新しい人生の一歩目はこのはじまりの街で!
第一話 新しい人生の一歩目はこのはじまりの街で!
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異世界! 異世界だ!
どうしよう! 何から始める?! 何をしよう!
やりたい事が溢れてくる。ワクワクが止まらねー!
まずはギルドか?! 早速冒険か?!
体が疼いて止まらない!
「──よし! 決めた!」
拳を高く挙げ、俺は最優先事項を決定する。
俺の物語、最初の目標達成のため、大きく第一歩を踏み出した!
「───寝る!!」
精神的疲労マックスで、取り敢えず宿を探し歩き始めた───............。
○○○
「あの、すみません」
可愛いお姉さんに話しかける勇気はなかったとかそういう訳じゃないが、俺は近くにいたおじいさんに話しかけることにした。
「はい? なんでしょう」
仙人のような、髭なのか鬚なのか髯なのか。
髪も眉も長く、まるで絹で出来た滝のような───って俺は何を言っているんだろう。
疲労で頭がおかしくなったのかもしれない。
「えっと、宿を探してまして......」
変な感想に支配されないよう、少し視線を外す。
「ほぉ......宿の場所をご存知ないということは、この街に来たのは初めてですかな? 見かけない服装ですし」
「近いですね」
服にゼロ距離で顔を近づけるおじいさん。
毛のせいで見えてないんじゃないのか。
そんな俺の服装は、部屋着として着ていたジャージ一丁。
恐らく、異世界に転生する人はジャージを着ている呪いでもかかっているんだろう。
「さっき着いたばかりで、疲れちゃいまして」
「そうですかそうですか。お話を伺いたかったですが......。宿ならあちらに見えておりますぞ」
ぷるぷる震える手で指を刺したのは、何も無い......というか───
「出口じゃねーか」
思わずツッコんでしまった。
「あぁぁああぁ〜......。ありゃ出口でしたか。最近目が悪くなりましてな...」
「眉毛で見えてないんですよ」
「ほっほっほ。ご冗談を」
「冗談じゃないんですが......」
「えぇ〜.........っと、出口がこちらなら、宿はぁぁ〜〜あちら側ですな」
信用していいのだろうか。おじいさんが指を指した先には、立て看板が。
見たことない文字で、読むことは───......あれ、読める。
不思議と読める立て看板には『宿屋』と書いてあった。
「あぁそうか、ミカノがなんか言ってたな......」
確か、身体を再構築したとかなんとか。
おかげで不自由なく生活できそうだ。
──少しだけ、感謝しておこうと思う。
「──それじゃあありがとうございました!」
「いやいや、ゆっくりと疲れを取ってくださいな」
おじいさんと別れ、俺は宿屋へと向かった。
○○○
「ようこそ宿屋へ! 何泊されていきますか?! 10? それとも20?!」
宿屋へ入った途端、青い髪の女の子がびっくり箱みたいに迫ってきた。
──一言目で察した、こいつめんどくさい。
「お兄さんお若いですが冒険者ですか?! さぞかしお疲れでしょう、ささ、40泊くらい......」
「長ぇよ、取り敢えず1泊だ! こっちは疲れてんだ!」
涎を伝わせ手を擦る女の子に、喝を入れる。
「む〜〜.........。しょうがないですね...、1泊2000フローです」
諦めは早く、分かりやすく落ち込む女の子。
──そんな態度取れる立場じゃないだろうが。
それと、どうやらフィオレニアのお金はフローというらしい。
1泊2000フローというのは.........どうなんだ? 高いのか?
1フロー何円換算だろうか、相場なんて知らないし。
......それより俺、お金なんて持ってるのか?
「......? どうしたんですか、汗かいて」
嫌な予感がした俺の、頬に伝った汗を見逃してはくれず。
「え、えーっと......」
言い訳を考えながら、自分の服を弄る。
──うーんまずい! 素直に持ってませんって言うか?!
いやでも、それだとただの怒鳴った変な客になってしまう!
せっかく異世界に来て、早速悪印象なんて勘弁御免だ!
くそっ、何か持ってないのか?! P〇yP〇yで罷りませんかね──ってスマホ無───っ...。
「──あ、あれ? なんでお金入ってるんだ?」
焦りながら突っ込んだポケットには、お金が入っていた。
ジャラジャラと、割と多めに。
何でコレ気づかなかったんだよ。
──ってか、いつの間に?
おじいさんには貰ってない、ポケットは触られていない......。
──とすると、ミ、ミカノか......?
.........。今度会ったらきちんと礼を言おう。
「ちょっとー? 何してるんですかー? まさかこの位も払えないんですかー?」
目を細めて煽る女の子。
──だがそんな口撃、お生憎様俺には効かんッ!
「ふっ、見くびるなよ。そのくらい持ってるさ」
実にくーるに、いけめんに、ふぁんたすてぃっくに。
ジャラジャラとお金を出し、俺は2000フローを払ってやった。
「へ、へへ......毎度ありー!」
だがなぜか、女の子はニヤニヤと笑みを浮かべている。
一枚一枚丁寧に数えて、ついに涎を零す。
やがてニヤニヤは、濁りのない清廉な笑顔になって。
「ごゆっくりしてくださいね!」
天使のような満面の笑みで、鍵を渡してくる女の子。
それを受け取り、なんだか負けた気分のまま、俺は部屋へと向かった。
──扉の前まで着き、ドアノブを捻る。
「おぉ......悪くないな......」
安っぽい木造建築だが、逆に味があるんじゃないか?
