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那由多の剣と魔導士の卵  作者: ナンプラー
1章 エルタージュ編
43/53

巡り合わせは金のまにまに

 それは、ギアの街での逃亡劇から数日が経ったある日のことだった。

 シスター・クラリネッタは一海達から逃げに逃げて王都エルタージュの城下町まで体を動かした。

 銀行での金の預金を取引して待っている彼女の機嫌は、腕を組み脚も組む程気象が荒い。

 理由は勿論(もちろん)あの騒動の関係だ。


 第一に、折角覚えた革命的な金策(だまし)が行えなくなったこと。これに関しては彼女の父親の仕業だと分かっていた為仕方のないことだった。

 きっとあの後報告を聞き、対策のために全国に注意を促したことまでは想像がついた。

 気に食わないが、あの人ならそこまで行える権力があるので頷ける。


 そしてもう一つはあのいけすかない野営の戦士の事だ。

 こうして今は逃げ切れて別の街で普通に過ごせているが、何故奴はワザと抜け出せるような縛り方をしたのか理解できなかった。

 クラリネッタにとってはそっちの方が不機嫌の度合いを高めている。


 もしあれが本気で縛っていたのなら相当の間抜けなのだが、捕まえる側があれほどの手抜きを許すわけがない。

 考えられるのはあの少年と何かしら話をして、思うことがあり逃したという理由しか思い当たらないのだ。そしてそれは何度思い返しても変わらない。

 だとすると気にいるわけがない。この自分が人情で見逃されるなど舐められた話なのだ。


 人など己が一番大好きなエゴの塊でしかなく、偽善とは己が興を満たすためだけの快楽でしかないからだ。

 そんなマニアックな性癖で満たすくらいなら、自分と自分の信じたものの為に他人を糧にする方がよっぽどマシだ。


「くっ……次会ったら有金全部盗んでやるんだから」


 貧乏ゆすりも増していき、心の恨みがつい口から漏れる。


「ヴィトー様」


 イライラがマックスの彼女に声をかける小綺麗な服の男は、取引準備が完了したために呼びにきた使用人だった。


「……行くわ」


 立ち上がり使用人の後を着いていく。

 そしてカウンターでのやりとりを順に行う。

 使用人が開いた複数折りにされた綺麗な厚紙、通帳を差し出す。


「こちらが今回の記帳分です」


 彼女は右手で受け取り確認した。

 そして……違和感はその記帳内容に関してだった。


「……あ?」


 今回記帳された額は二つ。


 一つは勿論今回の入金分だった。

 だが問題はその前の取引分。つまりは身に覚えのない8万Eの引き出しに関する内容だ。

 この逃げ惑った数日間で高額な買い物もなければ手元に必要だからと引き出した訳でもない。


「……ねえ、この前回の支払い調べてくれない? 身に覚えないけど」


「分かりました」


 彼女の要望にそそくさと対応の為に離れる。

 そして脳を回転させる。


(8万なんてどうしたら無くなる? 引き出してもなく買い物もしてない。他に何かあるなら……あの街で稼いだ額……いや、そんな……?!)


 彼女の焦りは次第に大きくなる。

 考えられるのはあの4人の内の誰かが盗んだのだ。それも口座の中から。だがそんな可能性信じられる訳がない。

 一番納得できるのは金額を書き間違えたくらいだがどんなに考えてもその可能性はなかった。


「お待たせしました」


「それで、どうなの?!」


「お調べした所、小切手による支払いです。相手先はカズミ・ツルギ様となっております」


「くそ! あいつか!!」


 彼女は最悪の状況に親指を噛んだ。一緒に旅してた少女に一海と呼ばれてたのを思い出し、金策を完成させた一番キレるあいつの仕業だと送金先の名前で察する。


(何故? どうやって?! そんなタイミング一度も……!?)


