第34話 トゥルースライト 中編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
「……ようやく昼か」
校内に昼休みの始まりを告げるチャイムが鳴り響く中、男性教師はため息混じりに呟く。直前に受け持っている授業が無かった男性の他には教頭や副校長を含めた数名しか職員室にはおらず、男性は軽く周囲を見回してから通勤用の鞄の中から一本の懐中電灯を取り出した。
「……朝は機会が無かったけど、昼からはこの『トゥルースライト』の力を試してみるか。ライトで照らした相手の影がその人の悩みや本質を教えてくれるみたいだけど、持ってるだけでも一応効力はあるようだからな」
独り言ちてから男性教師がポケットに『トゥルースライト』をしまっていると、近づいてきていた副校長が男性へと声をかけた。
「先生、少しよろしいですか?」
『はあ……なんだか申し訳ないなぁ』
「え……」
副校長の声に若干重なる形で影から声が聞こえ、男性教師が驚いていると、副校長は怪訝そうな表情を浮かべた。
「……先生、どうかされましたか?」
『先生……私の言い方が気に触ったら申し訳ありません……』
「あ、いえ……少し気が抜けていたのでビックリしてしまって……」
「そうでしたか。今は生徒の前ではありませんが、教師として恥ずかしくないようにしてくださいね」
『私……いつもこんな感じですが、これは臆病な自分を隠すための物なので、先生方には申し訳ないと思っているんです……』
「はい、すみません……あの、俺に何か用事でしたか?」
「はい、今夜の宿直なのですが……当番の先生が体調不良でお昼に早退なさるので、代わりに先生にお願いしたいのです」
『別に断って頂いて大丈夫ですが、出来れば受けて頂ければ幸いです……』
言葉こそどちらも丁寧だったが、生真面目さが露になっている表と気弱さが目立つ裏の声に男性教師はおかしさを感じながらも表の声に対して頷きながら答えた。
「大丈夫ですよ。体調不良という事なら仕方ないですし、俺も近日中に当番だったので問題ありません」
「それはよかったです。それでは、今夜はお願いしますね」
『ありがとうございます、本当にありがとうございます……!』
「はい、わかりました」
副校長が満足げに去っていき、副校長の影からの声が聞こえなくなると、男性教師は耐えられなくなりクスクスと笑い始めた。
「……ふふ、副校長って本当はあんな人なんだな。いつも言葉がキツめで話しかけづらかったけど、もし機会があったら飲みに行ってみるのもいいかもしれない。
それにしても……『トゥルースライト』の力はすごいんだな。弱い力でもここまで相手の本質を知られるなら、直接照らしたらもっと深いところまで知る事が出来るんだろうけど……流石にちょっと怖いか。まあ、本当に知らないといけない時までそれは止めとこ」
そう言いながらポケットの中の『トゥルースライト』を撫でた後、男性教師は鞄の中から弁当を取り出し、いただきますと口にしてから食べ始めた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。