見習いブロンズの下剋上
「何なんですかあいつらは!」
あのウコッケ等という訳の分からない3人組が来てからおよそ二週間経ったある日の事だった。
ミカは俺の宿泊している宿の一室で椅子に座りながら激昂した。
「確かに困ったもんだよなあ。ガラテンへの悪絡みも最悪だけど、酒場の利用も最悪だとは思わなかった」
奴らが現れてからというものルイズさんの酒場の治安は良いとは言えぬものだった。
ガラテンへの扱いの横暴さは勿論のこと、他冒険者から依頼の横取り、独占、酒癖と女癖の荒さ等著しいものだった。
特に最悪なのは酒癖と女癖だ。セクハラは勿論のこと、気の弱い女性冒険者がかなり酷い被害にあったなんて噂も流れる程だった。
あいつらの横暴が始まって数日後にはミカも尻を触られるという被害に遭っている。
だからここ最近、俺たちも極力酒場での応対の時間を減らすために自分の寝泊りさせてもらってる宿の一室を会議室代わりに話をすることも多くなった。
「今日だって、自分たちが楽して稼げる依頼ばかり回収して! 残ったのなんて誰も倒したがらない中型依頼か割に合わない猫の捜索依頼ですよ!」
冒険者の酒場に集まる依頼はなにも討伐依頼だけではない。
元々が民衆の困りごとを集める依頼収集所なわけだからアルバイト募集みたいな内容や逃げた猫の捜索依頼なんて捜索物の探偵業務もあるわけだ。
この世界の依頼は求人広告にも使えるのだ。
だがそんな依頼さえあいつらが独占し始めたせいで俺たちの様な未熟な冒険者が補助型の依頼に殺到するようになった。
それに冒険者だけじゃない。そんな依頼広告にもなるのだから一般の人間さえ利用するに決まっている。
今まで良い分配で割れた物がなくなったのだからそうなるに決まっている。
「まさかこんなに販売員募集の依頼が恋しくなるなんてなー」
考えたくない事実がこの身にのしかかるように俺はベットに倒れるしかなかった。
俺にもミカにも貯金はある。
ミカには本来魔導書を買うはずだった資金があるし、俺には王国の補助による一月の宿泊無料期間で貯めた金がある。
だが、だがもしあいつらがここにずっと居座ったらいずれ俺達の所持金が尽きる。
半ば宿を追い出されるような形になるのは辛い。
最悪別の街に移ることも考えなきゃいけない。
何とかしてあいつらの横行を邪魔しないとこちらが迷惑だ。
「あのー、一海」
足音がツカツカと、段々大きくなる。
こちらに歩いてきてるのだろう。
「ガラテンさん、大丈夫でしょうか」
ベットの木製部分から俺の顔を覗き込む。
「……大丈夫じゃないだろうな。だけど、俺たちも迂闊に関われない。あいつらお前を見る目がゲスイからな」
彼女は目線を逸らし、そわそわしながら2歩3歩とベットに沿って歩み、恥ずかしそうに言葉を続けた。
「……別に、私の事は気にしなくていいんですよ?」
「ありがとう。でも、そうもいかないんだ」
今回ガラテンを助けるのを躊躇ってる理由がそこにあった。
俺一人ならどう負けたって良い。だけどあいつらはきっとミカに手を出せるような条件を出してくる。
そうなってしまうと俺だけの話じゃなくなってしまう。
ガラテンに静止された時にハッとした。
勝てる見込みもないのに挑むのは浅はかだ。巻き込まれやしないのに喧嘩を売るのは軽薄だ。
那由多は人に向けて使うべきものかも分からないのに激高するのは浮薄だ。
この世界に来て俺は勇者として悪を許さず生きねばなるまいと決意していたが、全ての悪を裁く等と傲慢になっているとあの瞬間気づいてしまった。
俺が許せないのは魔王のみだ。この剣で断罪するのは魔を持つ獣だけ。
そんな大層な物を斬れる代物じゃないということだ。
そうすると俺はあいつらを倒せる自信はない。
……まあ色々言葉を並べてしまったが結局は『人の悪は己の拳でねじ伏せねばなるまい』ということだ。
剣の力抜きで戦ってしまえば、恐らく今のミカより弱い。
そんな高慢ちきがあのシルバーを倒すなんてほざくのは笑い話にしかならない。
おかしいな。ここに来る前はこんなに血が上るような柄でもなかったんだけどな。
とは言いつつも、俺個人としてもガラテンは放ってはおけないのも事実だ。
こうして色々策を練ってはいたが、二週間経っても思いつかない。
はてさてどうしようか。
「私、何となく見捨てられなくて」
「そうなんだ。何で?」
「……昔を見てるようで、放っておけないんです」
昔、と言えばリアンノン家の召使時代か。
彼女がとある富豪に養子に召使として招かれた頃に、当主以外の家族や召使から嫌がらせを受けていたっていう。
確かにそんな思いを味わっているならガラテンの扱いも気になるよな。
「一海はどう思ってますか? 私は……ガラテンさんの願いを」
「手伝いたいのか?」
喉に言葉を詰まらせた彼女に対し俺は現実を伝える。
「ミカ、流石に全ての人間の願いだけは叶えられない。俺は確かに勇者だけど、神様じゃない。それにあの人の状況は仲間にするには厳しすぎる。ミカも分かるだろ?」
「でも一海なら!……あなたは私を見捨てませんでした。……こんなへっぽこな魔導士を見捨てませんでした!」
余りにも熱を込めて伝えようとしたのか寝転がった俺の顔近くに手を跨がせる様に置き詰め寄った。
この瞬間、まさか俺が日本で流行った壁ドン、……床ドン?