 だが分からない。


 そんな事できる人間なんているはずもなく、そもそも引き出すにしても銀行を経由しなければ盗めるはずもないのだ。


 思考は巡る。深く考えても答えは出なかった。だが、ふと先ほどの使用人の言葉を思い出し突然引っかかった。


「ちょっと待って……()()()?!」


「はい。この期間にギアの街での引き換えを指定されていました」


 その瞬間全て理解する。今回の盗みの手口を。


 今回鞄に触れていたのは二人だけ。あの神官の女性と盗み出した張本人。その時に私用の小切手を理解しながら取り出してその場で書いて引き抜いていたのだろう。

 書き方さえ理解していれば内容も通帳さえあれば問題なし。サインも真似をして書けば何ら問題もない上、綴りさえ合ってれば通る。


 失念していた。この世界じゃ銀行などそこそこの仕事をしていなければ利用さえせず、小切手の書き方など貴族か行商人でなければ知らぬような物なのだ。

 それをあの場で銀行の存在を知った阿呆が書けるなど思うわけもない。

 事実を知った時悔しかった。この私が騙されに騙されるなど情けないことこの上ない。

 だから彼女は



 笑った



 高らかに大声で笑った。観衆の目もくれず、お構いなしに。

 そして頭に浮かぶのは過去の記憶。それはとある大司教との思い出。


 ボロボロの服でその男から逃げた事。

 善行の如何に良いことかを地に座らされ怒鳴りながら説かれた事。

 自分への罰として盗んだ分の金をそいつに盗まれ。

 ドアの前で自分の友達に合わせてあげようと言われ。


 そして、家族にならないかと言われたこと。


 つい重ねてしまった。自分の知る限りの唯一の善行。彼女が許したたった一つの偽善。

 父にされたことと重なった。

 救いの為ならどんな方法も(いと)わず、盗んだ分しか盗まないこと。

 自分の信じた善に真摯(しんし)でクソみたいな相手も人として応対する所も無駄に重なって笑えた。


 最悪だ。どうやらあいつに感じた嫌悪感はクソみたいな偽善ではなくクソ親父とどうしても被るからだったらしい。


「あ、あの……お客様?」


 クラリネッタの奇行に動揺する使用人をよそに彼女は笑う。

 そしてその糸はプツンと切れ止まる。


「……すぐ対応いたします!」


 その様相に対応しようとする男。だが


「いや、いいわ。あたしの負けよ! その口座どうせ空だもの。意味ないわ。」


 戸惑う商人に清々しい笑顔で返すシスターだった。






ーーーーーー






「ばぁーーー疲れだーー」


 陽の高い街の中をトボトボと歩く勇者一向。

 左からミカ、一海、ガラテンと横に並んで歩いている。


「あはは……まあ元気出してください。何なら今日は良いのを食べましょう!」


「良いなそれ。丁度報酬もあるしな!」


 買い物カゴを持つように両手で大杖を持ちながら話すミカにノリよく相槌するガラテン。


 あの後奪い返したお金を被害者に返しに回る作業をすることになり、一週間かけてようやく返しきったのが今のことである。


 報酬とは勿論今回の騒動の依頼の報酬である。本当は貰えなかったかもしれないが。


 被害のお金を取り戻せれば問題はないと思っていた俺だったが、向こうの内情を知らなかったことで今回の顛末(てんまつ)をザックリと伝えると近隣の神父に激怒される羽目になった。どうやら彼女は他の修道士からよく思われていないらしい。

 そのせいで俺達とナナミが代わりに説法をくらう事になった。

 ただ予想外だったのは後日教会から呼ばれ報酬を受け取れたことだった。これには俺たちも驚いている。

 とは言っても指示通りにできてはいないから減額。4人で12000Eを折半することになった。


 だが何故報酬をくれたのかは未だに分からなかった。

 何故なら金は取り戻したと伝えても近くの教会の神父には滅茶苦茶怒鳴られたからだ。

 心の中で逃してあげたのを後悔したが、それを上層部に報告した神父から呼ばれ、しっかり返しきれば報酬を渡すと連絡があったらしい。


 そして返しきったのでこの話はお終いということになる。


「……まあそうだな。それじゃ酒場で鱈腹(たらふく)食うか!」


 手を突き上げ元気を出す。


「たらふく……何か知りませんが美味しそうですね!」


「嬢ちゃん気をつけろ。何かわからない時は一海語録だぞ」


 ガラテンの忠告に俺は苦笑い。


「ははは……まあいっぱい食うぞってこと!」


「そうだったんですね。じゃあ……たらふく? 食べましょう!」


 三人で意気揚々と歩き、酒場の前まで到着する。


 中に入ると、賑わっているのだが一部の場所に人だかりが出来ている。


「……何かあるのか?」


 気になり言葉が出る。

 お盆を持ちながら歩くルイズがこっちを見てオッと止まり寄ってくる。


「良い所に戻ってきたね! アンタらに客だって」


「俺達にか?」


 ガラテンが聞く。


「ああ。中々の別嬪だよ。ま、あたしよりは劣るけどね」


 愛想のない笑いしかできない俺たち。

 そして群がった中を一人の女性が出てきて寄ってくる。


 そしてそれは最近よく見たことのある顔ぶれだった。


『なっ?!』


「皆さんお待ちしておりました」


 それはいつぞや迷惑をかけられたあの銭ゲバシスター本人だった。


「何でここに?!」


「勇者様に要がございましてここに来ました」


「そうじゃねえ! よく戻ってこれたな! ていうか猫をかぶるな!」


「はて、何のことでしょうか? 私にはさっぱり」


 怒りが込み上がったが俺は思い出して理解する。

 そういえば人前だと清廉潔白になるんだったと。


「……ルイズさん。ちょっと外してくれるか?」


「あはは。分かったよ!」


 そして彼女は業務に戻る。


 ふぅっと猫かぶりシスターは化けの皮を脱いだ。先程までの天使の様相は嘘のように柄が悪くなり入り口近くの壁に腕を組んでもたれかかる。


「それで、用件は?」


「まず。少しだけ教えてあげようと思って。あたしからの特別講義」


「講義?」


「まず、あたしの一番好きなものはお金。だけど一番嫌いなものは情けなの。」


 何だ?

