生殺の決断
人の生死なんて俺には自分が生きてる理由だとか、他人の死を見聞きした時しか深く考えたことなんてなかった。殺生の選択なんてする必要もなかったし、殺したいほどの相手なんて地球を滅ぼした魔物くらいだ。
ある意味俺はこの世界に来てから恵まれていた。
自分の戦う糧となってくれた魔物は、生きたいという気持ちと、強くならなければという焦燥感がかき消してくれていた。
倒してきた魔物が人型じゃなかったからだとか、見知った相手じゃないからというのも大きいだろう。
だが今回は少なくとも話したことのある相手だ。例え性根が腐っていようがだ。それも悪事を働いてなんかじゃなく冒険者の宿命に巻き込まれただけだ。
鈍るに決まってる。例え切ることが救済になるとしても、生温い世界で過ごした俺が他人の命を奪うなど半端な気持ちでなくとも決断できるわけがなかった。
『ーーーー大丈夫……のはずないですよね』
「……なあ、本当にあいつを助けられないのか? 本当に何も出来ないのか?」
那由多は間を空けて話し出す。
『ーーーーほぼありえません。あまりに危険なせいで研究どころか生態さえ分からない部分もあるんです。それが意思を持つなんて』
「……そうか」
『ーーーー撤退も策だと思います。無理して戦わなくても』
「お前なら分かるだろ? あんなヤバい奴が俺でも分かるくらい消耗してる。今殺すしかない。今しか……」
言葉が詰まり、動揺を抑えきれず服の襟を指で持つ。まだ俺の判断はは決まらない。
ーーーーーー
飛んで向かう風を横に駆け抜けて避けたミカは直ぐに魔力玉を形成し飛ばす。回避に慣れてきて、隙をついた彼女の攻撃は見事に命中し、「グオッ」と敵は声を上げる。
しかし、しばらくの間が過ぎて聞こえたのは笑い声。嫌な予感のする物を感じた。
「あなた、覚えたばかりですねぇ? 魔力玉の作りが甘くなってきましたよ」
顔に出さないようにするも、図星を突かれ大杖を強く握った。
「隠さなくて良ぃ。覚えたてで僕とまともに戦えてるのですからぁ。……だからここで才の芽は潰すことにしましょうかぁ。水々逆流、地を流す、災禍の恵みいざ絢爛あれぇ。[リバーペイン]!!」
呪文の詠唱を言い切る直前に走り始めるミカ。敵の手から放たれた水撃。その時ふとミカは気づく。魔法の放たれた方向は自分が走らであろう先の場所だと。ピングボルトは偏差を読んで放ったのだ。
「自在操水[ウォテル]!」
これには彼女も驚くが、咄嗟に杖を水流に向け魔法を唱える。直進しかできない水は嘘のように角度を変え己の斜め後方に向かって当たらないように外らした。
「ケケケケケケ、面白い! [ウォテル]!!」
後方に向かう水流は大きく曲がる。進行方向から180度大きくターンする。
ミカの背中に目がけて勢いよく突進する。
「グアァッ!」
水流のタックルに吹き飛ばされ地を滑り這いつくばる。最悪の状況だ。何故なら魔法の来た方向が180度反対側ということは吹き飛ばされた場所は敵の近く。魔法が打たれれば逃げられない距離に無防備な状態はピンチ以外何もない。
「ではさようならぁ」
ピングボルトは右手を伸ばす。
絶体絶命のピンチ。少女の体は強ばる。
危機を凌いだのは突如敵を包んだ4発の爆風。
横槍を入れたのは敵の右手側から。その数メートル先にはシスターの姿だった。
援護のお陰で直ぐ立ち上がることができ、ミカは後方に走り距離を取った。
「痛いなぁ。一騎討ちの邪魔しないでよぉ」
「にしては痛そうじゃないじゃない。勘弁して欲しいもんね」
敵は風魔法を無詠唱で放つ。
その動きに対し手に持ったチェーンを一振りする。
先にまとわりついているのは大男ガラテンだった。放たれた風魔法にそれをぶつける外道シスター 。人一人が被害に遭うが倫理的な問題以外は何もない。一つの傷もつかず風を払い除けるだけだ。
何が傷ついたのか強いて言うなら、味方を遠慮なしに盾にしたことに「えぇ?!」と驚いたミカの心に1ダメージだった。
その後ガラテンはチェーンに引っ張られクラリネッタの元へと帰って来て地面に着地した。
「これだから人間はクソなんだよぉ」
「最善の策で戦うのが戦場よ。それに人の心のないあんたに何が分かる?」
「分かりたくもないよぉ。そんな物より魔心って奴を理解して欲しいねぇ!」
語気を強く放ち床を凍らせるかなり速いスピードでシスターのところまで伸びた。勘づいて側方に飛んで避けるシスターだが、一つ最悪な事態に気付いた。
床に転がったガラテンも凍ったことだ。
ダメージはない。だが地面と癒着してしまい鎖で動かせなくなってしまった。
「まずい!」
砲撃の準備をしていたミカが危険を察知し溜めていた魔力で援護射撃する。だがそれを読まれていたせいかピングボルトはスッと後ろに仰反り横から来た魔力弾を回避。そのまま手を伸ばした。
「疾風一ザァン……」
詠唱をした。だが発動の直前に察知する。
感じた方向には光を放つ剣を振りかぶった男、一海の姿。
思わず転がって回避。直後に、本来胴を斬り飛ばすほど伸びた横一閃が空を横切った。
「ちぃ、気づくのかよ」
「ああもう、嫌ですねぇ。次から次へとふざけた芸ばかりぃ!」
一海は地面にひっついたガラテンの元に走り、側方の氷結部分を剣で砕く。その後力技で引き剥がした。
「すまない」
「気にするな」
「一海、お前に言わなきゃいけない事が……」
「助けられないことか?」
既に情報を知ってることにガラテンは驚き言葉を詰まらせた。一海の荒い呼吸が間を埋めた。
「銭ゲバシスターから聞いたよ。ヤバい魔物が元なんだろ」
「ああ、だから」
「逃げろって?……冗談じゃない。俺だって逃げてらんないんだよ。色んな物食わされて黙れないんだよ!……だから足掻かせろ。倒すことも……助けることも」
鋭い眼光で敵を捕捉する。動悸、手の震え、こわばる筋肉。ガタの来たロボットになったかの感覚を味わいながら一海は剣を強く握る。
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