第39話 ポジティブライター 前編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
「ふぅ……本当にどうしたら良いかな……」
頭上には星空が広がり、辺りがすっかり暗くなった夜、公園のベンチにはスーツ姿の若い男性が座っていた。
「仕事でも人間関係でも失敗続きで、同僚や上司からも呆れられっぱなしな上に好きな人にまでクスクス笑われる始末……はあ、何とかしたいとこだけど、こんな沈んだ気持ちじゃどうにもならないよなぁ」
スーツ姿の男性がため息をつき、項垂れ始めたその時だった。
「そこのお兄さん、ちょっと良いですか?」
「え……?」
スーツ姿の男性が顔を上げると、そこにはセーラー服姿の少女とその隣に静かに立つ少年の姿があった。
「君達は……?」
「私達は道具と人間の橋渡し役とその助手です。お兄さん、なんだか落ち込んでたようですけど何かあったんですか?」
「……まあね。最近、何かと失敗続きで同僚達にも笑われる始末なんだ。それでどうにかしたいとは思うんだけど、気持ちが中々上向きにならなくてさ……」
「つまり、ポジティブ思考になれれば良いんですね。『繋ぎ手』、バッグを見せてくれるか?」
「うん、良いよ」
『繋ぎ手』がにこりと笑いながら答えてバッグを下ろすと、助手の少年はバッグの中に手を入れ、その中から銀色のライターを取り出した。
「それは……ライター、か? 見た感じだと、ジッポライターって奴みたいだけど……」
「この子は『ポジティブライター』という名前で、普通のライターとしても使えるんですが、所有者が自分や相手のこういう気持ちや感情、欲求に火を点けたいって考えながら使うと、どんなにネガティブになっていてもすぐにポジティブになれるんです」
「つまり、どんなに落ち込んでいても楽しい気持ちになりたいと思いながら使えば楽しくなれるし、自信がなくてもやる気になりたいと思いながら使えば自信が溢れてくるのか……」
「そんな感じです。そして、この子はお兄さんにプレゼントします。大切にして上げてくださいね」
そう言いながら『繋ぎ手』が『ポジティブライター』を手渡そうとすると、スーツ姿の男性は申し訳なさそうに首を横に振った。
「そ、そんな良いよ。それくらいの物をタダで貰うわけにはいかないし……」
「ああ、大丈夫ですよ。この子は店頭に並べられなかったり試作品だから渡しても良いって言われたりしてる子なので」
「そ、そっか……それならありがたく貰う事にするよ。どうもありがとう」
「いえいえ」
「ところで、『繋ぎ手』。『ポジティブライター』には注意点ってあるのか?」
「うーん……自分以外の人に対してむやみやたらに火を点けないのは当然として、火気厳禁のところで使っちゃいけないくらいかな。もちろん、安全面的に考えてもダメですけど、使ったら大変な事になるのでそれは守ってくださいね」
「……わかった。大変な事になりたくないから気を付けるよ」
スーツ姿の男性が真剣な表情で頷くと、『繋ぎ手』は満足そうに頷く。
「それじゃあ、私達はそろそろ帰りますね。その子の事、大切にして上げてくださいね」
「それじゃあまた」
「ああ、うん。二人とも、気をつけて帰ってくれよ」
『繋ぎ手』達が去っていき、その様子を見送ってからスーツ姿の男性は手の中の『ポジティブライター』に視線を落とした。
「……前向きになれるライターか。話が本当かはわからないけど、もしその力が本物なら俺はすがりたいな。それくらいじゃないと、俺も良い方へ向かえない気がするし……」
『ポジティブライター』を見ながらポツリと呟いた後、スーツ姿の男性は『ポジティブライター』をポケットにしまい、ベンチから立ち上がってそのままゆっくりと歩き始めた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。




