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那由多の剣と魔導士の卵  作者: ナンプラー
序章  血のクリスマス
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血のクリスマス

 人というものは、信じられない光景を目の当たりにする程意外と硬直してしまうものである。

 それは未知の生命体を目の当たりにした時、最善の行動を取るために思考してしまうからだ。

 だが謎が多ければ多いほど考える要素が増えてしまい、硬直してしまう時間が長くなってしまうのだ。


 目の前に怪物が現れてから何秒ほど経過したのだろうか。

 意外と時間が経った気がするが、自分も含めて誰も動きはしない。


 不思議なものである。

 明らかに異常な状況なのに誰も動けやしないのだ。

 一人くらい叫び始めても良いくらいなのだが、正直このまま永遠に止まってくれていれば何も起こらずに済むのではないかという感情も存在する。


 一番初めに動いたのは悪魔の方だった。

 その動きはゆっくりと腕を上げる。

 ハエでもいたのだろうか。目の前で振り払う動作をした。

 その軌道は線を描く様にスッと描きそして


 悪魔の前に立っていた不良男の頭が吹き飛んだ。


 それは一瞬の出来事。

 思考を停止させていた状況に更に考えられないような光景を目の当たりにする。

 スプラッター映画の撮影か何かだと思いたい。

 あの体から溢れる鮮血は血糊なんだ。頭がなくなったのは……マジックでよくある首が下に降りる演出だ。

 そう思いたい。そう思いたいのだ……しかし……


 そんな都合のいい夢は、体の前で鳴った音によって醒めることになる。


 対抗側の道路を見ていた自分は音の鳴った方を窺う。

 その先には連絡アプリのニュース画面。いや、持っている携帯の先に何かあるのだ。

 嫌だ。知りたくない。

 それを見てしまっては醒めてしまう。今日自分は由奈にプロポーズをするのだ。

 その為に一張羅も準備して高層ビルのレストランも予約をした。いい景色だねって笑い合った後彼女に指輪を渡すのだ。


 そんな夢を見ていたのだ。そんな夢を……


 恐る恐る手を退けたその先には、ミドルの金髪に銀のピアスを耳につけた男の顔が転がっていた。


「うああああああああ!!」


 一人の悲鳴が静寂を破る。最悪の時間が動き出す。

 ガーゴイルの近くに居た市民たちが一斉に逃げ出した。

 今まで一大事だとも思えぬような静けさが嘘だったかのように全てが回り始める。

 俺の目に移りこむのはのっそのっそと動いてるように見えるものの、一人ずつ、確実に、目の前の獲物を裁いていく悪魔と、周りに鮮やかに彩る深紅の彼岸花だった。


 そんな状況の中で俺はというと、思考がまだ定まらず動けずにいた。


 人々が驚異の一転から円のように逃げていく。

 そんな中を一つ、また一つと青みがかった彗星がいくつか舞い降りてくる。

 悪魔たちだ。

 転々と交差点に舞い降りてくるそれに人々のパニックは加速する。


 どうすればいいんだ。


 とにかく逃げるべきなのは理解できる。しかし彼女はどうしているのか。

 きっといつものように待ち合わせの場所で待っていると思う。

 由奈が心配だ。

 しかし逃げる事で精一杯かもしれない状況で彼女の待っている場所まで走れるか?


 色々と考えているうちに俺の目の前に建物の隙間の路地が目に映った。


「……裏道を使えば行けるか?」


 かなり無謀だったと思う。路地裏は確かにあの怪物は入ってこられない。しかしそうして待ち合わせ場所に向かうことは結局リスクのかかることしかしていないのだ。

 だが、だがそれでも自分には、己の命と彼女の命はどちらも大切なものだったのだ。

 簡単に捨てれるものならこんな大掛かりなサプライズなんてしない!


 急いでその路地に駆け出し、隠れながら進もうとした。

が、


「ひゃあ!!」「ぅぉお?!」


 突如現れた亜麻色のロングヘアーの女性の顔が路地から飛び出した。

 一瞬またモンスターのような物が出てきたと思って心臓が飛び出そうになった。


 何だ驚かさないでくれ。

 そんな風に安心した。


 いや、何か様子がおかしい。何がおかしい?涙の跡のような、ほんの少しだけ化粧が落ちているのか?

