第33話 メモリーイレイザー 中編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
「……ふぅ、食った食った」
辺りも静まり返った夜、男性はテーブルの上に置かれた空の食器を見ながら満足げに独り言ちると、ごちそうさまと口にしてから食器をシンクへと運んだ。そして、静かに洗い物をしていた時、男性の表情は暗くなり、口からはため息が溢れた。
「はあ……本当なら今頃はレストランで夕食を食べて、その後に綺麗な夜景を一緒に見てたはずなのに、デート中にうっかり前の彼女との苦い記憶を思い出して、それをポロっと言うなんて本当にバカな事をしたな。
流石にまだチャンスはあるだろうけど、今回の件で心証は悪くなってるのは間違いない。だから、次はしっかりとしないと……」
決意を抱きながら男性が洗い物を終え、布巾で手を拭きながらソファーに座ろうとした時、男性はソファーの上にある小さなボトルが目に入ると、一瞬不思議そうに首を傾げたが、すぐに納得顔で頷いた。
「……ああ、そうだ。夕食の準備で忘れてたけど、帰ったらこれを試してみようとしてたんだったな。たしか……『メモリーイレイザー』っていう名前で、書いた記憶を綺麗に消せるって言ってたはずだけど、効果を実感するために何の記憶を消したかメモに残した方が良いよな。えーと、メモメモ……」
男性はメモ帳とペンを用意すると、忘れたい記憶を幾つか書き出し、別のページにも同じ内容を書いた。
「よし……これで良いな。それじゃあまずは……前の彼女とキスをしようとした時、つまづいてそのまま頭をぶつけてしまった記憶を消してみるか。あれが原因でキスが少しトラウマになってたし、それが……無くなればきっと何か変わるはずだ」
男性はメモ帳を見ながら独り言ちた後、『メモリーイレイザー』のフタを開け、蓋の裏に付いていた刷毛を使って文字の上から中の液体をゆっくりと塗った。
すると、男性は一瞬ボーッとしたが、すぐにハッとしながら別のページを開き、書いている内容に目を向けた。
「……これを書いた記憶はある。けど、この出来事についての記憶がまったくない……つまり、記憶の消去は成功したんだ……!
すごい、すごいぞ……これなら、今までの辛い記憶は全部消せて、新鮮な気持ちで彼女に接する事が出来る。嫌な記憶に悩まされる事も無くなるぞ!」
男性は嬉しそうに声を上げると、別の記憶を忌々しそうに見てから楽しそうに『メモリーイレイザー』を塗り始め、その作業と歓喜の声は夜遅くまで続いた。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。