プロローグ2
プロローグ2
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あっちぃぃいいいいいいいい!!
あつい! 暑い暑い暑い!
ドラゴンの元へ着いた瞬間から、俺はどうにか視線から逃れようとフィールドを走り回る。
まるで火山の中にいるような暑さ。
暑いし熱い! 焼ける!!
「ヤバいヤバい、どうしよう!」
死に物狂いで走る俺と、少しも目を離さないドラゴン。
「でっ、出口! 出口は無いのか!」
周囲を確認するが、それらしきものは見当たらない。
「はぁ、はぁ、ど、どうするこれっ?!」
走るなんて何時ぶりだ?! 引きこもりにゃキチーよ!
あぁ、くそっ! こんな時に───!
「ぎゃああああああああああああ!」
ドラゴンは、まるでアリを潰すかのように手を振り下ろしてきた。
間一髪避けた俺は、だが既に限界を迎えていた。
「あっちぃ......やべーよこれ......」
足はもう動かず、のそりのそりと引きずって。
...こんな時に、こんな......どうしようも無く、誰も助けに来ない.........こんな状況の中───
「あっ......」
足元の石に躓き、地面に倒れ込んだ。
もう飽きたらしいドラゴンは、確実に殺す気で口に炎を溜めている。
「はぁはぁ、はぁ。あーー......。これは死ねる......」
こんな、漫画では超パワーだとか潜在能力だとかが覚醒しそうな状況で。
──だが、生憎主人公設定のない俺には、諦めることしか出来ず──。
こんな時、こんな時に────。
「うぅ〜...いやだめだ...! さっきあんな事言ったばっかで...!」
思わず零しそうになった本音を強く飲み込んで、俺は惨めったらしく床を這う。
ごつごつした地面で、腕に傷を増やしながら。
「くぅぅぅぁぁあああっ!」
なんとか声を出して誤魔化すが、既に心は折れていて。
でも、どうしても、ゲーマーのプライドが...俺を......!
「はぁ...はぁ......」
ドラゴンの炎が、俺に向かってきているのが分かる。
時間が、遅く感じる。
目が焼けそうで、痛くて、辛くて。
「あぁ〜......ダメだ」
そして、脳裏に浮かんだ言葉を、呟いた────
「.........チートが、あれば..................」
──その瞬間、鉄の掟も、鋼の心も、なんとも脆く、なんとも自然に。
初めから存在していなかったように、崩れ去った───。
「.........あっ.........」
それと同時、俺はドラゴンの炎を目いっぱいに浴びた.........。
●●●
「それで、掟が? 心が何だって?」
「すみませんでした」
天界に戻ったコンマゼロ秒で、俺は御神乃の前に土下座をした。
「ん〜? 観てたよ? 聴いてたよ?」
「すみませんでした」
ニヤけているのか、上がった声色で話す御神乃。
だが何も言う事が出来ず、ただ謝ることしか出来ず......。
「チートがあれば、だっけ〜? さっきあんなに怒鳴ったくせに〜? ぶふっ...」
だんだん耐えられなくなってきたのか、時々笑い出す御神乃。
だがやはり、俺には何も言えず......。
「でもあんたがチート能力の使い方を教えて欲しいって言うなら〜。ぶっ...。教えてあげても......ぶふっ......良いんだけどなぁ〜...。ぶはっ...!」
俺が物を言えないのをいい事に、ここぞとばかりに煽ってくる御神乃...。
やっぱり、俺は、何も言えず.........。
「ねぇ〜〜。何か言ったら? ほらほら、教えてあげよーかぁ〜?」
「......教えてください.........」
チート無しではあそこを突破できないと悟った俺は、最大限腰を低く......。
「ぶわははははははははは!! 教えてくださいだって! むり! こんなのむりっ! あははははははは!」
「笑い過ぎだぁああああああああああああぁぁぁ!! ぁぁぁぁあああああああああああああああ!!」
耐えきれなくなった御神乃は笑い、俺は吠え、時間だけが静かに過ぎていった.........。
○○○
「私があげたチート能力っていうのはね?」
「おう」
延々と笑い、疲れた御神乃は、淡々とチートについて話し始めた。
「その名前を──......あー......、また忘れてた」
だが途端に、気だるそうにため息をついて。
またって、まさか...。
「え、なに、また騒ぐ気か?」
「盛り上げるって言って欲しいんだけど」
いやいや、いらないから。
「疲れたので結構です」
「それでは──」
「おい聞いてたか?」
これ以上騒がれると気力が持たない。
神様の体力とは無限なのだろうか。
御神乃はビシッと格好つけて、ドヤ顔で。
「私が授けたチート能力のその名は───ッ! “創造ノ世界„よッ!! .........どう? かっこいいでしょ?」
「厨二病じゃねーか」
「厨二病じゃないわ! あんたと一緒にしないで!」
「俺は厨二病じゃねーよ!」
少し胸が騒いだのは気のせいだろう。俺は厨二病では無いのだから。
「で、その権能は何ともシンプル! 自分の思い描く権能を持つスキルを自由に創れちゃう!」
「え! なんだそれ最強じゃね?!」
「そうだよ! 制限も無いからね!」
自慢げに、胸を張る御神乃。
「軽く説明をするとね───」
よっぽど早く聞いて欲しかったんだろうな。嬉しそうに創造ノ世界について説明する御神乃。