人一人分のベッドに、申し訳程度のテーブルと。
光が射し込む大きめな両開き窓。
──6畳ほどの小さな部屋だが、これはなかなか......。
「いやっほう!」
そんなことより、俺はベッドに飛び込み寝落ちした───!
●●●
「ん........?」
──時刻は真夜中。のはず。
俺は、窓側から聞こえる軋むような音で目が覚めた。
うつ伏せで寝ていた俺は、様子を見ようと起き上がり、窓の方を見ると......。
「え......だれ......?」
──窓枠に座る、黒髪黒目の、衣服まで黒の美少女がいた。
風になびく長い髪と、月夜に照らされ妖艶に輝く長い脚。
艶めかしく、その......なんともエロく......。
──ていうかなんだ、何しに来たんだ?
もしかして襲いに来た?! 大歓迎です!
「よろしくお願いし」
「動かないでください───」
パソコンのエンターキーでも押そうかと思った次の瞬間。
──鋭く、刺すような瞳孔に、俺は瞬時に固まる。
俺、なにかやっちゃいましたっけ。
「────あ、あの......何か御用で......?」
口すらもなるべく動かさないよう、恐る恐る声をかける。
──息をのみ、張り詰める空気は氷のようで。
「────......身に覚えが無いと...?」
女の子は、驚いた表情でそう返す。
「あ、あぁ、だって......」
俺はついさっき、この街に、この世界に来たばっかりだ。
こんな美少女とは会ってないし、見たことも無い。
どうやっても迷惑をかけることは不可能で......。
「──本当に、無いんですね?」
──強い口調で、再度問うた。
「......あぁ」
俺は違わず肯定する。
「......そうですか──」
...あぁ、あぁそうだ! 俺は何もやっちゃいねぇ!
勘違いしてんじゃねーのか?! 責任取れるんだろうなぁ?! って言ってやりたい!
──ほうと一息つき、冷たい表情に戻った女の子。
俺と目を合わせ、ポツリと──呟いた。
「───ドラゴン」
「えっ」
──マズイ。
──マズイ、マズイマズイマズイ。
完全に忘れてた!
───いや、正確には覚えていた。
でも関係ないだろうと勝手に除外していた!
「その反応、やっぱり......」
眉をひそめ、疑いは深くなったらしく。
空気は更に冷たく感じ、俺は顔を引きつらせながら。
「えっ、あ、いやその、忘れてたって言うか.........」
おっとしまった。焦りすぎてダメな事言っちゃった!
「認めましたね。やっぱりあなたが私の可愛いレっちゃんを......」
レっちゃん?! あいつ雌だったのか?!
──いやそっちじゃない、あのドラゴンをレっちゃんなんて呼んでるって事は......!
「もしかして、ペットだったしませんよね」
「ペットです」
あぁああぁあぁああああぁぁあああ!!
終わった! あんなドラゴンをペットにするとか、どんなバケモンだよ!
そんなやつ怒らせたら──!
────ん?
──いやちょっと待て、何をビビる必要がある?
そうだ、俺はチート持ちなんだ。
敵対するようなら、俺だってやってやる。
──チート持ちだということを思い出した俺は、急に冷静になった。
反撃用に、スキルを“創造„しておこう。
──ふむ、何にしようか。服がはだけるスキルとか、惚れ魔法とかも創れるんじゃ?!
──それどころか、余裕すらも。
よし決めた。惚れ魔法スキルにしよう。異世界ハーレムを目指そう。
謎にモテまくってる主人公ども、正直気に食わなかったんだよな。
お兄ちゃん大好きな妹が居たり、僕のこと大好きな幼なじみが居たり、ちょっとした事で好きになってくれるキャラが居たり、100人彼女が居たり。
おかしいだろ! 俺にもくれよその子ら!!
──だがそんな悩みも──なんということでしょう、これで解決!
心躍るまま、俺はスキルを“創造„しようとして────
──だが、“創造ノ世界„は発動しなかった。
「────!?」
「......ん? 今何かしようとしました?」
マズ──勘づかれた......!
だけどなんで、俺のチートは発動しない?!
「もしかして、スキルですか?」
「───ッ......!」
ヤバイ、バレた──!
くそっ、なんでだ?! いくらやってもチートが発動しない!
「はぁ、図星ですね。呪いをかけておいて正解でした」
「え...呪い...?」
呪いってあれですか? カースですか?
...、嫌な予感がする。
「えぇ、得体の知れない“何か„......。それも世の理を覆すような“何か„を持っているようなので、全てのスキルを封印する呪いをかけました」
「はぁ──?!」
──なんて言った?! 全てのスキルを封印?!
なんだそれ、チートじゃねーか!
