05:家庭も大切に
「えっ、リュウちゃん部活に入るの?」
母さんは少し驚いた様子だ。
それもそのはず。
オレは面倒くさいから部活に入らなかった駄目人間なのだ。
優奈が母さんの後ろから紙を覗き込む。
途端に顔をしかめた。
「よりにもよってオカルト部〜!?あんた、そこそこ体力あるんだから運動部に入りなさいよ。」
生憎、オレの体力はお前程では無いのだよ優奈。
優奈は今でこそ部を引退しているが元軟式テニス部に入っていて地区大会の優勝は当たり前というレベルだった。
ってこれは体力の問題じゃないな。
「別に何だっていいだろ〜、優奈の体じゃないんだから。」
まぁ岸本の存在によって数日で辞める可能性が大だが。
基本的に母さんは何でも許可をくれる人だった。
いわゆる放任主義である。
さすがに怪しげな部活だったため多少は渋ったがすぐにサインしてくれた。
「え〜、マジで龍起をこんなのに入部させちゃうの!?」
優奈が講義をするがお母さんはニコニコと笑っているだけだ。
サインを消そうとはしない。
優奈がしきりに
「何で何で〜!」と言い続ける。
すると母さんが口を開いた。
「だって、こんなに目を輝かせてるリュウちゃんなんて久々じゃない。」
そう言った時、やかんのお茶が湧いたのか水が蒸発する音が聴こえて台所に行ってしまった。
オレと優奈は呆然としている。
ハッとしたように優奈がオレを見た。
思わず身構える。
しばらく睨み合いが続いた後、優奈が諦めたようにソファーにもたれ掛かった。
そしてオレに話しかけてくる。
「あ〜あ、やっぱり龍起はお父さんに似てるね。いっつも『オレは親父には似てない!』って反論してお父さんが好きだったものから離れようとしてたけど結局、最後は似た者同士なのね。」
言い終わると何を思ったかソファーから飛び起きて素振りをしながら自分の部屋へと消えていった。
「オレが親父に似てる…か。」
そう言えば親父もこういう幽霊とかが大好きだった。
多分、親父の本棚にはまだびっしりとその手の本が並んでいるのだろう。
オレは親父をどう想っていたのだろう。
親父がいなくなって何を感じたのだろう。
答えはいつもすぐそばにある。
机に置かれた母さんのサインが書かれた紙を取り、自分の部屋に戻った。
明かりをつけてベッドに飛び込む。
ふわっと布団が宙を舞い、ゆっくりと落ちてきた。
『リュウ、お帰り。』
横を見ると親父がいた。
穏やかな表情で窓の外を見ている。
もうオレは否定しない。
「ただいま。」
本当は親父がいなくて寂しかったんだと思う。
だから親父が好きなことを否定して、寂しさを紛らわしたかったんだと思う。
ほんの…ほんのちょっぴりだけ、見えることに感謝しよう。
「よっしゃ!」
オレはベッドから跳び上がるように起きた。
親父がびっくりしてこっちを見る。
「何で見えるようになったかも、校長が何者かもわからないけど、せっかく見えるんだからこれで楽しんでやるか。」
一人で宣言してみた。
親父がしばらくの間、驚いた顔でこっちを見ていたがふっと顔をほころばせる。
『青春ドラマじゃないんだから…何叫でるんだ。古臭っ。』
こ…こんにゃろう…。
殺す…ってもう死んでるな。
「クソー!馬鹿親父がぁ!」
とりあえずやけくそで枕を投げたがそれは親父の体を通り抜け、後ろの観葉植物にぶつかる。
派手な音をたてて植木が倒れた。
『当たるわけ無いだろう?』
少し小馬鹿にしたように言う。
ならば、とベッドから降りて直接、親父を叩くが当たらない。
それでもがむしゃらに殴ろうとしてみた。
「龍起……。」
声が聞こえて振り返ると優奈がドアを30cm程、開けてこちらを見ていた。
…いつから?
「学校で嫌な事があったらちゃんと言ってね。お姉ちゃんはいつでも龍起の味方だから。」
「ち…違うって!これは…」
しかし優奈はオレの言葉も聞かずただ頷きながらドアを閉めた。
部屋がシンと静まり返る。
オレには親父が見えるが優奈には見えてない。
端から見るとオレは……
オレの背後から抑えた笑い声が聞こえた。
殴りかかろうかと思ったが同じ過ちを繰り返したく無いので諦めてベッドに飛び込む。
数分間、目を閉じて冷静になったがまだムシャクシャしている。
とりあえず部活の事を考えた。
まずは部長。
今のところ変なところは見当たらない。
いや、真面目にあの部活をやっているだけでも変だな。
次に岸本。
こいつは警戒しなくてはならない。
一番の変態はこいつだろう。
危うく学生服を脱がされるところだった。
篠村 涼子は…よくわからない。
部活には三年生になっても来ているらしいが、今日は見当たらなかった。
幽霊…なんてオチでは無いと思う。
見えなかったし。
あとは顧問の角浜先生。
どうやらあの人も見えるらしい。
性格は陽気…でいいのか?あれは。
なんとも言えないな。
第一印象はこんな感じだ。
副顧問はいるのだろうか?
…いてもまともに来ていないだろう。
…明日も岸本が襲ってくるのだろうか?
「あ〜、もう寝る寝る!」
考えても仕方がない。
オレはベッドに崩れ落ちた。




