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不可思議道具店  作者: 伊達幸綱
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第33話 メモリーイレイザー 前編

どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。

「はあ……本当にどうしたものかな……」


 カラスの鳴き声が聞こえる夕暮れ時、一人の男性が重い足取りで歩いていた。


「今日はデートだったのに、前の彼女との事をうっかり口に出しちゃって全部パーになったし……今回の件もずっと記憶に残りそうだし、なんだか嫌だな。

はあ……ずっと辛い記憶に悩まされるのは嫌だし、うまく忘れる方法は無いのかな……」


 ため息混じりに男性が呟いていたその時だった。


「お兄さん、ちょっと良いですか?」

「え……?」


 突然聞こえてきた声に男性が驚きながら振り返ると、そこにはにこにこと笑う少女とその隣で男性の胸の辺りと少女が背負うバッグを交互に見る少年の姿があった。


「……君達は誰なのかな?」

「私達は道具と人間の橋渡しをしている者です。それで、お兄さん。何かお悩みがあるんじゃないですか?」

「悩み……強いて言うなら、記憶に(さいな)まされている事かな」

「記憶に……?」

「俺は良い事よりも悪い事の方が記憶に残りやすいんだよ。だから、それを連想する事がある度に記憶が蘇るし、それが嫌で仕方ないんだ」

「つまり、嫌な記憶を消したいわけですね……お兄さん、バッグの中によさそうな子っている?」

「ああ、いるみたいだ。ちょっとバッグを見せてくれるか?」

「ほいほーい♪」


『繋ぎ手』がバッグを下ろし、助手の少年はバッグの中に手を入れると、ボトルのような物を取り出した。


「ボトル……? 少し小さめだけど、それは何なのかな?」

「これは『メモリーイレイザー』という名前で、自分の消したい記憶を何かにペンで書いて、それをこの子の中にある液体で消すと、記憶が綺麗さっぱり消えるんです」

「記憶の修正液って事か……その記憶って自分以外の人のも消せるのかい?」

「消せますよ。消したい記憶がある人にその記憶を書いてもらって、それをこの子で消せばその人の中の記憶はしっかりと消えます。ただ、その人がおとなしくそれを書いてくれるかはわかりませんけどね」

「たしかに……」

「そして、この子はお兄さんにプレゼントします。大切にしてあげてくださいね」


『繋ぎ手』が『メモリーイレイザー』を手渡そうとすると、男性は驚いた様子で首を横に振る。


「え……だ、大丈夫だよ。たしかに消したい記憶はあるけど、ただでもらうのは申し訳ないし……」

「ああ、大丈夫ですよ。この子は店頭に並べられなかったり御師匠様から試作品だから持っていっても良いと言われてる子なので、遠慮なくもらってください」

「そ……そういう事ならもらうよ。どうもありがとう」

「いえいえ。ただ、その子には注意点があって、消した記憶は元に戻せませんし、消したくない記憶があっても何かに書いた上からこの子がかかってしまうと、その記憶も消えてしまうのでそれは気を付けて下さいね」

「つまり、日記やメモには近づけない方が良いって事か。わかった。そうするよ」


 男性が答えると、『繋ぎ手』はそれに対して微笑みながら頷く。


「誰しも消したくない記憶はありますからその方が良いです。それじゃあ私達はそろそろ失礼しますね。その子、大切にしてあげてくださいね」

「ああ、わかった」

「それじゃあ失礼します」


 そう言って『繋ぎ手』と助手の少年が並んで歩きながら去っていくと、男性は手の中にある『メモリーイレイザー』に目を向けた。


「……嫌な記憶を消せる道具か。これさえあれば、過去の苦い記憶も消えて、彼女の中からも今日のデートの記憶を消せるかもしれない。よし……家に帰ったら色々試してみよう」


 男性は『メモリーイレイザー』をポケットにしまうと、先程よりも明るい表情で歩き始めた。

いかがでしたでしょうか。

今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。

それでは、また次回。

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