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那由多の剣と魔導士の卵  作者: ナンプラー
序章  血のクリスマス
3/53

炎上都市と謎の戦士


「もしもし! もしもし!!」


「……かー君?」


「由奈! 良かった! 無事なんだな!! 今どこにいるんだ?」


「……待ち合わせ近くの大公園で隠れてる」


 良かった……何とか生きてるみたいだ。

ホッと胸を撫でおろす。


「分かった。今何とか怪物から逃げながらそっちの方に向かってたんだ。直ぐに向かう。あと5分くらいで着ける!」


 携帯の奥からすすり泣くような声。ああ、今すぐにでも会いたい。

 きっと悪夢のような光景がそっちにも広がっているんだろう。

 悲しい気持ちが自分を包んだ。


「直ぐに向かうからな! あと、路地とか建物には絶対逃げちゃだめだ。逃げれなくなるし人がさらわれていくのも見えた」


 うん、うん、とうなずく声。

 良かった。これで心置きなく公園に向かえる。


「ねえ……」


 か細い声がスピーカーから聞こえる。


「私、この場所で待ってるから。その近くで絶対会おう。だから……」


 ドォォォォン!! と爆発音にも似た地響きが劔の耳を劈いた。

 そのままよろめいて地面に屈む。

 何が起きているのか。それは目の前の交差点を横切るものだった。


 高層ビルの陰から飛び出すはおよそ4階建ての建築物ほどの大きさを持つ巨人。

 その手には二階分の長さの釘バットのような棘こん棒。

 緑色の肌が周りの炎で赤く照らされ不気味に笑っている。

 ファンタジーの世界でいうオークの様な存在が俺の目の前に現れそして、


 ギロリとこちらを見た気がした。


 ああ、これはどうしよう。


 早く逃げないとと頭では分かっている。でもこんなバカでかい怪物に睨まれ竦んでしまった。

 動いてくれ!動いてくれ!


