第34話 トゥルースライト 前編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
「ふぅ……今日も疲れたな」
夕焼け空の下、疲れた様子のスーツ姿の男性が一人で歩いていた。
「それにしても……生徒達の心がまったくわからなくて参ったな。この前も成績優秀な生徒が学外では犯罪に手を染めていたみたいだし、教師としては生徒達の考えてる事や悩みには敏感でいたいんだけど……」
スーツ姿の男性が腕を組みながら歩いていたその時だった。
「そこのお兄さん、どうかしましたか?」
「え……」
突然聞こえてきた声に疑問を感じて立ち止まってから振り返ると、そこにはセーラー服姿の少女と赤色のパーカーに若草色のスカート姿の少女が立っていた。
「君達は……ウチの学校の生徒ではないようだけど、いったいどうしたのかな?」
「お兄さんが何か悩んでいるようだったのでちょっと気になったんです。それで、何を悩んでいたんですか?」
「悩み……まあ、君達に話す事でもないんだけど、生徒達の考えてる事や悩みには敏感でいたいと思ってね。教師として生徒達には安心して学校生活を送ってほしいから、何か悩んでいたり裏で何かやっていたりするならそれは知っておきたいんだよ」
「なるほど……つまり、生徒さん達の真実が知りたいんですよね?」
「真実……そうだね、踏み込みすぎてもダメだけど、少しはその生徒の真実に迫りたいかもしれない」
「真実……妹ちゃん、バッグの中からぴったりな子がいるか見てくれる?」
「うん!」
助手の少女は大きく頷きながら答えると、『繋ぎ手』が下ろしたバッグの中に手を入れ、小さな懐中電灯を取り出した。
「この子が一番相性が良いみたいだよ」
「懐中電灯……?」
「この子は『トゥルースライト』という名前で、普通の懐中電灯としても使えますが、この子で誰かを照らすと、その人の悩みや本質を影が教えてくれるんです」
「悩みや本質を……でも、明るい時にやろうとしたら、怪しまれそうだよな……」
「ああ、それは大丈夫ですよ。少し効力は弱くなりますけど、持っているだけでも近くにいる人の悩みや本質はわかるので」
「なるほど……それは便利だな。日常的にも使えるし、夜の見回りや宿直でも活躍してくれそうだ」
「という事で、この子はお兄さんにプレゼントします。大切にしてあげてくださいね」
そう言いながら『繋ぎ手』が『トゥルースライト』を手渡そうとすると、スーツ姿の男性は驚いた様子を見せた。
「え、良いのかい? そんなにすごい物なら、別に代金くらい払うのに……」
「大丈夫ですよ。この子は店頭に並べられなかったり御師匠様から試作品だから渡しても良いと言われている物なので」
「そ、そっか……そういう事ならもらっておくよ。どうもありがとう」
「いえいえ」
「ところで、お姉ちゃん。この子に注意点ってあるの?」
「注意点……そんなのがあるのかい?」
「道具の中には使用する際に気をつけないといけない子がいるんです。この子の場合、特に気をつけないといけない事は無いですが、強いて言うなら相手の真実が見えてもそれを受け入れられる程の覚悟はしておいた方がいいくらいです」
「真実……そうだね、人間の心の奥底にある物なんて誰にもわからないし、どんな事になってもいいように覚悟は決めておくよ」
スーツ姿の男性の言葉に『繋ぎ手』は嬉しそうに頷く。
「はい。それでは、私達はそろそろ失礼します。その子の事、大切にしてあげてくださいね」
「ああ、もちろんだ。二人とも、気をつけて帰ってくれよ」
「はい、ありがとうございます。それでは、失礼します」
そして、『繋ぎ手』達が手を繋ぎながら仲睦まじそうに帰っていくと、スーツ姿の男性は手の中にある『トゥルースライト』に視線を向けた。
「……生徒達の真実、か。どんな事が待ってるかはわからないけど、それを受け入れるだけの覚悟は決めないとな」
『トゥルースライト』を握りながら真剣な表情で頷くと、スーツ姿の男性はそのまま踵を返し、ゆっくりと歩き始めた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。