中年
夜意味もなく徘徊していると 前に小太りの中年の男が立っているのが目にとまった
何故か立ち止まったまま前を向いてを見上げている
誰から見ても不審に思う なぜならその男は冬なのに半袖 半ズボンで 白いTシャツの背中に
誰かのいたずらか ガムテープで長方形の紙を張ってある
「紙貼られてますよ」私は注意した
「どこに」
「背中です」背中に指を指す
「あっ これか」
「これは私が貼ったのだよ」
容姿といい わかってはいたが やはり危険なニオイがする 普通ならこのまま無言で立ち去るべきだろうが私の中にある何か 興味なのか冒険心なのか笑いを求めてるのかよくわからない何かによって立ち去る行動を否決してしまった
「それは失礼しました 何故付けてるんですか? それと寒くないですか?」
「何でって言われてもな〜」
「そうだ 君バイトせえへんか?」
私の二つの質問は軽く流され突拍子もないひとつの質問が彼の口から飛んできた
「バイトはしたいですけど 急に言わ・・・・・・ 」中年は私が喋っている途中にくるくる回り始め私は困惑した
腹を揺らし 手を広げてバレリーナのように片足を軸にし徐々に加速していく かなり早い
彼は回る
まだ回る
息が荒くなり汗がでてきてる
当然遠心力と汗によって背中の紙は落ちる 彼は回るのをやめてその紙を拾い上げた
「はい! これ」 と息継ぎなしで早口で言い私に紙を渡してきた
何故か彼は私に回っていたことで息切れするのを悟られまいと
私の顔を見ながら運動する前の普段の息遣いを意識して呼吸をしている が
私は彼のどうだ!こんなに運動して息切れしないぜと訴えかける表情と膝に手を置いて疲れを和らげようとするのだがとっさに手を組むしぐさと大量の汗で私は彼の考えてることが分かった
紙には助手募集の字に住所とリボンの付いた木の絵が描かれている
「助手募集って 俺高卒だし 資格も持ってないですよ しかも行かないし」
「時給1600円 面接なし 誰でも採用や」
「考えときます」
「アカン! するかせえへんかどっちか言え!」
「えーと じゃぁ します」
「よし! やっと解放されたでー じゃあな」
中年は踵を返しスキップでどこかへ行ってしまった