「かー君?! 大丈夫?! 一海! 返事して!!」


 スピーカーから聞こえる音は一海には届かない。

騒がしい環境音の一部になるだけだった。


 俺は全力で立って逃げようとするが思うように動いてくれない。

 こんな緊急事態に腰が抜けるなんて情けない。


 オークは大きくこん棒を振りかぶった。



 ああ……ごめん。さっきの約束守れそうにないや。



 ごめん、由奈。





――――――





 死んでしまったのだろうか。


 不思議な感じだ。

 痛みなんて何も感じなかった。一瞬過ぎて。

 もっとこうグチャっとなると思っていた。

 激しい痛みが脳から足元まで駆け巡るような物は想像していたのだが、まあ痛くないのは良いことだ。


「大丈夫ですか!?」


 いいや、大丈夫じゃありません。死んじゃいました。

 僕は今から地獄で彼女を助けられなかった罰を受けます。


「早く逃げてください!!」


 いいえ逃げません。僕は大事な場面で約束を守れなかった死刑囚です。


「早く!! 起きて!!」


 暗い視界にまばゆい光が漏れ出す。

 目がくらみ、次第に明ける世界は先ほど絶望した場所。燃ゆる大地に先ほどの巨人。

 しかし、先ほどの状況とは違う想像していなかった景色だった。


 こん棒は何かに留められているように宙で止まっている。

 そしてもう一つ。この2019年にもなろう年に布の服に西洋によくある鉄の鎧を武装する青年が剣を構えて目の前に立っている。

 その風貌はどこかファンタジーの世界でよく見る勇者のような。

 そんななりをしていた。


「良かった! 無事だったんですね!」


 どうやら自分は死んでいなかったらしい。

 しかしどうしたものか、明らかに場違いな状況にキョトンとしてその場で凍ってしまう。


 青年はフンッと剣を振るとこん棒の近くで何かが輝きだし、鋭い衝撃を生んだ。


 オークはその衝撃でこん棒を手放し、目がくらみ尻もちをつく。

 そしてその隙にと言わんばかりに男は近くまで駆け寄ってきた。


「立てますか?」


「……ああ、大丈夫です。ありがとう」


 差し出された手を拒み自分で立つ劔。


「あいつは動きが遅いので、今のうちに安全な場所に逃げましょう」


 動き出す青年は自分の来た方向に向かおうとする。

 ああ、ダメだ。そっちの方向は俺の行きたい方向じゃないんだ。

 すぐさま走り出す戦士にとっさに声をかける。


「すまない! 俺あの向こうに行かなきゃいけないんだ! 助けなきゃいけない人がそこで待ってるんだ!」


 青年は驚いた顔をした。


「あちらはかなり危ない状況になっています。それにあいつがそろそろ動きます。一度迂回しましょう。詳しい話はその時に」


 すんなりと受け入れられた言葉に今度は自分が驚いてしまう。その顔を見て不思議に思ったのか、相手はキョトンとした顔をする。


 ああ! と言った俺はその青年についていく。





ーーーーーー






 ほんの少しだけ安全そうな静寂なビル裏まで逃げる事ができた。

 あのオークは見失ったのか追いかけてくることはなく、明後日の方向へ歩いて行った。


 先ほどまで緊張の瞬間が続いたせいか、思わずため息を出してしまった。


「あんた、中々のお人よしだな」


「何がですか?」


「あんた、俺を安全な場所まで連れ行くまで一緒に来るつもりだろ」


 何となくそんな気がしたのだ。普通ならあんな妄言吐くやつを無理やりにでも連れ戻ろうとするからな。


「生存者がいるのでしょ?なら僕は向かう義務がある」


「理想が高いね。感心するよ」


 少し皮肉っぽく聞こえたのか少しムスッとしながら答える戦士。


「まあ、それだけじゃないんですけどね。僕の勘ってよく当たるんですよ。こんな土壇場のときはね。……それよりも、先ほどの場所からどれくらいで到着する距離なのですか」


 ……何でそんなのが必要なのかはわからなかった。

 だが、それを言い始めるとこいつの事全てが可笑しいので素直に答えることにした。


「大体5分くらいだ」


「なら丁度いい。そろそろ行きますよ。しっかり捕まっててください」


 捕まる? 何に? 何が何だがわからないのですが。


「あの……何をするんですか?」


恐る恐る聞いてみる。


「飛びますよ」


にこやかにそう言った。





ーーーーーー






 本来なら、そこは喉かな草原のあるフリースペースに、少しだけ木々の生い茂る平和な場所なのだ。

 だが今は甘くいっても心の癒せる様なスペースではなく、木々が荒れ炎上し、血のまき散った猟奇的な空間に成り下がっている。

 そんな中に場違いな戦士と、今にも吐きそうなスーツ姿の男がいる。


 先程は本当に酷かった。よく分からず肩を掴むと天高く舞飛んだ。

 あまりにも想定していない出来事に必死でそいつの肩を強くつかむ。

 本当に規格外だ。よく今振り落とされなかったよ本当に。


 彼のプランでは建造物の天辺を渡り飛んで現地にまで向かうとのことだった。

 最悪過ぎだ。これ程までに男の肩を抱きしめたことはない程の風圧だった。

 足の浮いたジェットコースターに安全棒なしで乗るような暴挙だった。

 最悪プロポーズ衣装に日本地図を描くところだったが何とか吐き気だけに収まった。


「早速到着したものの、結構広い場所だね」


「……ああ……ここ、は、この都市で、結っっ構、大き目の……ウップ!!」


「あはは、ごめん。僕とかは慣れてるからさ……」


 全くだ。おまけに如何にも地球で育ってませんという発言もしやがる。

 やはりこいつは何かおかしい。

 しかし、この青年に助けてもらってなければここまで来れていないというのも少し悲しい話である。


「一度……由奈に……確認する……」


 そう言って携帯を取り出す。

 良かった。電波はまだ生きている。

 男は少し興味があるのか、自分の持ってるスマートフォンを眺めてくる。



「凄いよねその板。どんな魔法を使ってるんだい?」



 やはり彼は機械という概念がない。確かにそんな知識もなければ不思議にも思う。



「……俺からしたらさっきの巨人を飛ばした力の方が凄いと思うぞ」



 そう言いながら連絡アプリに「着いた、どこだ」と入力する。


「そうかな」


「ああ、羨ましい限りだ。こっちの板なんかは電気があれば動くからな」


「雷の属性で動くんだね」


「魔法じゃないぞ。電気を作ってそれで動かしてるんだよ」


「ええ?!」


 その真面目そうな顔が一瞬柔らかくなり、衝撃的な顔をした。

 そして何かハッとしたかのような顔をした。


「そういえば博士も電気には無限の可能性があると言っていた。もしかして本当にそうなのか……」


 ブツブツと独り言を言う戦士。それを冷ややかな目で見つめる俺。

 そして手元の携帯がバイブレーションで揺れる。

 彼女からの連絡だった。

 その内容は、「写真が投稿されました。」だった。


 ……成程。あの場所か。


「場所が分かった。ここに行く」


「何だって?!」


 そういって俺は送られてきた画像を彼に見せる。


「凄い!! この板は絵まで送れるのかい?! しかもこの今までの会話らしきものは手紙のやり取りもできるんだね!! 凄い! 凄いよ!!」


 滅茶苦茶目を輝かせてきた。凄い食いつきっぷりだ。ちょっと引くくらいだ。

 そんなテンションの異常さに気づいたのか冷静になる青年


「……失礼した。それじゃあその場所に向かおう。そこに連れて行ってくれ」


「ああ」


 そうして俺たちは走り出した。



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