第38話 クリーンタオル 後編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
「……ふぅ、今日も学校疲れたなぁ。まあでも、心地よい疲れではあるし、それは前よりも充実してるからなんだろうけどね」
少しずつ空に星が瞬き始めた夕暮れ時、少女が一人で帰路に着いていた。しかし、その表情はどこか満ち足りた物であり、一人で帰っている事への孤独感は感じられなかった。
そうして歩いていると、反対側から『繋ぎ手』と助手の少女が手を繋いで歩いてくるのが見え、少女は嬉しそうに笑ってから手を振り始めた。
「おーい、二人ともー!」
その声に『繋ぎ手』達は気づくと、笑みを浮かべながらマネージャーの少女へと近づき、目の前で足を止めてから静かに口を開いた。
「こんにちは……いや、この時間だからこんばんは、かな。『クリーンタオル』とは仲良く出来てるようで良かったよ」
「あ、うん。一回力を借りてからは普通のタオルとしてしか活躍させられてないけどね」
「そうなんだね。そういえば……彼氏さんとはそれからどうなったの? 近くにはいないみたいだけど……」
「……うん、それなんだけど、私達別れたんだ」
「え……そ、そうなの?」
驚きと戸惑いが入り交じった表情で助手の少女が訊くと、マネージャーの少女は哀しそうに微笑みながら頷く。
「うん……『クリーンタオル』のおかげで前の彼に戻ってはくれたんだけど、それでもなんだかお互いにぎこちなくなっちゃって、一回友達に戻った方が良いって事になったの。
まあ、別れる前に全力で愛し合えたし、友達に戻った後も普通に話したり一緒に出掛けたりはするけど、たぶん私達がまた恋人同士に戻る事はないかな」
「そっか……」
「でもね、この選択に後悔はしてないよ。彼も一度反省の意味をこめて自分から雑用係を買ってでて野球部のメンバーとして真面目に取り組んでるし、私も彼もなんだか前よりも人生が充実してる感じがするからね。まあ、お互いにあの時の事をしっかり乗り越えた上でまた好きになれたら恋人同士に戻っても良いかなとは思ってるよ」
「……うん、そうなると良いね」
「ところで……『クリーンタオル』の注意点って破るとどうなるの? 言われた通り、使った後はすぐに洗う事にはしてるけど……」
「貴女ももう見たと思うけど、人の邪心や悪意を拭き取ると、そこの部分がすごく黒くなるの。それで、すぐに洗わないと染み込んだ邪心や悪意は中に蓄積されてしまい、そのまま誰かに使ってしまったら蓄積された邪心と悪意がその人に流れ込んでそれに支配されたひとになってしまうんだ」
「なるほど……それじゃあこれからも使ったらすぐに洗うようにするよ。救いたい人を自分から悪人にはしたくないしね」
「うん、それが良いと思うよ」
『繋ぎ手』の言葉にマネージャーの少女が微笑みながら頷いた後、『繋ぎ手』は助手の少女と繋いでいた手の力を微かに強くしてから静かに口を開いた。
「それじゃあ私達はそろそろ帰るよ。もし、他の子にも会ってみたくなったら、いつでもお店に来てみてね。『クリーンタオル』を持ってる状態なら、お店まで来られる道を教えてくれるからね」
「うん、わかった。あ……そういえば、貴女達って夜も出歩く事ってあるの?」
「うん、他にも道具と縁がある人はいるからね」
「でも、それが一体……?」
「うん、彼が悪い人達と付き合い始める前に不思議な女の子と出会ったみたいなの。道具を貰ったわけじゃないようだけど、その容姿が“貴女と同じ”だったみたいで、その頃から真面目に何かをするのがバカらしくなったって言ってたよ」
「……そうなんだ。でも、それは私じゃないよ。妹ちゃん達が来る前は一人で道具を渡してたけど、道具と縁がある人以外には基本的に会いに行かないし、私が悪事を働こうとしたらそもそも道具達が止めてくれるからね」
『繋ぎ手』が笑みを浮かべながら答えると、マネージャーの少女は安心したように微笑む。
「まあ、そうだよね。ごめんね、変な事言って」
「ううん、気にしないで。わざわざ教えてくれてありがとね、私達も気を付ける事にするよ」
「うん、それじゃあまたね」
「うん、またね」
「またね、お姉ちゃん」
そして、マネージャーの少女と別れて再び歩き始め、『繋ぎ手』が暗い表情を浮かべる中、助手の少女は不思議そうに首を傾げた。
「それにしても、お姉ちゃんみたいな人かぁ……偶然だと思うけど、やっぱり怖いね」
「……うん、そうだね。でも、そんな人が出てきても私とお兄さんがちゃんと守ってあげるから心配はいらないよ」
「うん、ありがとう、お姉ちゃん」
「どういたしまして」
助手の少女に対して微笑み返し、揃って前を向いて歩く中、『繋ぎ手』の表情は再び暗く、どこか忌々しそうな物へと変わっていった。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。




