自分サポートキャラだけどヒロインは恋愛フラグ全折りしてた
どうやら自分は、いわゆる“サポートキャラ”という立ち位置らしい――
前世でプレイしていた“胸きゅん♡ぷりんす”という学園物の乙女ゲームの世界に転生していたらしく、つい今さっき、唐突にその記憶を思い出した。
「どうしたのよ秀蔵。そんな所に突っ立って」
秀蔵とは今世でのわたしの名前で、今話しかけてきたのがヒロインだ。
わたしが転生したのは、謎の諜報能力で攻略対象の個人情報を調べ上げ、その情報をヒロインに横流しする一つ下のヒロインの弟。
因みに弟は攻略対象ではないが、攻略対象を落とせずフラれるとEDで慰めに来て攻略のコツを教えてくれる。
「え、えーっと……姉ちゃん、せっかくの夏休みなのに毎日家でゴロゴロしてて、誰かと出かけたりしないのか?」
「誰かって?」
ヒロインは居間のソファーに仰向けに寝転がり、スマホをポチポチと操作している。
「冴木陽彦とか……」
冴木陽彦。ヒロインの幼馴染みでメインヒーロー的なポジションだ。性格は爽やかで面倒見が良い。
「てる? あいつ、最近彼女出来たって」
「え? そ、そうなの?」
手に持っていたスマホのロックを外し、画面にあるハートのアイコンをタップしアプリを起動する。ズラリと並ぶ“胸きゅん♡ぷりんす”の攻略対象の名前。
彼らの名前をタップすると、電話番号や誕生日等の個人情報とヒロインに対しての好感度が表示される。
そういえば、このアプリ、いつインストールしたんだっけ?
そんな疑問がふと浮かんだけど、多分これはサポートキャラとして転生した自分のチート能力なんだろう。深く考えるのをやめた。
冴木陽彦の名前をタップすると、好感度ケージが消えていて“攻略失敗”の文字。
他の攻略対象の情報も確かめてみたが……全員“攻略失敗”の表示が出ていた。
いやいやいや……ここは乙女ゲームの世界だよね?
“胸きゅん♡ぷりんす”はヒロインが高校に入学した所から物語が始まり、卒業式に攻略対象に告白し恋を成就させるのが目標だ。
EDまでは同時進行で複数の攻略対象とイベントを進める事も可能だが、重要なイベントで選択肢を間違えると攻略失敗となってしまう。
今はまだ、一年目の夏休みだ。既にフラグ全折れでバッドED確定とか早すぎだろ……そういえば、ヒロインである姉に攻略対象の情報を教えてほしいと言われた事はない。
そうなると、サポートキャラである自分の存在意義って……。
茫然自失のわたしを余所に、ヒロインはスマホをポチポチポチポチ……。
「姉ちゃん……さっきからずっとスマホいじってるけど、何かゲームでもしてるのか?」
「え? 別にどうでもいいでしょ」
ポチポチポチポチ……。
自分のスマホをポケットにしまい、ヒロインが操作しているスマホをスッと横取りする。
「ちょっと!!」
見るとそこにはやたら露出度が高い女の子のイラストが……画面上にはボーナスタイムという表示と、女の子をタップしよう! という文字が出ている。
「え、何これ……」
「返しなさいよ!」
取り返そうと手を伸ばしてくるヒロインを避けながらスマホ画面をタップすると、それに反応したのか恥ずかしげに顔を赤らめる女の子……。
「もう! いい所なのに!」
ヒロインはわたしからスマホを奪い返し、ブツブツ言いながらもスマホの画面に集中しながらタップしている。
「それ……ギャルゲーってやつ?」
「“ピチピチ♡乙女天国”っていうアプリ。今推しのボーナスタイム中だから邪魔しないで」
ポチポチポチポチ……スマホ画面をタップする彼女の表情は真剣そのものだ。
「姉ちゃん……リアルの恋愛には興味ないの? 身近にイケメンの知り合いいっぱいいるのに……」
乙女ゲのヒロインが恋愛そっちのけでゲームに夢中って……しかもハマっているのはギャルゲーって……。
「イケメンとか1ミリも興味ない。恋愛イベントとか拷問だし。フラグも全部折ったし、わたしはもう卒業まで二次元に青春を捧げるわ」
ん? 恋愛イベント? フラグ?
まさか、ヒロインもわたしと同じ――
「あー……どうせ主人公に転生するなら、ギャルゲーの世界が良かったわー」