第32話 プリコグニションカレンダー 後編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
「……ふぅ、今日も学校終わりっと。今日も疲れたなぁ……」
ある日の夕方、少女は誰もいない道を一人で帰っていた。その手には幾つかの出来事が箇条書きにしたメモがあり、少女はメモに視線を移すと、下方に書かれた出来事に表情を暗くした。
「……午後6時に不審者に遭遇する。本当なら誰かと一緒に帰りたかったけど、帰ってくれる相手がいなかったから、結局私一人になっちゃったなぁ。
でも、これも仕方ないよね。『プリコグニションカレンダー』の予知を参考にしながら過ごしてただけなのに、周りからは未来がわかるかのように動く不気味な存在扱いされてるようだから。はあ……それにしても、どんな不審者が出てくるのかな。せめて痛い事だけはしないでくれると助かるけど」
少女が憂鬱そうに独り言ちながら歩いていると、向かい側からコートを着た男性が歩いてきたが、その男性は素足だった上に足首の近くが剥き出しになっており、興奮しているかのように息がとても荒かった。
そして、男性は突然道の真ん中で立ち止まると、少女が近づいてくるのを見ながら荒い息づかいでコートに手を掛け、その様子に少女が恐怖と不安でいっぱいになっていたその時だった。
「あっ、こんなところにいたんだね」
「え……?」
突然背後から声をかけられた事で少女が体をビクリと震わせてからゆっくりと振り返ると、そこには同い年くらいのブレザー姿の少年が立っており、端整な顔立ちの少年は優しく微笑んでいたが、その目は前方でこちらを睨み付けている男性の動きを警戒していた。
「あ、貴方は……?」
「……しっ、何も聞かずにこのままついてきて。このままだとあの不審者が僕達に近づいてくるかもしれないから、すぐにここから離れよう。良いね?」
「あ……う、うん……」
少女は不思議がりながらも素直に頷くと、男性が忌々しそうに舌打ちをする中で少年と一緒に道を戻り始め、数分程度歩いて男性が近くにいない事を確認すると、安心したように胸を撫で下ろした。
「……よかった、あの人はいないみたい」
「そのようだね。よかったよ、君の事を助けられて」
「えっと、助けてくれてありがとう。でも、どうして私を助けてくれたの? 私達、初めましてのはずだし、私を助ける理由なんて無いと思うけど……」
「不審者に襲われそうな人を放ってはおけないよ。それに、君からすれば覚えていないかもしれないけど、僕からすればそうじゃないしね」
「え……そ、そうなの?」
「ほら、数日前に誤って赤信号なのに道路に出ようとした人を助けたでしょう? あれが僕だったんだよ」
「あ……そういえば、そんな事もあった気がする。でも、あれだけでよく私の事を覚えてたね。危ないよって声をかけたのも少し離れたところからだったし、すぐにいなくなったから顔なんてまったく見えてなかったと思うけど……」
少女が首を傾げていると、少年は軽く頬を染めながら照れくさそうに答える。
「実は君の学校に知り合いがいてね。制服からどこの子かはわかったから、その知り合いに特徴を話してみたら同じクラスのようだったみたいで、いつ頃帰っているのかを予め聞いていたんだ。
だけど、僕は中々誰かに声をかけにいけない方だから、いつ声をかけようかなんて考えながら声をかけるチャンスを窺っていたら、あの不審者に気づいて思わず声をかけていたんだよ」
「そうだったんだ。でも、あれくらい気にしなくて良いし、私にあまり近づかない方がいいよ。私、クラスメート達から不気味な存在扱いされてるし、私に近づいたら貴方も同じような目で見られるだろうし……」
「彼からもそれは聞いたよ。まるで未来がわかるかのように動くから同性のみならず異性からも好意を向けられてはいないって。でも、僕は君の事をそんな目では見ないよ。
本当に未来がわかっているならすごいと思うし、君自身も悪い子じゃない。それなら、嫌う理由はまったく無いし、僕はこの縁を大切にしていきたい。いきなりこんな事を言われても困るだろうけど、あの日から少しずつ君の事を意識し始めてるみたいだから」
「私の事を……」
「うん。だから、まずは友達から始めさせてほしいんだ。そして、一緒に出掛けたり話したりして、もっと君の事を知っていきたい。ダメかな?」
「だ、ダメじゃないよ。えっと……私の方こそよろしくお願いします……」
「うん、これからよろしくね」
少年が微笑み、少女がはにかんだように笑う中、その様子を『繋ぎ手』と助手の少女は安心したように見つめていた。
「あの子、幸せそうでよかったね」
「うん、そうだね。これであの子の悩みを完全に解決出来たかはわからないけど……幸せそうだし、あのお兄さんならたぶんあのお姉ちゃんの事を受け止めてくれそうだよね」
「だね。妹ちゃんも将来は良い人を見つけて、お互いの幸せのために頑張るんだよ?」
「はーい。それじゃあそろそろ帰ろっか。今日も頑張ったから、お兄ちゃんに頭撫でてもらいたいし」
「ふふ、それじゃあ私も一緒に撫でてもらおっと」
『繋ぎ手』の言葉に二人は笑い合った後、出現させた青い渦の中へと進んでいき、そのまま静かに姿を消した。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。