06:見分けがつかない
いつもと同じ通学路。
昨日と同じ自転車。
少し気温は下がったが大差は無い。
だけど何か違う気がする。
一つはオレに霊感が出来て妙に緊張していること。
「くっそ〜!!」
もう一つは今日に限って物凄く遅刻をしてしまったのだ。
三年前から使っている自転車の車輪が限界を迎えて、錆びた甲高い悲鳴をあげる。
それにも構わずペダルを漕ぎ続けた。
清々しい朝、だとか言ってられない。
むしろ眩しい朝日が邪魔くさい。
今日は本当に運が無い。
母さんは早朝から仕事で優奈は気が付いたらいなかった。
しかも目覚まし時計は電池切れ。
頼みの綱の霊の親父に至っては
「面倒だから起こさなかった」だからどうしようもない。
…今日はとことん運が無い。
よりにもよって開かずの踏み切りと噂の場所が通り抜けようとした直前で無情にも黄色と黒のストライプが立ちふさがったのだ。
貧乏揺すりをしながらなかなか来ない電車を待つ。
普段なら無理矢理、通るのだが霊の存在が絶対的なものになった以上は危険はおかしたくない。
ハンドルに肘を置き、頬杖をついてひたすら待つ。
カバンから携帯を取り出し、時間を確認する。
数字を横に並べた時計はきっちり秒数まで表示しており余計に焦った。
やっと電車がだす独特の音が遠くから聴こえてきた。
田舎を通る電車なので一両か二両しか無いという格好悪さ。
バスを使った方がいいのではないかとすら考える。
焦っても仕方ないので踏み切りの向こう側を見つめた。
そこで小さな女の子がいることに気付く。
と、今までの行動が全て見られていたのかと恥ずかしさを覚えて頬が熱くなった。
女の子はキョロキョロと右や左に目を泳がせていた。
そして目の動きを止めオレを見つめる。
オレは色白だな〜、などと他愛の無いことを考えていると女の子は予想外の行動に出た。
なんと線路の上に飛び出したのだ。
そしてそこにうずくまり地面を見つめている。
電車の姿はすでに視認できる程、近付いて来ていた。
―何でブレーキかけないんだよ!
心の中で悪態をついて自転車を降り、駆け出そうとした。
が、後ろから襟を何者かに掴まれ首がしまり中に入れなかった。
電車が来て、女の子が消える。
オレは呆然と女の子がいたあたりを見ていた。
後ろから襟を掴んだであろう人物の声が聴こえた。
「危なかったな。」
―危なかった、だって?
オレは怒りを露わにして後ろに振り向いた。
もし止められなければ女の子を助けることが出来たかもしれないのに。
だが後ろにいた人物を見て驚いた。
男言葉のくせに何と女性だったのだ。
声も女性の中では低く容姿もカッコイい、といった感じ。
それにオレと同じ中学校の制服を着ていた。
まぁ、別にそんなことには驚いてはいない。
重要なのは名札だ。
制服と共に選択してしまったのか、紺色の布の上に白で書かれた名前はぼやけているが、ちゃんと読める。
3-2 篠村 と。
つまりこの人があのオカルト部の副部長のようだ。
「どうした、私の顔に何かついているのか?」
声を聞いて思わず、ビクッとして思う。
―渋い……。
「人助けはいいが、気をつけろよ。わかりにくい奴の中には質が悪い奴らもいる。自分が死んだ事を、自覚してる奴らは特にな。」
篠村さんがそう言い目を細め、オレの後ろを睨む。
つられてオレも振り返った。
女の子が地面にうずくまり泣いていた。
【影を見たらわかるわよ。】
ふいに先生に言われたことを思い出し女の子の足下をみる。
―影が、無い。
女の子はクスンクスンと泣いていた。
そのまま段々、女の子の姿が透けていき消えていく。
オレは何故だか女の子が可哀想に思えた。
死んだのにこの世を離れられずに留まり、何度も死を体験する。
まさに地獄ではないだろうか。
ふと篠村さんを見ると、こっちを見ていたことに気が付いた。
思わずよからぬ考えがよぎる。
「お前、あれが可哀想とか思ってないよな?」
「へっ?」
反射的に聞き返す。
あまりにも質問が的中しすぎていたからだ。
篠村さんが溜め息をつく。
「わかってるのか? あれはお前を道連れにしようとしたんだぞ?」
そうなのか?
てっきり何度も死ぬ寸前の行動を繰り返しているのかと思った。
篠村さんが先ほどより大きな溜め息をつく。
「そんな考えを持っていると、憑かれるぞ?」
オレはその言葉に青ざめる。
――取り憑かれるなんて冗談じゃない!
頬を叩いて気を取り直す。
いつの間にか踏切は渡れるようになっていた。
ペダルに力を込めて車輪を滑らす。
篠村さんもついて来る音がして、振り返る。
その時、気付いた。
女の子がこっちを見ていた。
……why?
ていうか、What up?




