第35話 スケールレンズ 後編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
よく晴れた日の昼、助手の少年と共に学校の廊下を歩いていた『繋ぎ手』は気持ち良さそうに体を上へと伸ばした。
「うーん……今日も良い天気だなぁ。お昼ご飯食べてお腹いっぱいだし、中庭でお昼寝でもしようかな……」
「するのは良いけど、寝過ごして授業に遅刻しないようにしろよ?」
「あははっ、大丈夫だよ。時間の前にはお兄さんに起こしてもらうからね」
「俺が起こす前提なのか……まあ、放っておく気もないし、それくらいは良いけどな」
「ふふ、ありがとう。それかお兄さんも私と一緒にお昼寝する? 私の事を抱き枕にしてくれても良いし」
「しない。それに、俺まで寝たら起こせないだろ」
「ふふっ、それもそうだね」
『繋ぎ手』が楽しそうに笑い、助手の少年がため息をついていたその時だった。
「あ……君達は……!」
「え……?」
「ん……?」
突然聞こえてきた嬉しそうな声に二人が声を上げながら顔を向けると、そこには笑顔を浮かべる学生服姿の少年とその半歩後ろに立ちながら『繋ぎ手』達を見るロングボブの少女がいた。
「ああ、この前お店に来てくれた人だよね。こんにちは、『スケールレンズ』の調子はどうかな?」
「うん、バッチリだよ。あ、そうだ……この子がこの前言った子で、僕の幼馴染みなんだ」
「……初めまして」
「初めまして。私は道具と人間の橋渡し役でこちらの彼は助手をしてくれる男の子だよ」
「初めまして。ところで……『スケールレンズ』を使っていて何か困った事ってあったか? 一応、俺が縁の縄を視た事で出会わせたわけだし、何かあったら解決出来るように取り計らうけど……」
助手の少年が不安そうに訊くと、学生服姿の少年は笑顔で首を横に振る。
「ううん、大丈夫。最初は視えた感情の正体がわからない時があったけど、今ではこの子と一緒にどの感情がどれかを確認してあるから、変に大きさを変えてしまう事もなくなったよ。それに……『スケールレンズ』のおかげで、僕達は付き合う事も出来たしね」
「あ、そうなんだ! わぁ、おめでとう」
「……ありがとう。『スケールレンズ』のおかげでクラスメート達とも話しやすくなったし、男子からも話しかけられるようになったけど、私も彼も昔から一緒にいたから、私も彼と話したくて彼も私が男子と話してる時に嫉妬をしてくれていて、二人でその想いを伝えあった事で付き合う事になったの」
「なるほどな。でも……そうなると、『スケールレンズ』の出番ってあまり無くなったんじゃないか?」
「そんなにしょっちゅうは使わなくなったけど、彼女のように感情を出すのが苦手な人はいるだろうから、将来は彼女と『スケールレンズ』と一緒にそういう人達に関わる仕事をしたいんだ」
「ふふ、そっか」
希望に満ち溢れた表情で言う学生服姿の少年の言葉に『繋ぎ手』が嬉しそうに答えていると、ロングボブの少女はふと何かを思い出したような表情で首を傾げた。
「そういえば……『スケールレンズ』には注意点があるって聞いたけど、もしそれを守らなかったらどうなるの?」
「守らなかったらね……性格がまるっきり変わるところだったよ」
「性格が変わる……」
「『スケールレンズ』は感情の拡大と縮小が出来るんだけど、拡大しすぎるとその感情に支配されて性格もそれに応じた物になってしまうし、縮小し過ぎると逆にその感情が消えて二度と元に戻らなくなってしまうんだ」
「そうだったんだ……」
「まあでも、二人ならもう大丈夫だよ。『スケールレンズ』無しでもお互いの気持ちがわかって、支え合う事が出来ているようだからね」
そう言いながら『繋ぎ手』はにこりと笑い、それに対して学生服姿の少年はロングボブの少女と顔を見合わせると、どちらともなく安心したように笑いあった。そして、ロングボブの少女は少年の袖をつまむと、軽く二度ほど引っ張った。
「……それじゃあそろそろ行こう。職員室に用事があるわけだし」
「うん、そうだね。それじゃあまたね、二人とも。また機会があったら彼女と一緒にお店に寄らせてもらうよ」
「うん、『スケールレンズ』を持っていればどこからお店に行けるかわかるはずだし、来てくれるのを楽しみにしてるね」
「うん、わかった」
『繋ぎ手』の言葉に学生服の姿の少年が頷いた後、二人は『繋ぎ手』達の横を通って歩いていき、その姿を嬉しそうに見る『繋ぎ手』の姿に助手の少年はどこか安心したように微笑む。
「あの二人、いつまでも仲良いといいな」
「うん、そうだね。お兄さんも将来付き合う人が出来たら、その人を大切にしてあげるんだよ?」
「はいはい。さて、それじゃあ中庭に行くか。さっき昼寝する気満々だったみたいだし、ちゃんと起こしてやるから安心して寝て良いぞ」
「ほんと? わぁ……お兄さん、大好き!」
「まったく……大好きとか簡単に言うなっての。ほら、行くぞ」
「はーい」
『繋ぎ手』が元気よく返事をし、それに対して助手の少年がため息をついた後、二人は中庭へ向けて並んでゆっくりと歩き始めた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。