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ワンモアライフ  作者: ななほしりう
2/5

プロローグ2

プロローグ2

───────────────────


 あっちぃぃいいいいいいいい!!

 あつい! 暑い暑い暑い!

 ドラゴンの元へ着いた瞬間から、俺はどうにか視線から逃れようとフィールドを走り回る。

 まるで火山の中にいるような暑さ。

 暑いし熱い! 焼ける!!


「ヤバいヤバい、どうしよう!」


 死に物狂いで走る俺と、少しも目を離さないドラゴン。


「でっ、出口! 出口は無いのか!」


 周囲を確認するが、それらしきものは見当たらない。


「はぁ、はぁ、ど、どうするこれっ?!」


 走るなんて何時ぶりだ?! 引きこもりにゃキチーよ!

 あぁ、くそっ! こんな時に───!


「ぎゃああああああああああああ!」


 ドラゴンは、まるでアリを潰すかのように手を振り下ろしてきた。

 間一髪避けた俺は、だが既に限界を迎えていた。


「あっちぃ......やべーよこれ......」


 足はもう動かず、のそりのそりと引きずって。

 ...こんな時に、こんな......どうしようも無く、誰も助けに来ない.........こんな状況の中───


「あっ......」


 足元の石に(つます)き、地面に倒れ込んだ。

 もう飽きたらしいドラゴンは、確実に殺す気で口に炎を溜めている。


「はぁはぁ、はぁ。あーー......。これは死ねる......」


 こんな、漫画では超パワーだとか潜在能力だとかが覚醒しそうな状況で。

 ──だが、生憎主人公設定のない俺には、諦めることしか出来ず──。

 こんな時、こんな時に────。


「うぅ〜...いやだめだ...! さっきあんな事言ったばっかで...!」


 思わず零しそうになった本音を強く飲み込んで、俺は惨めったらしく床を這う。

 ごつごつした地面で、腕に傷を増やしながら。


「くぅぅぅぁぁあああっ!」


 なんとか声を出して誤魔化すが、既に心は折れていて。

 でも、どうしても、ゲーマーのプライドが...俺を......!


「はぁ...はぁ......」


 ドラゴンの炎が、俺に向かってきているのが分かる。

 時間が、遅く感じる。

 目が焼けそうで、痛くて、辛くて。


「あぁ〜......()()()


 そして、脳裏に浮かんだ言葉を、呟いた────


「.........チートが、あれば..................」


 ──その瞬間、鉄の掟も、鋼の心も、なんとも脆く、なんとも自然に。

 初めから存在していなかったように、崩れ去った───。


「.........あっ.........」


 それと同時、俺はドラゴンの炎を目いっぱいに浴びた.........。


●●●


「それで、掟が? 心が何だって?」

「すみませんでした」


 天界に戻ったコンマゼロ秒で、俺は御神乃の前に土下座をした。

「ん〜? 観てたよ? 聴いてたよ?」

「すみませんでした」

 ニヤけているのか、上がった声色で話す御神乃。

 だが何も言う事が出来ず、ただ謝ることしか出来ず......。

「チートがあれば、だっけ〜? さっきあんなに怒鳴ったくせに〜? ぶふっ...」

 だんだん耐えられなくなってきたのか、時々笑い出す御神乃。

 だがやはり、俺には何も言えず......。

「でもあんたがチート能力(スキル)の使い方を教えて欲しいって言うなら〜。ぶっ...。教えてあげても......ぶふっ......良いんだけどなぁ〜...。ぶはっ...!」

 俺が物を言えないのをいい事に、ここぞとばかりに煽ってくる御神乃...。

 やっぱり、俺は、何も言えず.........。

「ねぇ〜〜。何か言ったら? ほらほら、教えてあげよーかぁ〜?」

「......教えてください.........」

 チート無しではあそこを突破できないと悟った俺は、最大限腰を低く......。


「ぶわははははははははは!! 教えてくださいだって! むり! こんなのむりっ! あははははははは!」

「笑い過ぎだぁああああああああああああぁぁぁ!! ぁぁぁぁあああああああああああああああ!!」


 耐えきれなくなった御神乃は笑い、俺は吠え、時間だけが静かに過ぎていった.........。


○○○


「私があげたチート能力(スキル)っていうのはね?」

「おう」


 延々と笑い、疲れた御神乃は、淡々とチートについて話し始めた。

「その名前を──......あー......、また忘れてた」

 だが途端に、気だるそうにため息をついて。

 ()()って、まさか...。

「え、なに、また騒ぐ気か?」

「盛り上げるって言って欲しいんだけど」

 いやいや、いらないから。

「疲れたので結構です」

「それでは──」

「おい聞いてたか?」

 これ以上騒がれると気力が持たない。

 神様の体力とは無限なのだろうか。

 御神乃はビシッと格好つけて、ドヤ顔で。

「私が授けたチート能力(スキル)のその名は───ッ! “創造ノ世界(カミノミワザ)„よッ!! .........どう? かっこいいでしょ?」

「厨二病じゃねーか」

「厨二病じゃないわ! あんたと一緒にしないで!」

「俺は厨二病じゃねーよ!」

 少し胸が騒いだのは気のせいだろう。俺は厨二病では無いのだから。

「で、その権能は何ともシンプル! 自分の思い描く権能を持つスキルを自由に創れちゃう!」

「え! なんだそれ最強じゃね?!」

「そうだよ! 制限も無いからね!」

 自慢げに、胸を張る御神乃。

「軽く説明をするとね───」

 よっぽど早く聞いて欲しかったんだろうな。嬉しそうに創造ノ世界(カミノミワザ)について説明する御神乃。

「おぉ! このスキルがあれば、さっきのドラゴンも......!」

 俺は拳を強く握って、ドラゴンを思い浮かべる。

「そう! こてんぱんのけちょんけちょんにしてやれるってワケ!」

 御神乃が言って、気分の上がる俺は──。

「ははっ! 待ってろよドラゴン! 俺がこのスキルで直々(じきじき)に────」


 ──成敗してやろうという言葉を(さえぎ)って。


「え〜......。あんたってばそんな移り変わり早いんだね。あんなにボロクソに言われたのにな〜」

 御神乃が、肩を下げため息をつく 。

「うっ。それは申し訳なく......」

 ──思い返し、恥ずかしくなった俺に。

「チート嬉しい?」

「超嬉しい! チート最高!」

 即答した俺に満足したのか。

 背中を見せて、力んだ声で──。

「うん。それでよし。......じゃあ───次こそ、()()()()()()()()