いやベットだから布団。布ドンと言うべきだな。……ドンなんて音するか?
布ポン?……いやどうでも良すぎるな。布ポン等という突然の責めにインドア派は動揺しないわけがない。
それに彼女の眼差しが凄い。そんなに真剣にされても困るしかない。
変な動揺で思考が乱れていると、彼女の顔が少し悲しそうな顔になった。
「仲間にできなくても良いんです。せめて少しでも手伝ってあげたいんです」
……やれやれ、困った善人に情けをかけてしまったものだ。
こんなお節介焼きな仲間がパーティーにいるとは思わなかったな。
誰を見てそんな風になってしまったのか気になる所だ。
「はあ……ミカ、お節介は誰しもが喜ぶもんじゃないんだぞ?……あと。ちょ、ちょっと近い」
さりげなく小声で事実を伝えた。
「!? す、すみません?!」
あたふたとぎこちなく、だけど早急に布ポンの状態を解いて真っ赤になった自分の顔を両手で包んだ。
やかんが沸騰したのを伝える音の様な声を捻り出し唸っている。
さて、いけずはここまでにして真面目に人助けと行こうか。
それにそろそろ俺も、剣を握ってから喧嘩っ早くなった性格がうずいて仕方ないのだ。あいつらは許せないと。
あと俺は仲間にするのは厳しいと言ったけど、俺たちのパーティーで役割がないとは一言も言ってないんだな、実は。
俺は警戒にベットから飛び起き那由多を置いてある場所まで歩く。
「じゃあ行くかミカ」
言葉を聞いたミカは我に返りこっちを見る。
「え……行くってどこに?」
「決まってるだろ。ガラテンを仲間に迎えに行くんだよ」
「でも、仲間には出来ないんじゃ」
「俺はあいつの願いを叶えられないけど、仲間にしないとも言ってないだろ? それに少しだけ考えがあるんだよ」
少し呆けた顔をしていたが次第に言った意味を理解し明るい声を発した。
「……はい! す、直ぐ準備しますね!」
慌てて身支度をするミカを背に俺は扉を閉めた。
大きく一つ深呼吸をする。心を整える。
今から起こす意地の大合戦に向けて瞑想する。
そんな緊張の一幕を。
『――――キザで意地悪ですよね一海って』
「黙れ那由多」
剣の一声でワンシーンを終えた。
――――――
勢いよく酒場のドアを開き、威風堂々とした態度で歩を進める。
目にウコッケの3人衆を捕らえ勇者一行は人と席をかき分けターゲットに直進する。
その光景を相手も視界に入れたのか睨みを利かせてきた。
「何だ臆病者ぉ。何か用か?」
「相も変わらず態度がデカいな。そんなに威張るなら賊で大将張れば良いものを」
「冒険者も賊も変わりゃしねえよ。お国のワンちゃんになってりゃ金が良いってだけの話だ。そんで? 口の強さは相も変わらずなあんちゃんの用事は?」
「ガラテンと話がある」
ウコッケ達の顔はキョトンとした。
何となくだがその次のお前らの行動が「笑う」を取る気がした。
あの悪寒の走るような笑い声が拝聴できると思っていた。
だが、予想外にも笑わなかった。
呆れた顔でロン毛が言葉を続けた。
「何だ、まだあいつにご執着してるんだな。可愛そうに」
「虐めるだけ虐めたら玩具を捨てるような人間性だと付喪神に祟られるぜ」
「何の神様か知らねえけど、お生憎様ガラテン君とは会えねえよ」
ツーブロックが割入った。
「そんな嘘つくな。さっさと出して話をさせろ」
「残念ながら俺たちは本当の事しか言わねえんだよ……ガラテン君とはもう会えねえ」
何だ?
俺への応対が冷たいのはいつもの事だけど、妙に覚える疑問が分からない。
こいつら何時もの様に明るくない。普通ならゲスな笑い声で誰彼構わず話しかけるのに。それにもう?
そういえばこいつら、確か少し前に中型依頼に出かけたんだよな。
……周りを見渡してもガラテンらしき人物が見えない。
あの豪傑らしき見た目の大男が見つけられないはずがない。
それにこいつらは自分たちだけでガラテンをカモにする為に酒場では殆ど離れることが少なかった。
「……おい、ガラテンはどこだ?」
「だからいねぇんだよ」
「だからどうしたって聞いてるんだよ。もうってなんだ? 帰って来ないみたいな言い方しやがって」
そこでようやく、お山の大将が絞り出す様に笑い声を出し次第に大きくなる。
「ケッケッケッケッケ! 置いて来たんだよ囮として! 面倒な魔物と出くわしたんでな。あいつがいると依頼も楽だが、いざという時逃げるのも楽なんだよ!」
見捨てた?
