09:どっかで聞いた事がある
……はい、3ヶ月ぶりの更新ですね。
今更何を、と言われても仕方ないですが、とりあえず更新しました。
今年は受験なんで、とてもスローになります。
「剥き出しのコンクリートに、割れた窓ガラス……まさに“それ”って感じだな」
篠原さんが建物を見回して言った。雰囲気は今にも“出そう”で、かなり怖い。
ふいんきと雰囲気を間違えちゃダメだぞ、親父もよく間違えてた……って何を考えてるんだ。
割れた窓ガラスから下を覗く。落ちても死ぬことは無さそうだ。二階だし。
何かが襲って来たら、ここから飛び降りてやる。
そういえば、と俺は篠原さんに話しかけた。
「篠原さん、部長とはどんな関係なんですか?」
今までの篠原さんと部長の関係、物凄く悪いようだった。二人とも性格は違うような気がした。しかし、どことなく似ているような気もする。
軽く地雷のような気もしたが、俺は迷わず踏む! 多分、爆発するのは篠原さんだから。しかし篠原さんは冷たい視線を送りこんだだけで、何も答えてくれなかった。
すいません篠原さん、何か話して下さい。恐怖で押し潰されそうです。……とは情けないので言えない。良い話題でも無いかな。
そんな事を考えていたが、少し時間が経つと篠原さんの方から話しかけてきた。
「浅田、お前は他人に見えない物が見えて嬉しいか?」
やけに真剣な眼差しで言われて、俺は戸惑った。そんなの当然、NOだ。確かに一度くらいは幽霊とか、そう言ったのを見てみたいと思っていたが、毎日見えるってのは何だか不安だ。俺は霊を祓ったりは出来ないのだ。
いわゆる『霊感があって霊を連れてくる人間』かもしれない。そんな人間はどんな話でも怖い体験をしている。
「嬉しく無いです。見えても得な事はあまり無さそうだし……」
俺がそう答えると、篠原さんは満足したように前を向いた。
一体、この人は何故こんな事を聞いたのか。後日、篠原さんに聞くとすぐに教えてくれた。
「そう思う人間なら、自分から危険な場所には行かないだろ? お前の身近に自分から危険な場所に行く人間はいるが、どうにか回避してくれ」
……だ、そうだ。
自分から危険な場所に行く人間、というのは部長の事だろう。俺は確信していた。
さて話は戻って、この場に必然的に出現するものは直ぐに現れた。まず始まりはベターなラップ音だった。
「何か聞こえますね……」
「そうだな」
怖がって下さい、篠原さん。じゃないと俺が怖がれないじゃないですか。心霊現象は段々、ダイレクトなものになっていった。
例えば、窓に手形が大量についてたり、廊下の先の部屋から青白い少年の顔が覗いてたり、いきなり足を掴まれたり……。足首に手の形の痣がしっかりついてました。
「怖く無いんですか!?」
何かもう、俺は怖いというよりイライラしていた。どっかで聞いたことのある現象ばかりだが、怖いだろこれは!
しかし篠原さんは日常茶飯事だと言って軽く流す。こんなんが毎日あったら困るっての。
俺は篠原さんの手を引っ張って建物の中を練り歩き、現象が起こる度に篠原さんに怖いか聞く事にした。
「これは!?」
天井から人の上半身が垂れ下がっている。しかし篠原さんは片手で払いのける。手は上半身をすり抜けた。腹が立って霊体を殴ろうと、無茶苦茶に殴っていたら上半身は消えた。
「じゃぁこれは!?」
線が繋がっていない電話の受話器から
『助けて、痛いよ……熱いよ』
……だとかが聴こえてきている。しかし篠原さんは受話器を受け取り
「ここは病院じゃない」
とだけ言って受話器を元の場所に戻した。俺は蹴りで電話を粉砕する。
「これならどうだ!?」
窓の外を指差して言う。そこには大量の人が張り付いているのだが、篠原さんはお辞儀をしただけで先に進もうとする。一発でも殴ってやろうと窓を開けたら大量の人は一瞬で消えた。度胸の無い奴らだ。
さらに歩いていると二人の人影を発見して駆け寄って、篠原さんに何度目かわからなくなってきた質問をする。すると篠原さんは、
「怖いというよりは面倒臭いやつだ」
と、渋い顔で言った。俺は懐中電灯を取り出して、二人の人物に光を向ける。幽霊だと思っていたそれは、部長と岸本だった。その背後では息を切らした幽霊達がいた。
「強気攻めの浅田君もいいかも……」
などと、岸本が呟いていた。こいつの方が幽霊より恐いし、何故こいつは漫画研究部に入らなかったのか、というのが最大の怪奇現象だ。
部長は俺を見て苦笑していた。今の俺は必死になりすぎて、かなり息が上がっていて、形相も酷いものだと篠原さんに言われた。
俺が平常心を取り戻して疑問に思ったのは、やはり部長と岸本の後ろにいる力尽きた幽霊達だった。学生と思しき人物から老人、赤ちゃん、はたまた運動万能そうな人物からインドア派に見える人物まで色んな人がいた。
俺は何を質問すればいいかわからなかったのだが、篠原さんが全て教えてくれた。
「全部、やらせだ。町内の恨みつらみが全く無い奴らに協力して貰ったんだよ。毎年、新入部員が入るとやってるんだが……今回はお前の暴挙で逆に霊の奴らが疲れ果てたんだよ」
全てを理解した俺は、まず霊の人達に謝る事にした。今回の現象が全部、怨霊だったら、と考えるとゾッとする。
篠原さんが心霊現象を日常茶飯事だと言ったのは、町内の霊達だったからだ。そりゃ町内にいるなら、毎日会うだろうな。
外で待っていた、角浜先生は話を聞いて笑っていた。しかし俺の背後を見て顔をひきつらせる。
何事かと、俺は後ろを振り向いた。するとそこには、朝の踏切で出会った女の子の幽霊がいるではないか。
女の子はどうやら俺と同い年くらいのようだ。俺がひきつった顔をしていると、女の子は口を開く。
『私、樋口 要。よろしくね』
……はい? よろしくとは一体、なんだ。