 ───()()()()()()と、(あん)にそう言って。


「......あぁ、ありがとな!」


 胸に(つか)えた気持ちを、だが言葉にすることは出来なくて──。


「どういたしまして」


 安らいだ様子で、御神乃は振り返る。

 ──遂にこれから、俺の異世界生活が始まる。

 チートを持って、ドラゴンを倒して、いつかは魔王すらも──。

 妄想が止まらない。全てが未知の異世界での生活。

 御神乃(こいつ)ともこれでお別れだろう──。


 そう考えると、少し、()()()()()()()、寂しくなるような気がして────。


「──どうか貴方に、神の御加護がある事を祈って────」


 手を組んで祈るその姿は──美しい女神様に思えて───。

 これで三度目。御神乃に授かったこの力を持って、本当に勇者にすら......。

 足元の魔法陣も、まだ慣れない浮遊感も、もう味わう事は無いだろう。


「それじゃあ........ばいばい!」


 明るくはにかむ美少女に──どこか懐かしさすら感じるようになって───。


「おう!」


 大きな大きな目標を持って、俺は異世界へと転生した────!

 魔王を倒して、勇者になったら、またここに戻ってこよう、そう......誓って───...............


●●●


「......よう、また会ったな」


 チートがあると知った今でも、ドラゴンの迫力には気圧(けお)されてしまう。


「二回も俺の事を殺しやがって。覚悟しやがれ」


 俺を見つめるドラゴンの目を、瞳を、鋭く(にら)む。


「このクソドラゴンめ、余裕ぶってんのか? お前なんてな! 今から俺がこてんぱんのけちょんけちょんにしてやるっ!」


 言葉の意味は分からないだろうと、強気に出る俺。

 だが、ドラゴンの口から溢れた炎にビビって、冷や汗をかいて目を逸らす。


「べべ、別に? ビビってるわけじゃねーし! ちょっと目逸らしただけだし!」


 誰に言い訳しているのかは分からない。

 だが呼吸を整え、御神乃の説明通りにチートを使おうとした時。


「おわっ!? ちょ、ちょちょちょ待ってくれよ!」


 何かを察したのか、ドラゴンが炎を吐いてきた。


「直撃は避けたけど......あっついな......。おいクソドラゴン! チート使わせろ!」


 するとドラゴンはキレたのか、炎を連発し始めた。

 ──こいつ言葉が分かるのか?!


「いやあああああああああ! どうしよう! 熱い熱い!」


 炎をどうにか避けながら逃げ回る。


「取り敢えずどっかに隠れよう───!」


 ドラゴンの視線から外れようと、炎の陰に隠れながらドラゴンの足元へと走っていった。


「ふぅ......ここなら......」


 俺を見失って慌てているのか、ドラゴンは咆哮しながら辺りを見渡している。


「ふっ、バカドラゴンめ。灯台もと暗しってな」


 “創造ノ世界(カミノミワザ)„の発動には、明確な“想像(イメージ)„が大事だと。

 何がどうなってどうなるのか、細ければ細かいほど“創造„するスキルの完成度は変化する。らしい。

 ──そして、あのドラゴンにぶち込むスキルはもう決まった。

 後は“創造„し、発動するのみ。

 だがそれにも、それ相応(そうおう)の集中力を要する。

 見つからない場所まで逃げたのはその為だ。


「──“想像(イメージ)„───......」


 炎には水を。(ドラゴン)には(ドラゴン)を──。

 情報を整理し、“想像(イメージ)„を明確にしていく。


「お前が俺を喰ったように、俺は俺の能力(スキル)でお前を飲み込んでやる」


 確定した“想像(イメージ)„を、“創造„へと移行させようとした時。

 ちらっとドラゴンの様子を(うかが)おうと上を向くと、なんと目が合ってしまった。


「あっ、やべこれ......」


 ドラゴンは、そのまま蹴りあげようとしたのだろう。

 力む左脚に──だが逃げては間に合わないと踏んだ俺は、逆に脚にしがみついた。


「うおぉおおぉぁあっ!!」


 蹴りあげられた脚の勢いはそのままに、俺は空中に飛ばされた。

 暫く頂点を探し漂った後、落下しながら──。


「体勢は悪いがまぁ良い! ──“創造„───.........」


 ──“想像(イメージ)„を、遂に“創造„し。

 特に意味は無いが、俺は両手を前に突き出す。

 ドラゴンは俺に標準を合わせ、口の中で炎を溜めている。


「炎大好きなお前が最も嫌うだろう物を、()()を、魅せてやる──」


 最大限にまでカッコつけて、まるでアニメの主人公のように───。

 吐き出された炎にビビりながらも、そのスキルの名を、言い放った──。


「永遠に眠れ──“水舞(すいま)„────」


 “水舞„──それは“想像(イメージ)„どうりに。

 龍の(すがた)をした巨大な水の塊が、炎のドラゴンを飲み込もうと、その姿を───......()()()()()()────...............


「えっ」



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