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那由多の剣と魔導士の卵  作者: ナンプラー
序章  血のクリスマス
5/53

その偶然は那由他の分母を掴む



 頭の中が整理できない。




 理解が追い付かない。




 俺はここへ何しに来たっけ。




 イリュージョンの如く消えた彼女はどこへ行ってしまったのだろう。




 答えなんて何度考えても変わらないはずなのに。





 終わりだ。何もかも。





 俺の生きる意味はなくなった。





 ああ、でも……やだな。





 このまま嬲り(なぶり)殺されるだけだなんて。







 ……やだな。









 ガーゴイルの足はゆっくりと近づいてくる。

 何か行動しなければと思うが、気だるさがやってきて動けない。















 そんな時、偶々ユーリの持っている剣に目がいった。










 戦う意味なんてもうないのに。


 でもこの怒りはどこにぶつければいい?


 誰に向ければ文句も言われずに済む?








 ……やはり最後の最後まで自分の性分は曲げられないらしい。


 せめて一つでも。多くあの悪魔どもを屠って死んでやる。


 俺の全てを奪ったあいつらに。


 せめて俺の目の前でくたばった数以上は葬ってやる。




 これが俺の最後の悪あがきだ。




 俺は震える手で剣を拾い、生まれたての小鹿の様にぎこちないその構えで盾突く。









 ーーーーこれは









 何か聞こえて気がしたがそんなものはどうだっていい。








 雨樋の悪魔は手を振るう。








 同じように自分も振り払った









「俺の全てを返せええええええええ!!」



























 その光は、俺の悪あがきの想定を上回る事態を呼び起こした。

 俺に牙をむこうとしたその腕はどこにも見当たらず、何が起こったのか判断がつかない。

 目の前のガーゴイルも動かない。

 動いたと思った時にはさらに違和感を感じる。


 そのモンスターの上半身がスルスルと横にズレ崩れ落ちた。


 正直自分でさえ理解ができていなかった。


 一体だれが倒したのか。


 その答えは振り切った右腕に残っていた。


 剣からは眩いほどの(きら)めきを発し刀身を伸ばすように纏っている。

 到底信じられない事態だった。


「……まさか、俺か?」


 にわかには信じられなかった。目の前のあいつをたたき切ったのは俺か?


 何故?


 理由は?


 そんなもの分かるわけがない。


『ーーーー走って!!』


 声が聞こえた。

 咄嗟に走る。

 僅か後方を風が掠める音。


「矢か?!」


 飛んできそうな方向に目をやる。

そこには小鬼の悪魔が矢を構えている。

しかしかなり遠い。

敵を取ってやりたいがそれにしては厳しすぎる。


『ーーーー剣を振ってください!!』


 どこから聞こえるか分からないその声は正気ではない回答をしている。

 いや届くわけがない。

 でもそうでなきゃ矢なんて躱せる自信もない。


「ああもう! 分かったよ!!」


 相手は矢をもう一投放とうとしている。

 それでも言われた通りに一振り。


 驚いた。刀身が光で伸びた。

 そのまま俺は敵の放った矢を砕き、木々を薙ぎ倒し、小鬼の体をたたき切った。


 想定外の出来事だった。無理だと思っていた、切り伏せようとした敵の数を俺はもう倒してしまっていた。


「凄いけど……どうなってるんだ……?」


 正直実感が持てなかった。

 自分が一体何をしてしまっているのかがしっかりと把握できていなかった。

 ただ、自分が攻撃をするたびに不思議な力が働いて光を纏っているということだけは分かっていた。

 それに気になるのはあの声だ。

 俺に助言をくれているあの声は誰だろうか。


『ーーーーその力は今はあなたの強い思いで形を成します。今は操るのも不安定ですがしっかりと念じればあなたに応えてくれます』


 ノイズがあるように擦れているが、しっかりと聞き取れた。

 つまり、その謎の力は思った形に変えてくれるのか?

