第38話 クリーンタオル 中編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
雲一つ無い青空が広がる昼頃、静まり返ったある家の一室に置かれたベッドの上には一組の少年少女が座っており、体格の良い少年がどこかめんどくさそうに服をゆっくり脱ぐ中、その隣に座る少女は不安そうな表情で少年を見ていた。
「……ねえ」
「なんだよ」
「こんな時にする話じゃないのはわかってるんだけど、この前も悪そうな人達と一緒にいるところを見たっていう話を聞いたの。それって本当?」
「ちっ、ああそうだよ。あの人達は今のつまんねぇ毎日に刺激をくれてるんだ。あの人達と出会えなかったら、くそ真面目に部活をしてるだけの毎日が今も続いてたわけだから、感謝しかねぇよ」
「……そうなんだ。でも、私は心配だよ。そういう人達と関わってたら、いずれは犯罪にも手を貸さないと──」
「うるせぇな! 今日もお前みたいな魅力もなんもねぇ女に付き合ってやってるんだから、ぐちぐち言ってんじゃねぇよ!」
「う……ご、ごめん」
「ったくよ……ちっ、でけぇ声出したせいでよだれが垂れちまった。ほら、まだ彼女でいたいならさっさと拭けよ。お前よりも良い女も上手い女もいる中でこうしてわざわざ来て楽しんでやろうとしてんだからな」
「あ……う、うん……」
少女は哀しそうな表情を浮かべた後、ベッドからゆっくりと立ち上がって机に近づくと、その上に置いていた小さな白いタオルを手に取った。
「……もう、うまくやっていける自信は無いけど、せめてこのタオルの力で元の彼に戻って欲しい。だから、どうかお願い。私に力を貸して、『クリーンタオル』」
「おい、早くしろっての!」
「ご、ごめん。今行くから」
上半身を剥き出しにした少年の怒声に少女は怯えた表情で答えた後、再びベッドへと近づき、手に持った『クリーンタオル』を訝しげに見る少年の視線には反応せずに少年の口元を静かに拭った。
すると、タオルの表面は唾を拭っただけとは思えない程に黒くなり、その事に少女が驚いていると、少年は先程までの怒りや横柄な態度が消えたかのように一瞬ボーッとしていたが、やがてハッとしてから顔を真っ青にしながら頭を抱え始めた。
「お、俺は……一体なんて事を……!」
「……えっと、大丈夫……?」
「ご、ごめん! お前にも本当に酷い事したし、野球部のみんなにも本当に申し訳ない事をしたよな……お前は彼女としてもマネージャーとしてもいつも支えてくれたのに、乱暴な事もしたり他の女とも関係を持った事を自慢げに話したりもしたし……」
「……うん、たしかにそうだね。でも、今は君がこうして前の君に戻ってくれた事の方が嬉しいよ。それが……ほんと、に……嬉しい、よ……!」
安堵と喜びで込み上げていた涙をポロポロと流しながら少女が少年に抱きつくと、少年はそんな少女の様子に一瞬驚いた様子を見せたが、やがて申し訳なさと嬉しさが入り交じったような表情で抱き締め返し、室内にはしばらく少女が泣く声だけが響いていた。
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それでは、また次回。