そんな簡単な理由で仲間を簡単にトカゲのしっぽにしたのか?
余りの外道っぷりにミカは恐る恐る口を開いた。
「そんな理由で仲間を捨てるんですか……!?」
「仲間? 仲間は全員無事だ。だってあのマヌケは盾だ。人で計算するバカがどこに居やがる?」
ミカの質問に対しその言葉を発した次の瞬間にはウコッケは頬に衝撃を受け飛んでいるだろう。
何故ならその原因は俺の右ストレートにあるからだ。
突飛な攻撃に対し対応が遅れたツーブロックは出来る限り早く剣を取り出し俺に飛びついた。
「てめえよくも!」
横振りを屈んで回避し俺はロン毛に飛びついた。
あいつは確か鎖で振り回さないタイプの小ぶりのモーニングスターだったはずだ。
ということは魔法使いの可能性が高い。
だから倒すなら早急にこいつは始末しないといけない。
例えどんな手を使ってもな。
そいつに向けて俺は距離があるにも関わらず剣を振った。
それは那由多の鞘をブーメランにして飛ばすため。対応できなかったロン毛の顔面に直撃し怯む。
弾かれた鞘を回収しすぐに納刀。
そして怯んだ隙に俺は強烈な蹴り上げを行った。
そう。極部に向かって。
ロン毛はその衝撃に泡を吹き痛みに悶える。
その声は正に大人気バトル漫画の強烈な攻撃を受けた時の絞り出す声に近い唸り声だった。
更に悶えた隙を付いて背後に周り羽交い絞めした。
ゴロツキは急所を蹴り上げられた衝撃による呼吸困難と、そのタイミングでの羽交い絞めによりCQCの知識のない俺でも簡単に落とせるほどの速さで意識を失った。
「意外と上手くいったな」
『――――やり口最低ですけどね』
掛け合いの最中にツーブロックの攻撃がもう一度。
「卑怯な手使いやがって!」
「二人掛かりでルーキー囲んだお前らが卑怯と言うまいなぁ!」
二人の剣が鍔迫り合い持ち込まれる。
次にどう繰り出されるかと読み合っている最中。
「グアァ?!」
突如男の力が弱くなる。
かと思えばそのまま倒れて気絶した。
その先にはミカの姿。
「ま、こっちも二人なんですけどね」
その状況に俺は笑うしかなかった。
「まあ、そうだな。だけどあんた含めて3人なんだから一緒の話だ。卑怯だなんて言うまいなあ?」
ミカの隣に立ちウコッケに剣を向けて煽る。
この状況に酒場の客たちは舞い上がる。
彼らの不安と不満が一気にボルテージを上げ歓声へと変化する。
「てめーらよくもコケにしたな……覚悟しろよ。盾突いたこと後悔させてやる!」
『うおおおおおお!!』
開幕のゴングとなる剣とナックルダスターの金属音が鳴り響くと思ったその瞬間。
互いの一撃を両手で添えた2枚のお盆で防いだ女がいた。
開幕のゴングが終幕のカーテンコールに変更された。
「盛り上がりの所悪いねぇ。店内での暴力行為は厳禁なんだ」
「ルイズさん?!」
「……お盆だけだと?!」
お互い武器を構えるのを止めた。
「ルイズさんでも!」
「でももへったくれもない! 店の問題は店の問題だ。あんたの迷惑な善行で出禁にでもなりたいのかい?」
初めてルイズさんに叱責された。アントンに叱る時ではなく冷たい感じの怒られ方は見た事さえなかった。
「ルイズちゃんは話が早くて助かるぜぇ……もっと言ってやってくださいこの無礼者に!」
「お前ふざけるな」
「ああ、そうだね。酸っぱく言ってやらないと分からないみたいだ」
「そんな……」
くそ……どんな世界でもやはり暴力は振り始めたほうが悪い。そんな簡単な事をどうにかしないとという気持ちで忘れていた。
ルイズさんはこっちを冷たく睨む。
拳をゆっくり握りしめる。
そういえば俺、初めてルイズさんにシバかれるかもしれない。
死ぬ……かもしれないな。
俺は覚悟を決め目を瞑り歯を食いしばった。
だが、予想外だったのは殴られたのはウコッケの方だったことだ。
攻撃がいつまでも来ない上に、妙な衝撃が前から聞こえ目を開いた。
そこには頭頂部から握りこぶしを振り下ろされたウコッケの地に伏せた姿だった。
「……え?」
「さあ、まずはガラテンをどこに置いて来たか吐きな。説法はそれからだよ」
オーナーは今までに見たことない冷酷さで外道を見ていた。
安否はどうか…待て次回
良ければ感想、評価、ブクマしていただけた時作者が天国まで召されます。
面白いと感じたら気楽にお願いします。





