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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

killer killer killer

作者: 蒼井ふうろ

会えないかな、とラインが来たのが2日前。

ちょっと相談に乗ってほしいことがあるの。

いつも通り、曖昧に内容をぼかしたような物言いに苦笑しながら了解を示したのが昨日。



「鈴ちゃん!」



職場の最寄駅の改札を出てきた香苗がこちらを向いて破顔する。

小さく手を振ってやれば小走りに近づいてきて、安心したように息を吐いた。



「鈴ちゃん、大きい駅で働いてるんだねえ。人が多くてびっくりしたよ」

「香苗は車通勤だっけ?ならここの路線は人が多く感じるだろうね」

「ね、電車に乗るだけですごく体力使った気がするよ」



そう言って笑う香苗は春先だというのにじんわりと額に汗を浮かべている。

ぽっちゃりしていることも相まってか、その様は外で遊んできた少女のように見えた。

到底今年で社会人2年目とは思えまい。

額の汗をハンカチでぬぐってやると、一瞬きょとんとしたあとで香苗はふにゃふにゃと笑った。



「もー、鈴ちゃんすぐに子ども扱いするんだから」



拗ねたような口調の割に彼女の顔には安堵のような表情が浮かんでいる。

彼女がこうやって扱われることが好きなことくらい、よく知っていた。

高校のころからずっとこうして一緒にいる。

大学が違っても、就職しても、なんやかんや食事にいったり、遊びに行ったり。

長い付き合いなもので、香苗が「子ども扱い」と怒るのは大人びて見せたいという気持ちからくるポーズであり、実際はそうされることが好きなことくらい分かっている。



「子ども扱いしてないよ。拗ねちゃって、カワイイね」

「もう、鈴ちゃんがそうやって甘やかすから私いつまでたっても子供っぽいって言われるんだからあ……」



子どもっぽさを憂う割に、香苗はぷうっと頬を膨らませる。

そういうところが可愛いんだよ、と笑って彼女の手を取った。



「ほら、20時からの予約にしてるから。早くお店行こうよ」

「あっ、うん!鈴ちゃんチョイスのお店、楽しみだなあ」



肉料理がおいしいところなんだよ、と言えば香苗はたいそう嬉しそうに笑った。

ハンバーグはあるかなあと言った彼女の横顔はまるっきり子供のようだった。

きゅっと手をにぎったまま店に移動し、予約通り半個室に通される。

「さすが鈴ちゃん、気の遣い方も一級品なんだあ」とのんきに笑う香苗を座らせ、とりあえずドリンクを注文した。



「で?相談って?」



ドリンクと一品物が届き、乾杯を済ませたタイミングで会話を切り出す。

香苗の性格上、こちらからつつかない限り話し始めることはない。

特にああいう内容を告げないタイプの相談は文字化できない分、言いだしづらいのだろう。

私の言葉に香苗は一瞬気まずそうに目を伏せ、そのあと意を決したように顔を上げた。



「あのね、鈴ちゃん」

「うん?」

「私ね……」

「うんうん」



早く話し始めないかなあとは思うが、ここでつつくと香苗がてこでも話さないことを知っている。

のんびりスクリュードライバーを口に含んで次の言葉を待つ。

ひとしきりあーうーとうめき声をあげた彼女は小さな声で続きを話した。



「好きな人が、できてね……」



へえ、よかったじゃん。

軽い調子でそう言えば香苗は顔を上げて私を見た。

不安そうな、なんとも言えない顔をしているものだから今度はぐび、と喉を鳴らして酒を飲んだ。

気にしてないよという言葉の代わりの行動は意味が通じたらしい。

香苗は私にふにゃふにゃと笑みを向ける。



「き、緊張したあ……」

「なんでさ」

「だって鈴ちゃんモテるから、私、付き合ってもないのにそんなこと相談したら笑われちゃうんじゃないかなって思って……」

「笑わないよ、香苗は馬鹿だなあ」



馬鹿じゃないよと言いながらやはり香苗は笑っている。

ほっとしたのかカシスソーダをちびちびと舐めるように飲み、酔いもあるのだろう赤い顔を向けてくる。



「……どんな人なの?」



聞いてやれば待ってましたとばかりに香苗は話し始める。

どこで出会ったとか、どんな人だとか。どういう性格で、どんなふうに接してくるのだとか。

初めて人を好きになったみたいにきらきらした顔で語る彼女は随分とまぶしく見えた。



「相談だっていうからびっくりしたじゃん。まあ、付き合うとかじゃないあたりが香苗だなって思ったけど」

「つ、付き合うなんてとんでもないよぉ……」



「そんなことになったら恥ずかしくて死んじゃう」と照れる香苗を見てまたぐび、と酒を煽る。

ぼんやりした様子はあるものの、おそらくその様は女性らしく、可愛らしいものである。

そんな姿にむらりと薄ら暗い気持ちが湧いた気がしたがすぐさま表情に出ないように繕った。



「でもね、鈴ちゃんには知っててほしくて」



香苗の小さくふくよかな手が私の手を取る。

冷たい私の手とは対照的に、彼女の手はぬくかった。



「鈴ちゃん、私のお姉ちゃんみたいな……頼りになる友達だもん」



ごくり、酒も飲んでいないのに耳の奥で音が鳴る。

自分が唾を飲み込んだ音だと頭の片隅が認識する。

酔ってもいないくせにぐわんぐわんと頭が揺れているような感覚がして、それでも私は。



「……香苗はいつまでたっても、私の妹だから仕方ないね」



そう言って笑いながらまた何かを殺して。

灼けるような喉の痛みと共に言葉を飲み下した。


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