 よく分からない。

 顎に指を置いて考えてみるが見当もつかない。

 仕方ないので適当に思いついた答えを口にしてみる。


「自己紹介?」


「平和な頭ね。あんな馬鹿みたいなことしたって喜ばない奴はいるし財布にされるって話よ」


 なるほど。あの助けはいらなかったっていうことか。ご忠告痛み入るよ。


「腑に落ちないですけど……無駄に人が良いからちょっと真に受けた方がいいですよ一海」

 

「え、そんなに?」


「悩み事とか助ける前提だからそれは治せ」


「ガラテン?」


 ちょっとその横槍までは想定していません。そんなにお人好しじゃないと思うんだけど。


「そゆ事。アンタの今後の為にわざわざ助言してあげたの。はい2000E」


 カツアゲシスターが当然のように掌を上にして差し出してきた。


「金取るのかよ!」


「当たり前よ! あたしが珍しく良心的に良い教えをしたんだから受講料は払うに決まってるでしょ?! それにこっちは営業妨害されてるんだから」


「それが目的かよ!……たく。仕方ねえなあ!」


「払うのか……」


 ガラテンが困惑の声を出す中俺は硬貨をズタ袋から出して手渡す。


「あら素直ね。さっきの言葉噛み締めて……あら?」


 乗せたのは銀貨2枚。それに不服な顔をするシスター。そっちがその気なら俺もそうしようか。


「ねえ、全然足りないけど?」


「当たり前だ。講義まで開いたのは俺が助けた事の話だったよな? 俺からも授業だ。金が絡む際に借りの話はするんじゃねえ。こうやって値段にされるからな」


「な?!……はあ。やっぱ口達者は嫌いよ。いいわ、これで勘弁してあげる」


 残念そうに悔しがる女。

 だが俺の目的はまだある。その言葉を待ってたんだよ俺は。

 きっと今の俺はニヤリと笑っているだろう。


「認めたな? じゃあ授業を続ける、ぞ!」


 すかさず相手の手の上の銀貨一枚をふんだくった。それに対し珍妙な声を上げるクラリネッタ。


「契約内容はしっかりと確認する事だ。騙されるにしろ騙すにしろだ。授業に金がかからないと思ってる甘ちゃんには銀貨一枚がお似合いだ」


 そして最高の笑顔を相手に押し付ける。

 しばらく俺の顔を蒼白と覗いていたが不意に壊れるように腹を抱えて笑う。


「アハハハハハ! やっぱバカよ。どうせなら全部奪えば良いのに。変にキメて損するのやめた方がいいわよ!」


 くそ、その素直な言葉の方がダメージが酷い。

 全部奪えばいいのに少年の奉仕分格好つけた為に損してしまった。流石に恥ずかしい!


「あとこの話の方がおまけよ。本当は営業に来たの。勇者に媚び売ればお金が転がり込む気がしてね。そしたらアンタらだと思わなかったわ」


 それならこいつはどこぞの噂話を聞いてここに来たってことか。


 ……待てよ。それ不味くないか?


「てことだから名前は……知ってるわね。で自己紹介も……さっき言ったわね。何かあったらそれで呼べば向かうわ。お金で解決してあげる。まあ無理矢理売りにも行くけど」


 そして俺の着ている鉄の胸当ての隙間にソウルカードを差し込んでそのまま歩き去る。


「そうね……最低でも8万くらいはお得にならせてもらうわ。それじゃあ皆様よろしく。バハハーーイ」


 そんな捨て台詞を置いてドアを開けて陽気に酒場を出て行った。


「……捕まえておけば良かった」


 ……俺はとんでもない人物を逃してしまったかもしれないと心の底から後悔した。


 とんだ茶番劇から出会った銭ゲバシスターに化けて憑かれるハメになった。

 神の元に仕える信徒と金を巡って巡り合うなど誰が思うものか。

 紅葉の錦神のまにまに。と有名な和歌がある。

 まにまにとは趣くままにということなのだが、信徒と金を巡り出会い、それが貧乏神になって会い直すなど神の気分にしては些か遊びすぎでは等と考えてしまう。


「人の世の 何と小さき 巡りかな

 赴く金に 神のまにまに」


 と言った所だろうか。

 天界も暇なのは分かるが遊びすぎるのも大概にしてくれと心の中で俺は叫んでいる。

ソウルカードを装備した。この装備は呪われている。一海は貧乏神に取り憑かれた。


良ければ感想、評価、いいね、ブクマしていただけた時作者が天国まで召されます。

面白いと感じたら気楽にお願いします。

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