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不可思議道具店  作者: 伊達幸綱
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第35話 スケールレンズ 中編

どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。

「それじゃあ、行ってきます」


 雨雲が影も形もない程よく晴れた朝、学生服姿の少年が家族に声をかけてから玄関のドアを開けて外へ出ると、そこにはセーラー服姿の黒いロングボブの少女が立っていた。


「……おはよう」

「あ、おはよう。今日も家まで迎えに来てくれてありがとう」

「……いつもの事だから」


 ロングボブの少女は表情を変えずにどこかそっけなさそうに答えたが、学生服姿の少年はそれに対してにこりと笑う。


「でも、嬉しいよ。それじゃ、そろそろ学校に行こうか」

「……うん」


 ロングボブの少女が頷きながら答えた後、二人は並びながら歩き始めた。歩いている間、二人の間に会話はあまり無かったが、特に表情を変えない少女に対して少年は嬉しそうに笑っていた。

歩き始める事数分、校門が近づくにつれて少女の表情が少しずつ強ばっていくと、それを見ていた少年は何かを思い出したようにポケットから持ち手の先がマウスカーソルのようになっている虫眼鏡を取り出した。


「……よし、これを使ってみよう」

「それは……虫眼鏡?」

「そう。ウチの学校に不思議な道具を持ってるこの噂があるでしょ? 昨日、その子に出会って手に入れたんだ。

『スケールレンズ』っていう名前らしくて、レンズを使うと相手の今の感情を確認出来て、こっちのマウスカーソルみたいな物を体に当てると、その感情を大きくも小さくも出来るみたいだよ」

「感情の視認と拡大縮小……それはすごいね」

「うん。だから、今これを使ってみても良いかな? この『スケールレンズ』の力があればもしかしたら周囲の人からの印象も変わるかもしれないんだ」

「印象が……うん、わかった。少し怖いけど、やってみる」

「よし……それじゃあ覗いてみるね」


 そう言いながら学生服姿の少年がロングボブの少女をレンズ越しに見ると、少女の胸部にはデフォルメされた少女の顔が幾つか表示されており、目を固く閉じながら震えているひときわ大きな物や満面の笑みを浮かべる中型の物、頬を染めながら上目遣いで見ている物や迷い無く前をまっすぐ見ている物までその種類は様々だった。


「すごい……これ、全部今君の中にある感情なんだね」

「そんなにあるの……?」

「うん、大きさはそれぞれ違うみたいだけどね。えーと……一番大きいのがたぶん“恐怖”でその次が“嬉しさ”、後は……」

「……出来れば早めにお願い」

「あ、ごめんね。それじゃあ……恐怖を小さくして、この“勇気”みたいなのと上目遣いで見ているのを大きくしてみようかな」


 そう言うと、学生服姿の少年はロングボブの少女の肩に持ち手の先をつけ、感情を表す顔を思い浮かべながら拡大と縮小を行った。

すると、強ばっていた少女の表情は頬を軽く染めながらもどこか嬉しそうに微笑んでいる物に変わり、その変化に少年がドキリとしていると、少女は自分の腕を少年の腕へと絡ませた。


「え……ど、どうしたの……?」

「今ならこう出来そうだったから。ほら、早く行こう?」

「あ……う、うん……」


 微笑むロングボブの少女の言葉に少年がどぎまぎしながら答え、二人が歩いていくと、周囲の視線は少女へと注がれ、少女を見る男子生徒達からはざわめきがもれた。

しかし、その周囲の様子に少女は反応を示さず、それとは逆に少年はどこか落ち着かない様子で周囲を見回した。


「な、なんだか……注目されているような……」

「そう? でも、良いんじゃないかな。私は気にしないし、このまま教室まで行きたい気分だから」

「そ、そっか……それにしても、あの虫眼鏡の力はすごいんだね」

「うん、そうだね。でも、本当はそれ無しでもこうしたいかな……」

「え、何か言った?」

「……何でもない。ほら、行こう」

「……うん」


 会話によって学生服姿の少年がようやく落ち着いた後、二人は周囲からの視線を浴びながら自分達の教室へ向けて並んで歩いていった。

いかがでしたでしょうか。

今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。

それでは、また次回。

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