら言うと、キャップを指で撫で始めた。
「いつも頼るわけにはいかないけど、こうやって持ってたりポケットに入ってたりするだけでも勇気を貰えるし、これからも『ポジティブライター』とは良い関係を築いていきたいな」
スーツ姿の男性が笑みを浮かべながら『ポジティブライター』を見ていると、後ろからゆっくりと近づいてくる足音が聞こえ、男性は静かに振り返った。
すると、話しながら歩いている『繋ぎ手』と助手の少年の姿が目に入り、男性は嬉しそうな様子で二人へと近づき、二人が男性の姿に気づいて足を止めると、同じように足を止めてから声をかけた。
「やあ、二人とも」
「ああ、お兄さんじゃないですか。お久しぶりです」
「お久しぶりです。あれから『ポジティブライター』とはどうですか?」
「良い関係を築けているよ。『ポジティブライター』のおかげで前よりは仕事も苦痛じゃなくなったし、彼女も出来たからね。二人には本当に感謝しているよ、どうもありがとう」
「いえいえ」
「ところで……『ポジティブライター』を火気厳禁のところで使うとどうなるんだい? 俺はタバコも吸わないから、そもそも『ポジティブライター』に頼る機会はポジティブになりたい時くらいなんだけど……」
スーツ姿の男性が『ポジティブライター』を見ながら不思議そうに首を傾げると、『繋ぎ手』は微笑みながらそれに答えた。
「火気厳禁のところで使うと、お兄さんの身体が火だるまになって、お兄さんの中にあるやる気や元気を燃やし尽くすまで火は消えないんです。そして、燃え尽きた後は何事にも興味を示せないようになって、誰とも関わらない何をしても何も感じられないという状態で一生を過ごす事になってましたね」
「うわ……それは怖いな。でも、これからも『ポジティブライター』とは良い関係を築いていきたいし、注意点についてはしっかりと守るよ。今は俺にも守りたい人がいるわけだしね」
「はい、それが良いと思います。そういえば……最近、お兄さんの近くで何か変な事ってありましたか? 例えば、前まで優しかった人が急に怖くなったとか……」
「ああ……あったよ。同じ会社の奴ですごく仕事熱心で周囲からも慕われていた奴が急に素行が悪くなった上に会社の金を横領して捕まったみたいなんだ。
でも、そう訊いてくるって事は君達の近くでも何かあったのかい?」
「……はい、この前『繋ぎ手』達が出会った女の子の彼氏もある時から急に変わってしまって、変わる前に『繋ぎ手』に似た子に会ったらしいので少し警戒しているんです」
「なるほど……それなら俺も気を付けないとな。彼女や会社の仲間達、実家の両親を悲しませるような真似は出来ないしね」
スーツ姿の男性が頷きながら言うと、『繋ぎ手』は満足げな様子を見せた。
「はい、そうした方が良いですよ。それじゃあ私達はそろそろ帰りますね。もし、他の子にも興味が出たら、『ポジティブライター』を持ってる状態ならお店まで来られる道を教えてもらえるので気が向いたら来てみてください」
「ああ、そうさせてもらうよ。それじゃあ二人とも、気を付けて帰ってくれよ」
「はい、ありがとうございます。それじゃあ失礼します」
「失礼します」
『繋ぎ手』達が揃って一礼をし、スーツ姿の男性が笑みを浮かべながら頷いてから歩いていくと、助手の少年は心配そうな表情を浮かべた。
「……また『繋ぎ手』とそっくりな子の仕業かな。なあ、本当に『繋ぎ手』は何も知らないのか?」
「……正直、なんとも言えないかな。ただ、お兄さんと妹ちゃんには近づかせないようにするから、二人は心配しなくても良いよ。いざとなったら、神様も手を貸してくれるしね」
「そうは言うけど……俺も妹もこの件については心配してるんだ。だから、俺達に出来る事があったら、遠慮なく言ってくれ」
「……うん、わかった。さてと、それじゃあ帰ろっか」
「……ああ」
助手の少年が答えた後、二人は歩き始めたが、『繋ぎ手』の表情はどこか暗いままだった。
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それでは、また次回。