「どうやら、そのスキルが無ければあなたは無力みたいですね」
緊張が解けたのか、少し表情が和らいだ女の子。
女の子の言うとうり、俺はもう無力だ。
「......だったら、どうするんだ? 俺を殺すのか?」
俺は、死を覚悟して────
「......いや、殺しても殺さなくても、意味無いと思いますし、私は殺しは嫌いなんです。しないで済むならその方がいい──」
「えっ──」
──意外な応えに、俺は間抜けな声が出た。
「......なんですか。意外そうに。今回はたまたまですからね? 本当なら殺してましたよ」
「なっ、それはどういう──」
さらっと恐ろしい事を口走る女の子。
「レっちゃん、最近おかしかったんです。暴れて人里に降りて人を殺して......そんな子じゃなかったのに、大人しかったのに......。だから中からは出られない場所に隔離して、様子を見てたのに......」
......なるほど。だからあんなとこに......。
逃げ場の無かった、あの火山のようなフィールドを思い出す。
「レっちゃんは、こうなる運命だったんです。無差別に人を殺したりして......。そんなことしたら必ず報いは来るんです。だから、ある意味レっちゃんを救ってくれた......そう解釈して、今回だけは赦してあげます」
「えっと......それはどうも......」
いい感じに誇大解釈してくれているみたいなので、そういう事にしておこうか。
「......それに──いや、やめときましょうか。話は以上です。寝ている所申し訳ありませんでした」
女の子は話を切り上げ、窓枠に立って遠くを見つめる。
そよぐスカートからは、パンツが見えそうで......。
「あ、待ってくれ! あんなドラゴンをペットにする......あんたは何者なんだ......?」
スカートに気を取られ、聞きそびれるところだった。
超一流の冒険者? 勇者の家系? 正体不明のパーティー?
こんな、ザ・異世界みたいな話、出来れば詳しく聞きたいが──...
そんな期待を込めての問いに、女の子は。
あぶないスカートに気づいたらしく、手でおさえながら。
──少し顔を赤くし振り向いて、一言。
自分の名を、正体を──......言った。
「魔王の娘......“ビオラ„...。それだけで十分でしょ?」
──小さく微笑んで、そう応えた。
「えっ......?」
......俺はそれ以上声が出ず、ただ見ている事しか出来ず。
「それでは、さような───いだっ!」
──窓枠の上で、頭を打った魔王の娘は。
まるで夜に溶け込んだ──いや、夜そのもののような魔王の娘は。
初めからそこにいなかったかのように、そよ風を残し姿を消した。
静かな嵐が過ぎた後、俺は思考が停止したまま───
「.........寝るか」
全て忘れて眠りについた───.............
○○○
──時刻は早朝。
俺は、開いたままの窓から聞こえる鳥のさえずりで、目を...覚ました......。
身体はなんとも重く、まだ寝たいと訴えかける。
「............」
試しにスキルを使った。
だがやっぱり発動はせず、昨日の夜の出来事は、現実だったんだと悟った。
「.........寝るか」
俺は、動く気が起きず眠りについた──.........。
○○○
「おーいお客さーん! 起きて下さーい!」
──時刻は以下略。
俺は、部屋で騒ぐ大きな声で以下略。
だが聞こえないふりをして、目を開けず───。
「おぉーーい!!」
「うるっせぇ!!」
耳元で叫ばれ、俺は飛び起きた。
「あ、やっと起きましたね。二日目突入です。追加料金です」
ちょこんと正座する女の子は、にこやかに。
「......え、二日目?」
そわそわしながら、両手を差し出し俺を見つめる。
「はい。追加料金2000フローです」
「あーー......、えっと、どうぞ......」
上手く頭が回らず、取り敢えず俺は追加料金を支払った。
「どうしよう......街でも見回ろう......」
気分転換にと、俺は外に出ることにした。
女の子は、よく分からない踊りをしながら戻って行った。
○○○
「うおっ......眩し......」
久しぶりに感じる日光に、俺は強く目を瞑る。
段々と暖まる身体と、慣れていく視界。
歩く住人達を横目に、大きく息をする。
地球とは別の澄んだ空気も相まって、俺の心は嫌でも晴れていった。
「......良し! 昨日の事なんて全部忘れて、平和で楽しい異世界生活を送ってやる!」
チートなんてもうどうでもいい。
魔王を倒すのもどうでもいい。
俺は決心した。チートが無くなった俺には、魔王を倒すなんて無理な話だ。
というかこんな平和な街で力なんていらないんだ。
──ってそうだよ、この世界って危機にさらされてるんじゃなかったか?
ミカノのやつ適当なこと言ったのか。
あの時の俺のテンションを返して欲しい。
やっぱり感謝は無しだな。
○○○
「どこだここ」
──街を練り歩いて数十分。
迷った。
なんで俺は路地裏を歩いてんだ。
「いやホントになんでだよ」
どこか抜けれる所は無いのか......。
「歩くしかないか......」
──それから数分。
ボーっと歩いていると、突然曲がり角から少女が飛び出してきた。
「いてぇ!」
横からのタックルに、俺はよろけて──。
少女は俺を掴んで、涙目で叫んだ。
「お願いします! 助けてください!」
──突発クエスト発生───!