 それに建物を持っている両手には何か力が入っているような。


「お兄……さん……」


 その瞬間恐怖する。

 暗いせいでほとんど見えてなかったが、彼女の履いていたブーツに何か触手状の細長い何かが巻き付いている事に。


「……タ、ス、ケテエェェェェェ!!」


 気づいたときには遅かった。

 振り絞った彼女のSOSに対し俺は手を伸ばしたが、その手はするりと空振り彼女は悲鳴を上げながら都会の闇へと消えていった。

 その奥から聞こえてきたのは言葉では形容できないような音が微かに響いている。


 助けられなかったという感覚がこれ程までに心を締め付けるものなのか。

 何もない、風を掴んだ感覚だけが虚しく手に残る。


 そんな状況でふと感じるのは、由奈の安否だった。


 路地の陰から水溶体の触手と肉塊のような触手が路地から複数本飛び出す。

 思わず後ろに倒れこみ何とか躱せる。


 存在している化け物は雨樋の化け物だけでもない事に恐怖が増した。


 どうやら路地に逃げる方が危ないらしい。

 どうすれば待ち合わせ場所に向かえるだろうか。

 それだけが心に残っている。


 一つ、俺の脳内に過る無謀な策。

 いや、ゴリ押しのほうが正しい。


 あのガーゴイル達の横を無理やり通り抜けて行くしかないのではないか。


 どうせ安全な場所に逃げなければならないのだ。ここから切り抜けなければいけないし、何より彼女のいる場所はまだ安全かもしれない。

 そんな淡い期待さえも今は希望になっている。とりあえずここから抜け出してあの場所に向かうしかない。


 俺は倒れてしまっていた体を起こし少し身構える


「覚悟、決めるぞ!!」


 全速力で走る。人の流れに逆らって走るのでぶつかりそうになる。


 しかしそんなことがどうでもいい様に走り続ける。まずは目の前のあいつの横脇を通り抜けよう。

 今一人の男を追いかけているその横を右手で裂こうとするその反対側は反応しづらいかもしれない。


 男に目掛け腕を払おうとする。

 刹那、悪魔がこっちに気づく。

 本来の動きと殺害欲求の高さが釣り合わなかったのか、そいつの右腕は男を僅かに逃し、


 俺の方にまで大きく空振りをした。

 そのままバランスが悪かったのか一周回ってワンと鳴いてこける。


 その光景を見て思わず気持ちが昂る。


「ざまあないな」


 と横目に見る。そして昂った気持ちは自分の左肩付近の違和感に気づき沈下する。

 服が爪で裂かれたように破れている。今日のために奇麗なスーツを選んだものがだ。


「げえ……マジかよ」


 あいつの振り払いはそこそこ距離があった気がするのに破れている。目が追い切れてなかったのか風圧でかまいたちが起こったのかわからない。

 だがかすれてしまったようだ。

 少し余裕をもって避けた方がいいかもしれない。




ーーーーーー





 人間、土壇場で頑張ると意外とやれるもので、その後3、4体ほど先ほどのように避けて街中を走り続ける。

 その間見渡した様子はこの世のものとは思えないほど凄惨な状況だった。

 町中は血に塗れいよいよ異臭も濃くなってきた。


 あの悪魔以外にも別の生物もちらほら確認されている。

 ミイラのような怪物も存在し、一つ目の触手の生えたなにかも見えた。

 ミイラは意外と鈍足で視認できていなければ歩いてでも逃げれるほどしかいないが、あの浮遊物体やほかの危なそうなやつに関してはなるだけ見つからないように進んでいく。


 今現状逃げながら手に入れることができた情報は、まだギリギリネットの回線が生きていて、誰かが死に物狂いで情報を発したのだろうか。一つだけポツンと新着で入ったニュースがあった。


 それには全国各地で未確認の生命体が人々を襲い始めるというニュースが書かれていた。

 短い文章ながら、的確な内容で現状安全が確認されている避難地も乗っていた。

 命がけの投稿だったのだろう。

 文章を閉めに入れようとする文が途中で途切れている。

 このニュースのおかげでこれに気づいた一部の人々がコメントで自分たちの現状確認できている安全地帯を残してくれている人がいる。


 また、ビルに植え付けられている大型モニターには先ほどまで臨時ニュースが流れており、避難勧告の報告を繰り返していた。

 勿論それは()()()話だ。そのニュースは先ほど緑の肌の小人の様な何かが画面を横切り女性の悲鳴が聞こえ始めたところでその放送が終了した。

 恐らくもうじきネットも使えなくなるかもしれない。


 そうなる前に何とか由奈と連絡が繋がればいいのだが。


 先ほどからタイミングを計っては電話をかけているのだが不通の繰り返しだ。

 きっと彼女も逃げるので精一杯なのかもしれない。それでも何とか合わなければならない。


 何度か聞いたことのある楽器の音が流れ出す。

 自分の携帯から流れてる着信音だ。

 携帯の画面には由奈と書かれている。

 彼女からだ! 慌てて電話を取る。

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