「おぉ! このスキルがあれば、さっきのドラゴンも......!」
俺は拳を強く握って、ドラゴンを思い浮かべる。
「そう! こてんぱんのけちょんけちょんにしてやれるってワケ!」
御神乃が言って、気分の上がる俺は──。
「ははっ! 待ってろよドラゴン! 俺がこのスキルで直々に────」
──成敗してやろうという言葉を遮って。
「え〜......。あんたってばそんな移り変わり早いんだね。あんなにボロクソに言われたのにな〜」
御神乃が、肩を下げため息をつく 。
「うっ。それは申し訳なく......」
──思い返し、恥ずかしくなった俺に。
「チート嬉しい?」
「超嬉しい! チート最高!」
即答した俺に満足したのか。
背中を見せて、力んだ声で──。
「うん。それでよし。......じゃあ───次こそ、帰ってこないでね」
───もう死ぬなよと、暗にそう言って。
「......あぁ、ありがとな!」
胸に支えた気持ちを、だが言葉にすることは出来なくて──。
「どういたしまして」
安らいだ様子で、御神乃は振り返る。
──遂にこれから、俺の異世界生活が始まる。
チートを持って、ドラゴンを倒して、いつかは魔王すらも──。
妄想が止まらない。全てが未知の異世界での生活。
御神乃ともこれでお別れだろう──。
そう考えると、少し、ほんの少しだけ、寂しくなるような気がして────。
「──どうか貴方に、神の御加護がある事を祈って────」
手を組んで祈るその姿は──美しい女神様に思えて───。
これで三度目。御神乃に授かったこの力を持って、本当に勇者にすら......。
足元の魔法陣も、まだ慣れない浮遊感も、もう味わう事は無いだろう。
「それじゃあ........ばいばい!」
明るくはにかむ美少女に──どこか懐かしさすら感じるようになって───。
「おう!」
大きな大きな目標を持って、俺は異世界へと転生した────!
魔王を倒して、勇者になったら、またここに戻ってこよう、そう......誓って───...............
●●●
「......よう、また会ったな」
チートがあると知った今でも、ドラゴンの迫力には気圧されてしまう。
「二回も俺の事を殺しやがって。覚悟しやがれ」
俺を見つめるドラゴンの目を、瞳を、鋭く睨む。
「このクソドラゴンめ、余裕ぶってんのか? お前なんてな! 今から俺がこてんぱんのけちょんけちょんにしてやるっ!」
言葉の意味は分からないだろうと、強気に出る俺。
だが、ドラゴンの口から溢れた炎にビビって、冷や汗をかいて目を逸らす。
「べべ、別に? ビビってるわけじゃねーし! ちょっと目逸らしただけだし!」
誰に言い訳しているのかは分からない。
だが呼吸を整え、御神乃の説明通りにチートを使おうとした時。
「おわっ!? ちょ、ちょちょちょ待ってくれよ!」
何かを察したのか、ドラゴンが炎を吐いてきた。
「直撃は避けたけど......あっついな......。おいクソドラゴン! チート使わせろ!」
するとドラゴンはキレたのか、炎を連発し始めた。
──こいつ言葉が分かるのか?!
「いやあああああああああ! どうしよう! 熱い熱い!」
炎をどうにか避けながら逃げ回る。
「取り敢えずどっかに隠れよう───!」
ドラゴンの視線から外れようと、炎の陰に隠れながらドラゴンの足元へと走っていった。
「ふぅ......ここなら......」
俺を見失って慌てているのか、ドラゴンは咆哮しながら辺りを見渡している。
「ふっ、バカドラゴンめ。灯台もと暗しってな」
“創造ノ世界„の発動には、明確な“想像„が大事だと。
何がどうなってどうなるのか、細ければ細かいほど“創造„するスキルの完成度は変化する。らしい。
──そして、あのドラゴンにぶち込むスキルはもう決まった。
後は“創造„し、発動するのみ。
だがそれにも、それ相応の集中力を要する。
見つからない場所まで逃げたのはその為だ。
「──“想像„───......」
炎には水を。龍には龍を──。
情報を整理し、“想像„を明確にしていく。
「お前が俺を喰ったように、俺は俺の能力でお前を飲み込んでやる」
確定した“想像„を、“創造„へと移行させようとした時。
ちらっとドラゴンの様子を窺おうと上を向くと、なんと目が合ってしまった。
「あっ、やべこれ......」
ドラゴンは、そのまま蹴りあげようとしたのだろう。
力む左脚に──だが逃げては間に合わないと踏んだ俺は、逆に脚にしがみついた。
「うおぉおおぉぁあっ!!」
蹴りあげられた脚の勢いはそのままに、俺は空中に飛ばされた。
暫く頂点を探し漂った後、落下しながら──。
「体勢は悪いがまぁ良い! ──“創造„───.........」
──“想像„を、遂に“創造„し。
特に意味は無いが、俺は両手を前に突き出す。
ドラゴンは俺に標準を合わせ、口の中で炎を溜めている。
「炎大好きなお前が最も嫌うだろう物を、悪夢を、魅せてやる──」
最大限にまでカッコつけて、まるでアニメの主人公のように───。
吐き出された炎にビビりながらも、そのスキルの名を、言い放った──。
「永遠に眠れ──“水舞„────」
“水舞„──それは“想像„どうりに。
龍の貌をした巨大な水の塊が、炎のドラゴンを飲み込もうと、その姿を───......現さなかった────...............
「えっ」