 信用できるものもないが今はこの力のお陰で助かってるみたいだ。

 そうなれば、せめてあの百足のモンスターを倒したい。

 俺の大事なものを奪っていったあのデッカイ奴に一杯食わせてやらないと死んでも死にきれない。


 命あっての物種とは言うが、このまま生きながらえるにしてもいずれ首をつって死んでしまうかもしれない。

 そんなのでは意味がない。


 俺はじっとあの怪物の顔に睨みを利かせる。今に見てろよクソ野郎。

 俺を怒らせたことを後悔させてやる。


『ーーーー避けてください!!』


 いやそんなのではダメだ。

 さっきのを見て分かるのは、あいつの動きは俺たちのような平凡な世界で生きた怠け者にとっては反応できない速さだ。

 なら俺のやるべきことは……


「いや……止める!!」


 俺が唯一できそうなことは先ほどの光を操る事だ。相手は直進のみ。

 なら出来ることはそれを食い止めるのみ。

 あの青年のように壁を作ることはできなくても。


「飛べぇ!!」


 飛ばすことなら出来るかもしれない。

 飛ばなくても伸びるだけでいい。当たれば相手は中断してくれるのだから。


 そしてその思いは光の衝撃波に乗って相手の頭を切りつける。


 よし、止まった!!


 良い感じだ。意外と効いてるのかその長い胴体は少しひるんだような気がした。


『ーーーー凄い。こんな土壇場で飛ばした?!』


 だが残念なことに致命打にはならなかったらしい。

 飛ばしたことで力が弱くなったのかもしれない。

 ならやることは一つだ。


 力を溜めて直接切り伏せる。


 俺は相手のいる方向と逆の方に駆け出す。


『ーーーーどこへ行くのです?!』


 勿論俺の攻撃範囲にだ。

 別に近づくだけが近接攻撃の鉄則ではない。

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 幸い俺には今伸ばすことができるんだからな。

 問題はどこまで行けるかだ。

 自分の力等信用できるほど莫大なものでもないかもしれない。

 でも今は賭けなければ敗北しかないのだ。


 だったらやるしかない。


 俺の火事場力にありったけを込めてやる。


 遠すぎても駄目。近すぎても駄目。

 ここくらいだろうか。直ぐに振り向き剣をに構える。


「さあデカブツ……腹はくくったか?」


 相手は潜って襲うか否か。潜った瞬間全力逃走。

 そのまま突進なら全力闘争だ。


 そして、


 俺の位置は丁度突撃するのにはまだ良い位置だったようだ。

 百足が選んだのは突進。


「俺はもう……くくってるぞおおおお!!」


 この一瞬に俺の全てを込めよう。

 ミスっても文句なんてないさ。どうせ死人に口はないのだから。


 俺は大きく振りかぶった。




 その一撃は、公園の一角を光の道で彩った。百足の体は劔の放った一撃に潰され地面に押さえつけられる。


 包丁でパンを半分に切るように相手の体の中央は凹み、その真ん中には真っ二つに割れるように切断跡を残した。

 斬撃は相手の出てきた穴の部分まで届きその後ろの道にまで跡をつけた。


 息を整える。大きく深呼吸をし、俺の心にはようやく安堵が訪れる。


 にわかには信じられないが今までの一連の流れはすべて自分の仕業だということだ。


「は、ははは……やった!……敵は……獲った、ぞ……」


 もう俺の体は満身創痍だった。


 ずっと走り続け普段使わないような筋肉も使いその上に化け物共と戦っている。

 それをこんな一般市民がやってれば世話のない話だ。


「……そうだ。由奈は……こいつに、飲まれ……たんだな」


 せめて、こんな悪魔の腹の中じゃ居心地が悪いだろ?

 出してやらなきゃな。

 幸い今は変な奴らもいない。

 一歩ずつ足を進める。


 百足の体に。


 少しずつ。


「待って……由奈……寝心地の、い、い、とこ、ろ……に」




 ばたんと音が響く。


 雪はその男の体を冷たく癒す。

 悲しみは癒えずとも今はその勇敢な男を安らかにさせるだろう。

 これが彼の最後の記憶。

 劔 一海が見た己が故郷の風景。


 これが彼の味わった悲しみの回想だ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 大きな絶望感がいいなと思いました。敵の種類も豊富で想像がかきたてられます。 [気になる点] これからの物語の展開が気になります。 [一言] これからも創作活動頑張って下さい。
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