第35話 スケールレンズ 前編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
「……ふぅ、それにしても初日の自己紹介は緊張したなぁ……」
現世から隔絶された空間に立つ不思議な道具達を扱う『不可思議道具店』。よく晴れた青空が広がる昼頃に店内で少年が息をついてから独り言ちていると、それを隣で聞いていた少女はクスクスと笑った。
「お兄さんにとっては久しぶりの学校だったしね。でも、ウチのクラスは担任の先生も含めて私達の事情はわかってるし、なんだったら他の生徒や先生にも知っている人はいるから、安心して学校生活を送れるよ」
「まあ、それは安心だな。それにしても……お前ってクラスでも『繋ぎ手』って呼ばれてるんだな。学校で使うための名前はあるのに、クラスの奴から『繋ぎ手』って呼ばれるのを聞いて少し驚いたぞ」
「最初は名前で呼ばれてたけど、少し経った頃にみんなが私の事情を知るきっかけになった出来事があって、それからは『繋ぎ手』って呼ばれるようになったんだ。
私としてはこっちの方が呼ばれ慣れてるし、中にはつーちゃんとかつなっちなんて呼んでくれる子もいるから、私としては嬉しい事だよ」
「なるほどな……」
「まあ、その流れでもお兄さんもお兄さんって呼ばれたりそれをもじったあだ名をつけられると思うから楽しみにしておいてね」
「はいはい……」
助手の少年が少し呆れたように答えていたその時、突然二人は揃って玄関へ視線を向けた。
「……お兄さんもわかった?」
「……ああ、『繋ぎ手』のポケットの中の道具と誰かと縁の縄が繋がってるみたいだ。けど、何と繋がってるかまではわからないな……」
「まあ、それは仕方ないよ」
『繋ぎ手』が笑いながら言っていた時、玄関のドアが開き、そこには驚いたように店内を見回す少年の姿があった。
「いらっしゃいませ。『不可思議道具店』へようのそ」
「道具店……あの、普通に道を歩いていたらいつの間にかここに来ていたんだけどここってどこなのかな?」
「ここは現世から隔絶された空間らしくて、この店の中の道具と縁がある人が導かれるところみたいだ。ところで、何か悩みって無いか?」
「悩み……うん、友達の事でちょっとね」
「友達?」
「そう。その子、あまり感情表現が得意じゃなくて、僕は付き合いも長いからどういう感情なのかはわかるんだけど、他の子からは誤解されやすくて、それでどうしたら良いかなって思ってたんだ」
「なるほど……お兄さん、ちょっと服のポケットの中を見てくれる?」
「ああ、わかった」
助手の少年は頷いてから『繋ぎ手』の服のポケットに手を入れ、その中から一つの虫眼鏡を取り出した。
「それは……虫眼鏡? 持ち手のところがマウスカーソルみたいになってるけど……」
「この子は『スケールレンズ』という名前で、レンズ越しに誰かを見ると、その人の現在の感情が確認出来て、こっちの持ち手でその人の体に触れると、その感情を大きくしたり小さくしたり出来るの」
「感情を……」
「例えば、君がちょっぴり哀しい時にこの子を使って哀しみの感情を大きくするとすごく哀しくなって、すごく怒ってる時に怒りの感情を小さくしたら怒りも収まるみたいな感じだね」
「そんな事が……あ、ウチの学校で噂になっている不思議な道具を持ってる子って君の事だったんだね」
「噂って……そんな存在になってるんだな、お前って」
「ふふっ、まあね。さてと……君の悩み、この子の力を借りてみる気はある?」
『繋ぎ手』が『スケールレンズ』を持ちながら訊くと、少年は少し悩んだ後に静かに頷いた。
「……うん。このままじゃ、あの子は他人から誤解されたまま辛い日々を送る事になるし、手助けが出来るなら僕は助けてあげたい」
「うん、了解。それじゃあこの子は君にプレゼントするよ。大切にしてあげてね」
「えっ……ここはお店なのに代金は払わなくて良いの?」
「店頭に並んでる子はそうだけど、この子は店頭には並べられなかったり試作品だから持っていって良いって言われてる子だから大丈夫だよ」
「そうなんだ……それじゃあありがたくもらおうかな。どうもありがとう」
「どういたしまして」
「ところで、この道具には注意点ってあるのか?」
「うん、あるよ。この子は感情の視認や拡大と縮小が出来るけど、拡大と縮小はやりすぎてしまうと大変な事になるから、それは気をつけてね」
「大変な事……うん、わかった。気をつけるようにするよ。それじゃあ僕はこれで」
「うん、またね」
「またな」
少年が頷いてからドアを開け、そのまま店を出ていくと、助手の少年は少し不安そうな表情を浮かべた。
「……感情の視認と操作が出来る道具か。結構危険性高いけど大丈夫かな……」
「普通に使う分には大丈夫だよ。ただ、さっき言った注意点さえ守ればだけどね」
「そっか。まあ、俺達はうまくいくように祈るしかないか」
「そうだね。それじゃあ御師匠様と妹ちゃんが帰ってくるまで私はお店の子達と話してようかな」
「それじゃあ俺は店先の掃除をしてくるよ。また落ち葉が溜まってそうだし」
「うん、了解♪」
返事をした『繋ぎ手』が店頭に並ぶ道具達と話し始める中、助手の少年はそんな『繋ぎ手』の姿をどこか安心したように見つめてから玄関のドアを開けて外へと出ていった。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。