第3話 さとりイヤホン 後編
どうも、伊達幸綱です。それでは、早速どうぞ。
「はあ……」
夕暮れ時、学生服姿の少年が暗い表情で公園のブランコに座りながらため息をついていた。そして、ポケットから取り出した白と黒のワイヤレスイヤホンを見ると、再び深くため息をつく。
「……この『さとりイヤホン』のおかげであの子の心の声が聞けたのはよかったけど、まさか裏ではあんなに悪どい事をしてたなんてな……。
これが無かったら、もしかしたらあの子やその仲間に利用されてたかもしれないけど、知ったら知ったでだいぶショックだな……」
少年が俯きながら三度ため息をつき、誰もいない公園にブランコの軋む音が響く中、少年へ向かって一人の少女が近づいていった。
「こんなところにいた。おばさんからまだ帰ってないって聞いて探しにきてみたけど……どうしてこんなところで落ち込んでるのよ?」
「……お前か。別に良いだろ、ほっとけよ」
「ほっとけないから探しに来たんでしょ?」
少女は隣のブランコに腰掛けると、軽くブランコを漕いでから少年に声をかけた。
「もしかして学校ですごい人気のあるあの子の事?」
「……ああ。詳しくは話せないけど、あの子が裏ではだいぶ悪どいっていうのを知ってショックを受けてな……」
「なるほどね。でも、これで良い勉強になったじゃない。見た目が良いからって必ずしも中身まで良いとは限らないって事よ。いないわけではないけど、少なくともあの子はそうじゃなくて、変に利用される前に気づけて手を出さずに済んだわけだからそれは喜びなさい」
「素直に喜べないって……お前は好きな相手が出来た事無いからそんな事が言えるんだよ」
「……そんな事を平気で言えるあんただから、そんな女に引っ掛かりそうになるのよ。それに、アタシだって好きな相手くらいいるわ」
「……え?」
少女の言葉に少年が弾かれたように顔を上げると、少女は呆れたようにため息をつく。
「はあ……あんた、幼馴染みの事すらもしっかりとわかってないじゃない。そんなんじゃ誰かと付き合えてもすぐにフラレるわよ?」
「う、うるさいな……それで、好きな相手って誰なんだよ?」
「……内緒よ。あんたに話したら他の人にもほいほい話しちゃいそうだから話せないわよ」
「はあ? なんだよ、それ」
「少なくとも、少し騙されやすいようだから、アタシが隣にいないといけなさそうな相手よ」
「お前が隣に……」
「あれ、もしかして羨ましくなった?」
「……いや、誰かは知らないけど、ソイツはだいぶ苦労しそうだなと」
その少年の言葉に少女はガッカリしたようにため息をつくと、ブランコからゆっくりと降り、静かに夕焼け空を見上げた。
「……まあ、そういう鈍いところも嫌いじゃないけど」
「ん、何か言ったか?」
「何でもない。さあ、早く帰るよ。アタシもおばさんからご褒美のケーキをもらいたいし」
「ケーキ?」
「そう。今日のおやつらしいんだけど、私の分も買ってきてくれてたみたいだから、早く帰って食べたいの」
「お前……ほんとに甘い物好きだよな。気をつけないと太るぞ?」
「うっさい! ほら、早く帰ろう!」
「はいはい……」
怒りのこもった少女の言葉に少年は答えながらブランコを降りたが、その顔には先程までの暗さは無かった。そして、二人が楽しそうに話をしながら公園から出ていくと、ブランコの隣に突然青い渦が現れ、その中から橋渡し役の少女がゆっくりと姿を現した。
「ふぅ……やっぱりこの子の力は便利だなぁ。それにしても、好きな子に対しては『さとりイヤホン』を使えたのに自分の近くにいる子には使わないなんてね……使う理由が無かったのかそれとも使うのを無意識に拒んだのかはわからないけど、あの子なら『さとりイヤホン』を渡したままで良さそうかも。
『さとりイヤホン』の使いたくなる魔力にも負けずに大事にしてくれそうなのもあるけど、『さとりイヤホン』があった方がもしかしたらうまくいくかもしれないしね。さて……それじゃああの二人のこれからの幸せを祈りながら帰ろっと」
橋渡し役の少女はクルリと振り返ると、再び現れた青い渦の中へと歩いていき、青い渦が消えると同時に公園から姿を消した。
いかがでしたでしょうか。
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それでは、また次回。